第220話 弓聖
Side:弥愁 未来
「次です……」
私は斧を持つおじさんに刀を向けてそう言った。
「ふっ……大したガキだ。だが未来を予知できる嬢ちゃんなら、この後どうなるか分かってるんだろう?」
斧のおじさんはそう言って不敵に笑い、左手を高く挙げる。
これは多分、「弓聖」への合図!
「キンちゃん!」
「来たわねん! パーンプアーップ!」
キンちゃんが「極体」スキルを発動したと同時に、中国軍の精鋭達がこの場から離れていく。
「あばよ嬢ちゃん! もし生き残っていたら、またリベンジに来るとしよう」
斧のおじさんが撤退していくと同時に、空に光が見えた。
「来たぞ!」
大地さんが空を見上げて叫んだ。
空に現れた一筋の光、おそらくあれは「弓聖」の攻撃。
夜の空を明るく照らす光は、だんだんと私達の方に迫ってくるのが分かる。
「龍纒……二人とも、後ろに隠れてください」
キンちゃんはいつもとは違った低い声でそう言った。
そしてキンちゃんの後ろに私と大地さんが隠れたその直後、凄まじい速度で飛来する光がキンちゃんに直撃した。
「フン!」
――ドーン!
光の矢が直撃し、周囲を爆音と閃光が包む。
数秒経つと、耳をつんざく爆音と目を開けられない程の光は収まった。
「キンちゃん?」
私は目を開け、光の矢が直撃する前と同じ状態で佇むキンちゃんに声をかけた。
「ご安心を、この通り無事ですよ」
そう言って振り向くキンちゃんの体には、どこにも傷は見当たらなかった。
「ふう……良かった」
未来視で事前に分かっていたとは言え、流石に心配した。
だけど無傷のキンちゃんを見て、思わずそう呟いていた。
「真壁さん、見えましたか?」
安堵する横で、大地さんが真壁さんに通信を入れる。
さっきの光の攻撃は、どこかに潜伏する「弓聖」の超遠距離狙撃で間違いない。
だけど距離がありすぎて、私の未来視じゃ「弓聖」の居場所は特定できなかった。
だから事前に、博多で待機している真壁さんに連絡を入れて、どこから攻撃が飛んできたかを確認してもらう手筈になっていた。
大地さんの通信に応答する真壁さんの声が、私の通信魔道具にも聞こえてきた。
『弓聖は見つけたよ。こっちはおじさんに任せて、君達は目の前の敵に集中していいよ』
「了解」
真壁さんが「弓聖」を抑えてくれている間に、私たちは中国軍を一掃する。
「未来、敵軍が居ないうちに未来視を頼む」
「はい」
大地さんにそう言われた私は、未来視を発動する。
事前に予知していた未来はここまで、ここから先はまた未来視で見る必要がある。
未来視は遠い未来になる程、幾つも分岐した未来になっちゃう。
未来が分岐し過ぎているとその分ソウルの消費も激しくなるし、一つの未来を確定させるのにも一苦労になる。
だからある程度状況が進んだ後に未来視を使うことで、ソウルの消費を抑えることができる。
未来視を発動してすぐに、私の目にはある一つの未来しか見えなかった。
「弓聖が――」
『弓聖がくる』、そう叫ぼうとしたけど遅かった。
私達の前に、さっき中国軍が現れた時と同じ空間の歪みが出現した。
「人使いが荒いっすよね〜、ランジュさんは」
「その口を閉じろチェン。ここは戦場だ」
歪みから現れたのは大きな弓を持った赤い短髪の女の人と、キノコヘアーの男の二人だった。
ランジュさんと呼ばれていた赤髪ショートの女性は、多分「弓聖」ウー・ランジュ。
「弓聖」は私達三人をそれぞれ見た後、その視線を私の所で止めた。
「お前が弥愁未来だな? 悪いが始末させてもらうぞ。恨むなら、『勇者』のジョブを得た己の運命を恨むがいい」
真壁さんが抑えてくれる予定だったけど、失敗した。
転移系のユニークスキルを持った人が、「弓聖」の直ぐ近くにいることを失念してた。
直後に、再び真壁さんから通信が入った。
『すまないねぇ。まんまとしてやられたみたいだ』
***
Side:真壁 正義
中国の領海に佇む一隻の戦艦から、特大の光が放たれたのを確認した。
いったい大地くん達のいる大分市まで何キロあることやら……もはや弓矢っていうより、弾道ミサイルか何かだよねぇ。
『弓聖は見つけた。こっちはおじさんに任せて、君達は目の前の敵に集中していいよ』
大地くん達から弓聖の居場所特定を任されていた僕は、直ぐに博多空港から輸送機に乗って弓聖の元へと向かった。
輸送機に乗って最速で、僕は弓聖のいる戦艦に降下した。
「久しぶりだねえランジュちゃん。悪いけど、おじさんが相手だよ」
「誰かと思えば、『処刑人』様のお出ましか」
その呼び名、僕は好きじゃないんだけどねぇ。
「我々が一番警戒していたのはお前だよ。貴様のユニークスキルは危険すぎるのでな? チェン!」
ランジュちゃんが誰かを呼ぶと、背後から男が現れた。
「へいへい……わかってますよ〜」
チェンと呼ばれた男がそう言うと、二人の背後に歪みが生じた。
まさか……転移?
直ぐに剣を抜き、ランジュちゃんに斬りかかるが――
「さらばだ処刑人」
――ブン!
僕の剣は空を斬った。
そして既に、ランジュちゃんとチェンという男の姿は無かった。
「やられたねぇ……」
弓聖を足止めするはずが、逆に僕が足止めされることになるとはね。
戦艦の甲板に立つ僕の周囲を、中国軍の兵士が取り囲んだ。
「すまないねぇ。まんまとしてやられたみたいだ」
大地くんに一言、詫びの通信を入れた僕は、取り囲む兵士達に向き直った。
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