第219話 その目に宿すは覚悟と希望の光

Side:弥愁 未来




 私が視た通り、中国軍が奇襲を仕掛けて来た。


 そして私達三人は中国艦隊が現れたと言う海岸付近の映像を、マジックアイという魔道具で確認していた。

 

「あら〜こんなに沢山の戦艦、どうやってここまで来たのかしらねん?」


 海岸沿いで監視を担当していたクランの代表さんの視界を、マジックアイで共有してもらっている。


 海岸沿いには数十隻の艦隊が押し寄せていた。

 

「海上自衛軍の包囲を抜けて、ここ大分まで九州の南側を迂回してきた? 有り得ないな……そんな動きはなかったはずだ」


 地理的に、九州の北側から大分にやってくるのは難しい。

 自衛軍が海上で目を光らせてるし、北九州と下関の間は入り組んでいて、他国の侵入は困難なはず。

 

「まあ、転移系のユニークスキルかしらねん? あんまり聞かないけど、注意しておきましょう」


 キンちゃんの推測は多分正しい。


 私の未来視でも、突然敵が現れた様に視えた。


「未来、もう一度未来を視られるか? もっと情報が欲しい」


 大地さんにそう言われ、未来視のスキルに意識を集中しようとした時だった。


 海岸から少し離れた、大分駅にいる私達の目の前の空間が歪んだ。


 歪んだ空間は直径三メートルくらいの円になって、その中から数人の中国軍の兵士が出てきた。


「お? ラッキーラッキー! ターゲットの目の前じゃん!」


「気が乗んないな〜 早く始末して帰ろうよ」


 歪んだ空間から、次々に人が出てくる。


 どの人も、相当な実力を持った探索者に見えた。


「未来、あなたは攻撃を避けることに専念してくれるかしら? 避けるのは得意でしょ」


 キンちゃんからは、いつも以上の緊張感が伝わってくる。

 

「そうだな。俺達でこいつらをやる。だが数が多い、時間を稼いでくれ」


 大地さんは、すでに槍を構えて臨戦態勢に入った。


 私たち三人の前に現れた兵士は、最終的に十一人まで増えた。


 周囲を囲む様に展開した兵士達は、私達の会話を聞いて笑った。

 

「ハハ! ガキ守りながら俺たちをやるだって? それは無茶が過ぎるってもんだぜ……村雨大地くん?」


「そうそう、俺達は『勇者』のガキを始末したいだけなんだよ……大人しくガキを渡せば、魔術師のオッサンとお前は見逃してやるよ」


「「「っ ! ?」」」


 私達は、三人共驚愕した。


 私が「勇者」のジョブに目覚めた事は、「龍の絆」のみんなとごく一部の人しか知らない。

 私の事を何も知らない他の探索者達は、有用な「未来視」でサポートをする人員としか思っていないはず。


 それなのに彼らは、私の秘密を知っている。


「お前らが……なぜそれを知っている?」


 大地さんが正面の男に槍を向ける。


「別に――どうでも良くね?」


 大地さんの正面の男が、私の目の前に突然現れた。


 いつの間にか男の手に握られた短剣が、私の喉元に迫る。

 

 早い――このスピードに短剣、おそらくジョブは「暗殺者」。


『あなたは攻撃を避けることに専念してくれるかしら?』


 避け続けることは、確かに簡単だよキンちゃん……


 攻撃する事を考えなければ、戦闘中に考えるリソースを「未来視」に回せる。


 だけどそれじゃあ、キンちゃんと大地さんがこの数の猛者を相手にしないといけなくなる。

 

 私はもう逃げない!


 もう目の前で、大事な人が傷付くのは嫌だ。


 もう二度と、私の眼にそんな光景は映らない。


 私は最速で、腰の刀を抜刀した。

 

「真雪嶋流抜刀術――聖光残月せいこうざんげつ


 黄金の光を放つ三日月が、私の喉元に短剣を突き刺そうとした男の体を通過した。


 一瞬の出来事に、男は何が起きたか分かっていなかった。


「あ?――」


 そう男が声を上げると同時に、男の上半身がズレる。

 

――ドサリ


 腹のあたりで上下に両断された男の上半身は崩れ落ち、そして動かなくなった。


「……未来、ごめんなさいね」


 キンちゃんが、私にそう言って来た。


 謝らないでよキンちゃん……これが、私の選択だから。


「私も戦うから……みんなで生きて帰るんだから!」


「無理はしないで」


 私を襲った男がやられると、敵の兵士の顔つきが変った。


 見下す様な表情はどこかへ消え、辺りを緊迫した空気が漂う。


「いやぁ……怖いねぇ、最近の若い子は……」


「全くだ……どんな人生を歩んだら、その歳で人間を真っ二つにできる?」 


 彼らから、油断はもう消えた。

 もう一人目の男の人みたいにはいかないかも。

 

 でも今の私なら、私の望む未来を手に入れられる。


 私は抜刀した刀を、今一度鞘に収める。


「真雪嶋流抜刀術・聖光残月」は、「残月」という雪嶋流の抜刀技に、私の「聖剣術Lv1:聖閃せいせん」を上乗せした技。


 抜刀術本来の剣速に、「聖閃」というスキルの剣速が上乗せされることで、神速の一刀になる。

 そして神聖力を纏った剣の軌跡は、黄金の三日月を残す。


 今まで習ってきた「雪嶋流抜刀術」、そして勇者としての力、更には「未来視」を合わせれば……私はどこまでだっていける。


 御崎さんの様な勇者に……私もなれる。


 みんなに好かれ、頼られる人になる。


 お父さんお母さん……見ててね。


 悪夢に怯えて、泣き叫ぶことしか出来なくてごめんなさい。


「聖纏――」


 神聖力を纏い、腰を落とし、左手で鞘を握り、右手で柄を握る。


「真雪嶋流……聖月斬せいげつざん!」


 抜刀と同時に刀に込めた神聖力が黄金の斬撃となって、奥の魔術師の女の人に向かって飛んでいく。


「っ ! ?」


――ドーン!


 斬撃を直前でガードした女兵士は、斬撃の余波で吹き飛んだ。


 それを機に、止まっていた戦場が動き出した。


「チッ! 油断するなよお前ら! ガキを最優先で仕留める!」


「「「おう!」」」


 魔術師の人が離脱して、この場の残る敵は九人。


 大地さんに魔術師と槍士の二人が突撃し、キンちゃんには前衛職の三人が突撃していく。


 私の方に残りの四人が攻撃してくる。


 未来視を発動した私は、この場の状況を的確に把握する。


 私が「勇者」だって知ってたのもそうだけど、多分キンちゃんと大地さんの力量も把握されてる。

 どこまで知られているかは分からないけど、もしかするとキンちゃんのソウルスキルも知られているかも。

 

 どうやって敵がその情報を知ったかは、今はいい。


 今は目の前の四人を倒す!


 四人の男が私を取り囲む。


「この嬢ちゃんは未来を予知できるらしい、後ろ取ったからって気を抜くなよ?」


「わかってますって、予知にも限界はあるでしょう。四人でやれば直ぐ終わるっすよ」

 

 斧が一人と槍が一人、それから剣士が二人。


 剣士二人が左右から同時に攻撃してきて、斧と槍の人が隙を突いてくる。


 まずは、槍の人から。


「おじさん達、国に帰るなら今ですよ?」


 イラついた剣士の二人が、これで突撃してくれる。


「舐めるなよガキが!」


「穿剣!」


 視界の両端から、銀色の剣が近づいてくる。


 左右から突き出される剣が私に触れる直前、一歩後ろに下がる。


「ハア!」


――キーン!

 

 左右から突き出された剣が交差するタイミングで、私は上段から剣を振り下ろした。


 上から叩かれたおじさんたちの剣は、鋒が地面にめり込んだ。


 そして私は直ぐに、右のおじさんに向かってスキルを発動する構えをとった。


 刃を右に向け、そのまま右のおじさんの首を狙う――ように見せた。


 すると私の視た通り、槍の人が私の背後から攻撃を仕掛けて来た。


「終わりだぜ嬢ちゃん!」


「馬鹿野郎! 罠だ――」


 私は体を捻り、その遠心力を乗せて刀を横薙ぎに振った。

 

 剣士のおじさんの首を刎ねると見せかけた刀は、おじさんの首には触れずに通過する。


 そして刀を薙ぎながら後方に体を向けると、槍のおじさんと目が合う。


「っ ! ?」


 私の胴体めがけて突き出された槍を、そのまま刀で薙ぎ払う。


――カーン!

 

 槍を大きく弾かれ、ガラ空きになったおじさんに刀を突き刺す。

 

「聖剣術・神罰聖穿!」


 黄金の光を纏った刀が、首元に突き刺さる。


 こちらに突進してきた勢いのおかげで、刀を首元に置くだけでよかった。

 

「ゴハッ ! ?」


 刀を横に捻り、引き抜くと同時に頸動脈を断つ。


――プシャー!


 槍のおじさんは倒れ、残りは三人になった。


「次です……」


 私は斧を持つおじさんに、刀を向けてそう言った。

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