第216話 円卓の騎士
***
SIde:ランスロット王子(イギリス)
:ケンジントン宮殿
私は今、一人の男の生き様を見た。
日本で起こったという謎の勢力による大侵攻。
その当時の、一つの街頭監視カメラに収められていた映像。
『死ぬのは……僕だけで良い!』
男が自身の胸に槍を突き立て、自らの命を絶った。
男が相対するのは、日本に現れた吸血鬼という化け物達の、その中の一体。
その吸血鬼の能力は映像で見る限り、自身のダメージを相手にも負わせるというもの。
なんらかの術で、相手と自身の肉体を連動させているのだろう。
実に厄介。
そんな厄介な能力に対して、男が選んだ選択肢は自害。
この能力に対して、自害は一番簡単に見つかる対抗手段ではあるが、その選択肢を選べる人間がどれ程いようか?
少なくとも、私には出来ないだろう。
私なら、何がなんでも他の解決策を探すだろう。
例え、その間に市民が犠牲になったとしても……
「私とは大違いだな……とても真似出来ない」
私が思わずそう呟くと、私に仕える者達は口々に言った。
「真似されては困りますぞ殿下……殿下は御身の事のみを、お考えいただければ良いのです」
幼い頃から面倒を見てくれていた側付きの爺は、自分のことだけを考えろと言う。
「そうです殿下! 万が一誰かが犠牲にならなけらばいけない状況になった時は、その時は自分が!」
私の代わりに自分が犠牲になると、椅子から立ち上がり声を荒げたのは、『聖騎士』ガウェイン。
「はいはい……お前の忠誠心が高いのは知ってるから、もしもそんな事態になった時は、迷わずお前を生贄にさせてもらうよ」
円卓に座る4人の内、ガウェインの向かい側に座り、やれやれという態度でそう言ったのは、『剣豪』パーシヴァル。
そして私の正面、ガウェインとパーシヴァルに挟まれているのが、光と火と地の適正を持つ『大魔術師』ガラハッド。
ガラハッドは映像と私を何往復もして、映像の男と私を見比べながら言った。
「いや〜しかし……本当に殿下にそっくりですな。殿下が
そう……この円卓の中央にあるモニター、そこに映る日本の探索者は、私に瓜二つだった。
「ガラハッド! そこは気付くべきだろう! それでも殿下に使える騎士なのですか ! ?」
「いや〜俺には見分けられないっすな。ガウェインは見分けられるっすか?」
「当然だ! 何年殿下に仕えていると思っている!」
今日彼らを集めたのは、こうしていつも通り和気藹々と談笑する為ではない。
「コホン!」
私の空気を察したのか、隣に立つ爺が咳払いをする。
爺の咳払いで、彼らは姿勢を正して椅子に座り直す。
彼らの顔を見て、私は告げた。
「日本に向かう。共に来てくれるか?」
言葉は少ない、だけど長年共に過ごした仲だ。
私の真意が伝わっている事は、顔を見ればわかる。
「もちろんです! 殿下が向かわれる場所なら、例え死地であろうともお供致します!」
「やっとか……隠れるのももう疲れた所だったぜ? 自分より弱い奴に、外ででかいツラされんのが嫌だったんだ」
彼らには、イギリス最強……いや、ヨーロッパ最強を名乗れる才能と実力がある。
私の所為で、彼らは表舞台で華やかに活躍する人生を歩めなかった。
だが、それも今日までだ。
「日本に行くって、九州のことっすよね? どの国の味方に付くんすか?」
今九州という小さな場所で、再び世界を巻き込む戦乱が訪れようとしている。
どの勢力に付くか? その選択一つで、我が国は窮地に立たされることにもなりかねない。
だが、私の答えは最初から決まっている。
「決まっている……我ら『円卓の騎士』は、日本に加勢する!」
私の宣言に、三人は力強く返事をした。
「「「はっ!」」」
世界が動き出した……人類史上最大の資源、ダンジョンを求めて。
中国、EU連合、フランス、アジア諸国、加えて時期にアメリカやロシアも動き出すだろう。
歴史上四度目の世界大戦が、今始まろうとしている。
私が生まれたのは、第三次世界大戦の渦中だった。
その最中、母シャーロットは日本人のジャーナリストと恋に落ちた。
そこで生まれた私と兄上は、敵兵から逃れ生き別れとなった。
母は私を連れ、父は兄上を連れて逃げた。
父はおそらく戦死したのだろう、死亡記録が残っていた。
しかし父に連れられた兄上は、記録がなかったのだ。
『ごめんなさいランスロット……あなたをもっと、平和な時代に産んであげたかった』
母の最後の言葉だ。
私は神に誓った。
必ず悲しみの連鎖は断ち切ると……我が身が滅ぶその時までに、必ず世界に平和をもたらすと。
気付けば、拳に力が入っていた。
そんな私の内心を慮ってか、私の隣に座る人物が声を掛けてきた。
ガウェインでもガラハッドでも、パーシヴァルでも爺でも無い、7歳になったばかりの少年だ。
「殿下? 僕はどうすればよろしいのですか? 僕は戦えませんが……」
少年の名前はロト。
表向き、彼は『槍聖』という事になっている。
「ロト。今までありがとう」
ロトの小さな頭に手を乗せる。
「君の影武者としての役目は、今日で終わりだ」
ロトは私の為に、「槍聖」としてこれまで表舞台に立ってもらっていた。
神より授かったこの力を、無用な争いに使わせないためだ。
それに私の産まれは、王家の血筋としては好ましくなかったのもある。
「ロト、これからは自由に過ごして良い。お金の心配はいらない。好きな物をたくさん食べて、たくさん遊ぶと良い。落ち着いたら、学校に行ってみるのもいい」
やむ追えなかったとはいえ、幼子にたくさんの心労を掛けてしまった。
「これからは、私が槍聖だ」
「ようやく、世界が殿下を知るのですな。面白くなってきたっすな!」
「鬼でもなんでもいい、剣の錆にしてくれる」
「殿下は私がお守りいたします。どうぞ、存分に暴れてください!」
私が集めた逸材達も、気合十分なようだ。
神は、愚かな私達をどう思っているのだろうか?
私利私欲の為に殺し合う私達人間は、とうの昔に見放されてしまっただろうか?
神よ……どうか、私達を見守っていてください。
与えられたこの力、平和の為に振るうことを誓います。
そして待っていてください……アーサー兄上。
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