第210話 鬼帝

Side:天道レイナ




 後発の降下部隊を乗せた輸送機が、上空で大爆発した。


――ドーン!


 間に合わなかった……


 もう手遅れだと分かってはいたけれど、逃げろと叫ばずにはいられなかった。


 上空で黒煙を撒き散らしながら、幾つかの輸送機が地上へと落下していく。


『すまない。流石に間に合わなかった』


 修二からはそう謝罪があり、私の横では氷室兄弟が騒ぎ立てる。

 

「おい! 輸送機が爆発したぞ! 何が起こっている ! ?」


「おいおい……あの高度には槍は届かないって話だったろ? 届かないどころか今の攻撃、空の彼方まで消えてかなかったか?」


 攻撃があの高さまで届くなら、降下部隊は格好の的になるわね。


 すぐに作戦変更を想定した私は、修二に被害状況を確認する。

 

「修二、輸送機の被害は?」


『3機撃墜された。3機の被害は甚大だが、生き残りがそのまま降下を開始してる』


 遠くで煙を上げながら落下する輸送機から、生き残りが止むを得ず降下を開始しているのが微かに見える。


「てことは、作戦変更ね。今すぐA級ダンジョンに向かうわ」


 修二に向けてそう言うと、通信魔道具から瀬戸長官の声が聞こえてきた。


『こちら瀬戸、天道隊長の言う通りだ。今すぐオーガエンペラーと思われる個体を始末しなければ、後発部隊が壊滅する。討伐を頼めるか?』


「はい。このまま現場は任せてください」


『了解した。武運を祈る』


 そう言って、瀬戸長官からの通信は終わった。

 

 やるしかないわね……


「作戦変更よ。私が指名する者だけ、A級ダンジョンのある博多駅を目指してちょうだい。他の人は後発の降下がすむまで、付近の雑魚オーガをできるだけ処理して」


『『『了解!』』』


 続けて私が指名したのは、氷室兄弟の二人、そして健とアーサーとセツナさん、それから雪島師範の合計6人。


「今名前を呼んだ人は……覚悟を決めてね」

 

 目標はオーガエンペラー、おそらくネメアクラスとまでは行かないだろうけれど、吸血鬼の侯爵や伯爵程度の力はあるはず。


 全員無事で勝利できる保証は無いわ。


『うむ、了解した』

『了解です』

 

『すぐに合流するっす!』

『僕だって強くなってるからね! もう無様な姿は見せないさ!』

 

 雪島師範とセツナさんに続いて、健とアーサーの返事が返ってくる。


「覚悟か……それほどの強者ということだな! ワクワクが止まらん!」


「センパイ……兄貴は置いていかね? 俺等だけで十分だろ」


「何 ! ? 俺を置いていくつもりか! ならば急げ!」


 兄の戦也は、そう言ってA級ダンジョンの方へ疾走していった。


「私達も行きましょう。時間がないわ」


「へいへい」


 こうして私達は作戦を変更して、少数精鋭でのオーガエンペラー討伐に向かった。


 


 箱崎埠頭から役3キロ程離れた博多駅に向かってオーガを斬りながら走っていると、離れた場所に着陸した健が合流してきた。


「レイナの姐さーん!」


 健はオーガを殴り飛ばしながら、走る私の後ろに合流した。


「柳君だっけ? この人兄貴みたいな脳筋に見えるけど、連れてって大丈夫なの?」

 

 すると同じく後ろを走っている氷室和也が、健を見てそう言った。


 この二人は相性悪そうね……確か同じ学年だったから、気が合うかと思ったんだけれど……

 

「あぁん ? てめえこそ足引っ張るんじゃねえぞ!」

 

「大丈夫だって。お前より強いから」


 仲良くは無理そうね。


 そのまま二人の喧嘩を聞きながらA級ダンジョンに向かっていると、ようやく博多駅が見えてきた。


 大きな駅にありがちな、商業施設と複合した様な建物、その建物の前にオーガエンペラーは居た。


「ガガガ! ヨワイヨワイ! ニンゲンヨワイ!」


 緑色に少し赤みがかった肌の巨大なオーガ。

 背丈は人間の身長三人分くらいの高さもある。


 そして肥大化した筋骨隆々の腕には、先走っていた氷室戦也が吊るされていた。


 戦也の体を剛腕が鷲掴みにし、戦也はその手の中で呻いていた。


「ぐぬぬ! 強いな貴様! 俺は心が躍っているぞ!」


 血を流していて無事には見えないけど、セリフを聞く限り大丈夫そうね。


「フン! ワレ、オドラナイ」


 オーガエンペラーはそう言って、握っていた戦也を私達に投げてきた。


「兄貴! ウォーターウォール!」


 弟の和也が、兄を水魔法をクッションにしてキャッチする。


――バシャン!


「助かったぞ! さすがは自慢の弟だ!」


「さっさとポーション飲んで下がっててよ。邪魔だから」


「そういう訳には――むむ、言う通りにさせてもらおう!」


 言っている途中で体の重傷度合いに気付いたのか、あっさり引き下がる宣言をした。


 さてと……どうするべきかしら。


 オーガエンペラーはパッと見た感じ、貴種吸血鬼の伯爵相当って所かしら。

 死体漁りのミーヴァと同じくらいの魔力と圧しか感じない。

 

 そして幸いにも、周りに雑魚オーガはいない。


 あいつ一人なら、私だけでも倒せそうね……


 そう考えた瞬間だった――オーガエンペラーの背後にあるA級ダンジョンの入り口から、エンペラーと同じサイズの鬼が現れた。


「オホホ! 貴方、獲物は私にも分けて下さいな?」


 ダンジョンの入り口の黒い膜から出てきたのは、薄い黄緑色の肌をしたオーガ。


「おいおい、なんだあれ? 2体目は聞いてないっての」


 和也が横でそう愚痴る。


 新たに出てきた巨体のオーガは、女王の様な豪華なドレスを纏い、頭にはティアラをしている。


 そして手には、魔法使いが使う錫杖を握っている。


――チャリン 


「私の相手はどれにしましょうね〜 悩ましいですわ〜」


 錫杖を地面に突くと、杖の頭についている金属の飾り音を立てる。


「あいつがオーガエンペラーなら、新しく出てきたのはオーガエンプレスってとこっすかね」


 健がそう言ったのも、オスであるオーガエンエラーはいても、メスはダンジョンでは確認されていないからね。


 ダンジョンの魔物じゃないのは確定ね。


 と言うことはこいつら、S級とされているダンジョンのオーガエンペラーよりも確実に強い。


 それに吸血鬼で言うところの血の呪いみたいな、厄介な能力を持っている可能性も高いわね。


 なら、出し惜しみはしないほうがよさそうね。


 私は「換装の指輪」に新しく登録しておいた刀を手元に召喚する。


 それは鞘も柄も刀身も、全てが白銀に輝く刀。

 

 鞘から刀を抜き放つと、突如上空に雨雲が掛かる。


 太陽光が遮られ、周囲は少しばかり薄暗くなる。

 

「今度はこっちかよ……なんか寒気してきたんだけど」


 また和也が口を溢すが、無視して告げる。


「エンペラーは私に任せて。健と和也はエンプレスをお願い」


「うっす! 任せて下さいっす!」


 拳のガントレットを打ち付け、気合を入れた返事を返す健。


「俺一人で十分だよ。健は兄貴と一緒に下がってな」


 和也も気合十分。


「ガガガ! シロイカミノオンナ、オマエ、タノシメソウダ!」

 

 こうして、私達の死闘が始まった。

 

 

***

あとがき


 レイナはステータスを見れないので、代わりに武器のステータスを載せておきます。

 

 龍王国編で英人が手に入れたものですが、なぜかレイナの手元に渡らなかった武装ガチャ産の武器です。

 理由は次回で説明されます〜

 

 _____

 竜神刀・おかみ(S級)

 :地球の神話データを、刀として現界させた物。

  水、雨雪を司る模神刀。

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