第206話 第一上陸作戦概要
Side:天道 レイナ
休憩はあっという間に終わり、会議が再開された。
「それでは話の続きだ。福岡市と北九州市の二面作戦であるが、両面ともにやることは同じだ」
父がそう言うと、スクリーンに福岡市と北九州市の地図が映る。
「福岡市は博多駅、北九州市は小倉駅に、それぞれA級ダンジョンが位置している。奪還作戦の第一段階は、二つのA級ダンジョン周辺を制圧する事だ。以後はこの第一段階を、『第一上陸作戦』と呼称する」
博多駅も小倉駅も、どちらも海沿いにほど近い場所にある。
このエリアが開放されれば、物資や人員の輸送ルートを確保できるわ。
「問題なのは、九州全体の海岸沿いに配置されている、上陸を監視しているオーガ達だ」
上陸を阻むオーガ達のせいで、大規模な軍隊による上陸は難しい。
海岸沿いに近づくと、オーガによる投擲や魔法攻撃が待っているから、戦艦での接近が難しい。
「戦艦による砲撃や航空支援に関しては、市民の安全が確保できない現状では許可できない。よって諸君等には、空挺降下にる上陸を行ってもらう」
全員が空挺降下することが伝えられると、会場がわずかにざわつく。
「げっ……マジ? 俺高所恐怖症なんだけど……」
「俺もだ……命綱は付けてもらえるのかな?」
「命綱って、バンジージャンプじゃねえぞ? ハハハ」
試した事ないから分からないけれど、ステータスの上がっている私達なら、仮に地面に激突しても死なないんじゃないかしら?
怪我はすると思うけれどね。
「まあ、そう心配するな。装備は最新鋭の物を使う予定だ。安全性は保証するよ」
私達「龍の絆」は英人からそれぞれ貰っている龍装を使えば、航空機やパラシュートなしで降下できる。
逆に他の人達は、航空機が察知されない超高度からの降下になるらしいわ。
「話を戻そう。空挺降下による上陸後、まずは海岸沿いのオーガを殲滅し、船による物資の輸送ルートを確保する。そしてそれぞれのレイド部隊から精鋭チームを編成し、海岸沿いにある病院の制圧を並行して行ってもらう」
福岡方面では九帝大学病院、北九州方面では小倉総合病院って病院ね。
病院を最初に制圧して、後方支援基地とする作戦よ。
支援部隊には陸上自衛軍の部隊はもちろん、クラン「救世の星」の皆さんが担当してくれる。
「海岸沿いと病院の制圧が完了した後、A級ダンジョンへ進軍する。A級ダンジョンの制圧が完了すれば、第一上陸作戦は終了だ」
ここまでの話をまとめると、空から奇襲をかけ、病院と海岸沿いを制圧する。
そして支援ルートを確保したら、市民が連れ込まれているというA級ダンジョンの制圧を実行。
こんな風に、作戦内容自体は簡単に説明できる。
けれど、実際の作戦では何があるかわからない。
病院や福岡空港とかの主要施設には、オーガキングが陣取っているし、オーガエンペラーの存在も懸念される。
もしオーガエンペラーがいた場合、いや十中八九いると思うけれど、熾烈な戦いが容易に予想できるわね。
それに、外国勢力がどのタイミングで介入してくるかわからない。
「第一上陸作戦以降の作戦は、無事A級ダンジョンを制圧し、付近を前線基地として確保した後に伝える」
私は大まかに以降の作戦は聞かされているけれど、上層部はこの場にいる者には伝えない方針をとったみたい。
他国へ情報が漏洩する危険があるのと、今回の奪還作戦では事態の予測が困難だったって言うのもあるでしょうね。
それに、この場では話されていないことも多い。
ブレイバーズの真壁さん達は遊撃部隊として待機する事とかね。
真壁さん達は、外国勢力が介入してきた場合に出動する予定になっているわ。
それからここ池袋の防衛にはミランダさんが、日本の本土全体の防衛にはジンの分身と、海自と陸自、それから公安が保有する特殊部隊が配備される予定ね。
ジンに関しては、九州奪還作戦にも参加する予定よ。
ジンは能力で分身を本体にできるらしいから、一番仕事が多くなっているわね。
「そして予想される軍事衝突についてだが、現在は九州全体を海上自衛軍の戦艦が包囲している。敵の上陸は阻止する手筈だが、万が一突破された場合は戦闘になるだろう。覚悟しておいてくれ」
父はあえて、介入してくる勢力の詳細は言わなかった。
介入が予想されるのは、まずは「斧聖」がいるロシア。
斧聖はあまり表には出てこないせいで情報が少ないけれど、ロシアにいることは確かね。
他にはアメリカや中国が介入してくるかもしれないけれど、タオやレオナルドがどう動くかは分からない。
賢者オルトス様も、良い人だから戦いたくはないのだけれどね。
中国には弓聖がいるから、タオよりはそっちが心配ね。
いずれにせよみんな、味方であることを信じたいわ。
そしてルーシー様のいるフランスだけれど、全面的に日本に協力してもらえることが決まっているわ。
ルーシー様は病院の制圧後、後方支援部隊に参加してくれるみたい。
それから槍聖のいるイギリスは……多分介入はないわね。
槍聖はまだ10歳かそこ等だと言う話だし、戦うことになってもレオナルドやタオほどの実力はないと思う。
他にも東南アジアとか、南米やらEUやら、上げればキリがないけれど、そこまでの武力は彼らにはないはず。
私があれこれと考えている内に、長かった会議も終わりを迎える。
「本日の会議は以上になるが、何か質問はあるかね?」
父がそう言うと、さまざまな質問が飛んできた。
本土の防衛、真壁さんの動き、色々聞いてきたけれど、答えられるものは多くはなかった。
「それに関しては機密保持のため、ここでは述べられない」
こんな風に、たいていの質問はこれで終わった。
だけどそんな中、一人の男がユミレア師匠達について触れた。
「そこのコスプレでしょうか? そちらに座る美女二人はなんなんですか?」
「うむ。彼らについても説明しておこう――」
父はエルフや龍人、それから魔神軍について説明を始めた。
「彼らは地球ではない、別の世界の住人である――」
今世間を騒がせている、英人が魔物を使役し、大侵攻を自作自演したという噂。
世間はそんな憶測を多分に含むネットニュースで溢れている。
回復した鎌瀬社長が経営する、ダンジョン関連のニュースを扱う会社だけ、英人や龍の絆の悪い噂を否定するニュースを流してくれている。
それでも、悪い噂や陰謀論は絶えない。
そこで今回の作戦で、地球とは別の世界があることを公表することに決めた。
そして英人の名誉回復の為に、ユミレア師匠やリュウキの事、魔神軍と呼ばれる魔物の勢力を公表する
今回の作戦でユミレア師匠達が活躍して、作戦成功に大きく貢献する。
それが世間に広まって、龍の絆や父の悪い噂が良い方向に進むと良いのだけれどね。
「――信じる信じないは君達の判断に任せる。今話した事は九州地方の状況と合わせて、作戦開始と同時に国民に公開される予定だ」
一通りの説明が終わった。
会場の探索者達は、ほとんどが信じていない様子だったわ。
「では、質疑応答はこれくらいにしておこう。作戦の決行は2日後、各自で物資や体調を整えておくように。会議は以上だ」
会議終了を告げると、探索者達は続々と会場を後にしていく。
私はそれを見ながら、彼らと日本の未来を憂いた。
みんな無事で……必ず生き残りましょう。
英人さえ目覚めてくれれば、こんな不安はなかったかしらね。
私は押し寄せる不安を無理やり掻き消し、会場を後にした。
***
あとがき(補足)
本編の進行にそこまで重要ではないのでカットした情報ですが、日本にはネットの記事やSNSの投稿、それから個人間の通信をも監視するシステムがあります。
機密性の高い情報の漏洩を防ぐため、投稿や記事を抹消するシステムです。
これによって、一般市民が撮影したオーガの映像や、大侵攻時の吸血鬼の映像はシステムによって即座に削除されています。
なので普通に暮らしている国民は、九州がオーガに占拠されている事実をまだ知りません。
それと上陸作戦の動きですが、Googleマップなどで実際の博多駅や小倉駅周辺の地図を見ていただければ、イメージしやすいかもしれません。
海沿いの病院や福岡空港の位置なども、実際の地図を見ながら考えました。
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