第205話 九州奪還作戦会議

Side:天道 レイナ




 探索者に喝を入れた後、仕切り直した父は作戦の概要説明を先に始めた。


「先に本作戦における事実の確認を行いたいと思う。まず事の発端は東京大侵攻と同時刻、九州地方との連絡の一切が途絶えた――」


 私達が新宿でネメアと戦っている同時刻、九州との連絡が途絶えていたみたい。

 これは自衛軍の通信が途絶えたのもそうだけれど、SNS上でも一般市民の投稿が相次いだ。


 

 東北に住んでいる老夫婦が、福岡に移住した息子夫婦との一切の連絡が着かない。


 長崎に住んでいる友達との連絡が途絶えた。


 九州のローカル局の番組が急に映らなくなった。


 

 あげればキリがないけれど、異変は確かにあった。


 そして四国や中国地方付近に駐屯する海上自衛軍の部隊が、海上から九州の陸地を偵察。

 そのまま大分県の沿岸から上陸した偵察部隊の映像には、襲い来る大量のオーガが映っていた。

 

 偵察部隊は全滅。


 これを受け、九州のあらゆる方角から上陸を試みたが、全て失敗。


 そして衛星写真と映像、マイクロドローンでの偵察を行った。


「マイクロドローンが撮影した映像を見てくれ」


 父がそう言うと、私達の後ろのスクリーンに映像が流れる。


 音は無いけれど、上空からの福岡市の街並みが映し出された。

 

 人の姿は無く、街中を徘徊する鬼の姿が映っている。

 緑色の肌に、筋骨隆々の体、そして額の真ん中からは一本の角が生えている。


 まさしく、私たちの知るオーガの姿。

 

「これは福岡市にある、A級ダンジョン入り口付近の映像だ。見ての通り、複数のオーガ達がダンジョンを出入りしている」


 ダンジョンの入り口である黒い膜から、オーガが出たり入ったりを繰り返している。


 そして映像が進むと、生きている人間の姿が初めて映った。

 

 数十人の女性や子供が隊列を組み、ダンジョンの中へと入っていく。

 その周りでは武器を持ったオーガ達が、ダンジョンへと入っていく市民達を監視している。


「オーガ達が何をしているのか現状では不明だが、大勢の市民が毎日の様にダンジョンに連れ込まれている。数日間監視を続けているが、ダンジョンに入った市民達が外に出てきた様子は無い」


 オーガ達は、ダンジョンに人間を連れ込んで何をしているのか?


 オーガの生態はよく分からないけれど、一番あり得そうなのが食用かしら。

 オーガが人間を食べるという話が前提だけれどね。

 

 それ以外だと、全員では無いけれど、ダンジョンに連れ込まれている人間には女性が多い。

 だからオーガ達の繁殖目的という線もあるけれど、それだと子供は必要なさそうだし、年寄りなんかも連れ込む必要は無い。


 敵の目的が読めないのは不気味ね……


 そもそもネメア達吸血鬼と同時にオーガ達が襲撃してきていたなら、私達は確実に全滅していたでしょうね。


 それをしなかったってことは、必ず何か……英人以外に目的があるってことだと思うわ。


「そしてダンジョンの周辺には、複数のオーガキングの姿が確認されている」


 脅威度はA級のオーガキング。

 それが複数いるってことは……


「以上の事から未確認ではあるが、オーガエンペラーが存在する可能性がある」


 日本では熊本市にある鬼系のS級ダンジョン、通称「鬼ヶ島」でしか出現しない魔物ね。

 脅威度は文句なしのS級で、S級の魔物の中でも強さは上位に位置するわ。

 私は戦ったことないけれど、ユニークスキルの無い上級ジョブ持ちであれば、十五人は必要だと言われているわね。


 父がオーガエンペラーの存在を仄めかすと、集まっている探索者達が再び騒ぎ出す。


「なんや……オーガエンペラーならヤった事あるで。あ、変な意味ちゃうで?」

「なんか組織だった動きはしてるみたいだけど、所詮魔物だろう?」

「そうそう、こんだけ名のある探索者が集まってるんだ。余裕じゃないか」

「警戒すべきは魔物では無く、他国の介入、というわけですか……」


 彼らは、意志を持って行動する魔物の恐ろしさを知らない。


 ダンジョンにいるオーガエンペラーと、今回出てくるかもしれないオーガエンペラーは違うわ。


 おそらく、大侵攻の時のネルダーとか、死体漁りのミーヴァとか、その辺りのレベルになってくるかしらね。


 それに今回も絶対いるわ……ネメアクラスの敵が。

 

「静粛に……複数のオーガキングが徘徊し、人間がダンジョンに連れ込まれている場所は、福岡市だけではない」


「「「っ ! ?」」」


 ざわついていた会場が静かになる。

 

「福岡市だけでなく九州全土で、ダンジョンに連れ込まれる人間の姿を確認している」


 私は事前に、大まかな話は父から聞かされている。


 もちろん驚いたけれど、驚愕よりも不安が勝った。


「オーガキングが複数確認されているエリアは、福岡市、北九州市、熊本市、鹿児島市、宮崎市の計五箇所だ。今の我が国の総合軍事力では、全ての該当箇所を制圧することは困難。よって、制圧する地点を二箇所に絞った」

 

 総合軍事力というのは、探索者と正規の軍隊を合わせた武力の事ね。


 そして制圧地点は二箇所と言っているけれど、実際は四箇所の手はずになっている。


 九州南部の鹿児島市と宮崎市には、一万のドラゴニュート兵を半分に分け、それぞれユミレア師匠とリュウキが率いて向かう事になっているわ。


 情報漏洩のリスクを懸念して、ここでの説明は二箇所ということにしているらしいわ。

 

「本奪還作戦の最初の目標は、ダンジョンに連れ込まれた市民の保護と、ダンジョン周辺の制圧だ。集まってもらった諸君等を二つの大規模なレイド部隊に分け、福岡市と北九州市のA級ダンジョン付近を制圧してもらう」


 ここに集まったクランは全部で60、それを二つに分ける。


「そしてそれぞれの部隊の現場指揮は、福岡市を『龍の絆』、北九州市では『村雨』に行ってもらう」


 私達「龍の絆」がレイドの指揮を任されたことに、多少の反発が起こるかと思ったけれど、案外そんなことはなかった。

 表情に不満は出ているけれど、声を上げる者はいなかったわ。

 

 クラン「村雨」に関しては、実績があるからそもそも問題ないわね。


「大まかな概要は以上だ。少し休憩を挟んだ後、作戦の詳細を詰めていく」


 父がそう宣言すると、30分ほどの昼休憩に入った。


 話を聞いているだけでも疲れるわね……


 私は用意された水を飲み、ホッと一息ついた。

 



 ***

 あとがき


 あと数話、作戦までのエピソードが続きます。

 最後に英人のエピソードを持って、「残響編」は終了です。


 次章「伝承鬼神」編は、九州奪還の作戦開始から始まります。

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