第204話 集結する探索者達
Side:天道レイナ
父からの緊急の入電から3日、九州奪還作戦会議の当日を迎えた。
今は美澄さん、ユミレア師匠、リュウキの三人と共に、魔導車に乗って池袋支部に向かっている最中。
この3日の間で、協会の会長である父を中心に作戦の詳細が話し合われていたみたい。
私の所に逐一確認の連絡が来ていたわ。
父が確認してきたのは、主に「龍の絆」の戦力をどれくらい運用できるかというものだった。
私はクランの代表代理ではあるけれど、ドラゴニュート達に命令できる立場には無い。
彼らの主人はあくまで英人って事ね。
ドラゴニュート達は寝る間も惜しまず、S級ダンジョンゴーレム鉱山に潜っている。
兵の数を増やし、魔石を集め、己の技を磨いているみたい。
どれくらい兵が増えたかは聞いてないけれど、一万のドラゴニュート兵を今回の作戦で貸してもらう約束を取り付けたわ。
それをリュウキが率いるという形になるわね。
リュートとサクヤの二人は、英人の側からは離れないの一点張りだった。
そこをなんとか説得して、兵一万とリュウキは借りることができた。
九州全域という規模感からすると、おそらく戦力差は比べものにならないはず。
今回も苦しい戦いになりそうね……
そうこうしている内に池袋支部に到着した私達は、予定の会議室へと向かった。
池袋支部にある一番大きな部屋、大会議室にやってきた。
大会議室の扉を開けると、学校の体育館ほどの広い空間がある。
入口から奥まで、ずらりと会議用の長机が並んでいるわ。
既に他の探索者の多くが集まっており、入室した私達四人に視線が集まる。
それもそのはず、エルフという種族であるユミレア師匠は顔を隠していない。
透き通るような白い肌に、人間離れした美しい顔立ち。
何より人間ではあり得ない程尖った耳が、会議室の視線の半分を集めている。
そしてもう半分の視線は、リュウキが集めている。
独特な白装束に、額からは龍人特有の立派なツノが生え、爬虫類の尻尾が背後で揺れているからだ。
「おい。なんだあのコスプレ野郎は? アイツは何しに来てるんだ?」
「そうっすけど……あの子超可愛くないっすか ! ?」
「魔物……じゃないわよね」
大会議室がざわついている。
今回の作戦では全国各地から、力のあるクランが集められているわ。
この場には代表と数人しか来ていないはずだけれど、それでも100人を超える探索者達が、この会議室に集められている。
東京大侵攻でブレイバーズは殆ど壊滅状態だし、東京の中小クランのほとんどが全滅したらしいわ。
今回みたいに全国からかき集めてこないと、九州奪還なんて夢のまた夢ね。
私は視線を無視して、入口から真っ直ぐと奥へと進む。
進む先、体育館で言う所のステージや舞台がある場所に、他より一段高い長机が置かれている。
私達四人の席はあそこね。
「龍の絆」は今回の作戦で主戦力になるらしいから、他のクランとは区別されている。
私達が奥へと歩いて行くと、知らない探索者が立ち塞がる。
「レイナちゃんだよね! 僕は光明旅団の桐島っていうんだけど、今度お茶でもどうかな?」
「俺はそっちのエルフのコスプレしたお姉さんと――」
チャラそうな二人の探索者が、私とユミレア師匠に話しかけた瞬間だった。
リュウキが目にも止まらぬ速さで私の横を抜け、二人の男の首を掴んだ。
「「ぐっ ! ?」」
リュウキは二人をそれぞれ片手で上に持ち上げ、普段は出さない声色で脅す。
「邪魔だ……引っ込んでろ」
男二人は首を締め上げられたまま、ブンブンと首を縦に振る。
そしてリュウキが手を離すと、二人は脱兎の如く逃げていった。
リュウキは機嫌が悪い。
理由は簡単、英人の側を離れたくなかったからね。
「さっさと行こうぜ」
そう言って、スタスタと奥へと歩いていく。
はぁ……変なのに絡まれたわね。
光明旅団……あんまり良い噂は聞かないクランね。
それに彼らもそうだけれど、会場のほとんどの探索者が、どこか危機感が足りていない様子ね。
無理もないわね……大侵攻といい今回の事といい、現実味が感じられないんでしょうね。
会議室の最奥にある長机に座ると、集まっている探索者達の顔がよく見える。
横に座るユミレア師匠を見てコソコソと話す者、欠伸をする者、隣同士で談笑する者。
皆何処か、緊張感に欠けている。
大丈夫かしらね……
探索者達の身を案じていると、作戦会議は幕を開けた。
「それではこれより、九州奪還作戦会議を始める」
左隣にいる父が、開始の宣言をする。
ちなみに私が座っている、大勢の探索者達と向かい合う様に設置されている長机には、他にも主要クランの代表が座っている。
ブレイバーズ現代表の真壁さんに、大地の父である村雨空悟さん、それに海上自衛軍長官の瀬戸
「まず初めに……本作戦への参加は強制である事を改めて認識してもらいたい。作戦への参加を拒否するという事は、探索者の資格を剥奪するものとする」
父も私と同じ事を思ったのかしらね……
ざわつき出す探索者達の中で、一人の男が声を上げた。
さっき私達に絡んできた男だ。
「ひとついいですか? 強制参加は別に構いませんが……報酬はどうなるんです?」
探索者は個人事業主だから、実力に応じた報酬が普通だけれど……
「本作戦では、一律で300万の手当てが出る事になっている」
その言葉に喜ぶ者はおらず、ほぼ全てが不満げな顔をする。
ここにいるのは基本B級以上の探索者だから、年収で億を超える人が大半、不満は無理もないわ。
「300? ちょっと、何の冗談ですか? 前金で1000万。それから自分達で討伐した魔物の魔石やドロップ品は俺たちの物。せめてこれくらいじゃないと……ねぇ?」
桐島という男は、周りの探索者を煽りながらそう言った。
「そうやで! 300万で命晒すアホがどこにおるっちゅうねん!」
「強制する以上、もっと報酬があってもいいのでは?」
「「そうだそうだ!」」
探索者達がそう騒ぎ出すした瞬間――
――バーン!
会議室全体に、大きな衝撃音が鳴り響いた。
私の横では父が、机に拳を振り下ろしていた。
ちょっとやりすぎよ……机が壊れちゃったじゃない。
まあでも、それくらいやらないといけないのかもね。
「君達の勘違いを正そう……」
何事もなかったかの様に姿勢を正し、低い声色で喋り始めた。
「本作戦を、今まで君達が行ってきたダンジョン攻略と一緒にするな。我々が敗北すれば、多くの一般市民が犠牲になり得る……ひいては日本という国の存続も危ぶまれる。現実味のない話に聞こえているんだろうが……日本は既に戦争状態である」
「「「……」」」
戦争と言うワードで、探索者達の半数は顔つきが変った。
「後に詳細を説明するが……日本は現在、九州地方が魔物に占領されている。そしてこれを機に、各国が不穏な動きを見せている。本作戦遂行中に、他国との軍事衝突が予想される」
そう……これは日本と魔神軍の戦いであると同時に、人間vs魔物vs人間の、三つ巴の戦いでもあるのよ。
いくら報酬が支払われようとも、生きて帰らなければ意味がないわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます