第202話 魔法少女リカ
Side:天道 レイナ
「キュピーン! リカちゃん参上!」
光が収まり現れたのは、こちらに両手でピースサインを向ける裸の女の子。
「え……かわいいけど……え ! ?」
「ブハッ ! ?」
パニックになる未来ちゃんに、アーサーは鼻血を噴き出して倒れる。
「はぁ……多分我道さんなんでしょうけれど、とりあえず服を着てもらえるかしら?」
破けた服が元に戻るはずもなく、見えてはいけないものが露わになっている。
「ンも〜う、レイナちゃんのえっち……」
両手で胸を隠し、体をクネクネさせながらそう言った。
う……うざいわね。
「はいはい……早く中ボス倒してもらえる?」
「リカちゃんにお任せ〜」
我道さんは換装の指輪からコスチュームと杖を取り出し、中ボス部屋へと入っていった。
私は倒れたアーサーの下に氷を張って、引き摺りながら後に続いた。
「極知」の能力は、「極体」と同じく破格だった。
「マジカル〜キューティ〜スプラーッシュ!」
ダンジョン攻略には向いていなさそうな、アイドルのステージ衣装の様なピンク色のドレスを纏った我道さん。
そしてどこに売っているのか分からない、ピンク色の一本の薔薇の様な杖を振り回し、甲高い声で妙な技名を叫んで魔法を発動した。
杖先に付いている薔薇の花から、凄まじい勢いで水が飛び出す。
柱の様な太さで放たれた水柱は、中ボスであるアダマンタイトゴーレムに向かって突き進む。
変な技名を叫んでいたけれど、多分あれは水魔法Lv6の「ハイドロショット」ね。
そして水の柱は、15メートル程の紫色に輝くアダマンタイトゴーレムの巨体に直撃した。
――ドカーン!
通常のハイドロショットとは思えないほどのスピードと破壊力を持った水柱は、A級でも屈指の防御力を誇るアダマンタイトゴーレムを粉々に粉砕した。
「月に代わって、お仕――」
肉弾戦に特化した「極体」モードと、魔法に特化した「極知」モード。
デメリットが目立つけれど、「極知極体」は大当たりのユニークスキルね……
ユニークスキルはシンプルな能力でも、使い方次第でさらに能力を引き出せる。
デメリットに目を瞑れば、かなりの戦力アップになったわね。
中ボス部屋をあっさりと突破した私達は、そのままダンジョンを進んだ。
我道さんが道中の魔物を倒していき、サクサクと歩みを進めた私達は今、オリハルコンゴーレムに相対している。
私達は深紅の光を放つ黄金の巨体を見上げる。
「我道さんはどこまでやれるかしら?」
私は隣に居る未来ちゃんに尋ねる。
「はい。えっと……魔法を一回撃った直後に、元のキンちゃんの姿に戻りました」
未来ちゃんはジョブが勇者となり、ユニークスキルの「未来視」の能力が拡張されたらしいわ。
ちなみに新しい勇者が生まれた事は、ごく一部の人間しか知らない。
「アルティメット〜ビューティフル〜ウェーブ!」
おそらく水魔法Lv9「ダイダルウェーブ」を発動した我道さんは、未来ちゃんの見た未来の通りになった。
「あ、あれ……力が抜け――」
我道さんを光が包み、一瞬でいつもの我道さんに戻った。
「あらぁ。時間切れみたいねん。あとは任せるわよん」
アイドル衣装を纏った筋骨隆々の丸坊主おじさんが、床に手をいて息を乱す。
変態を放置して、未来ちゃんに尋ねる。
「私はどうすればいい? 一番楽な未来でお願いするわ」
「はい。キンちゃんが出した水を利用してゴーレムを凍らせたら、アーサーさんがトドメを刺してくれるはずです!」
未来ちゃんの未来視では、いくつもの未来が細かく見えているらしいわ。
私達が望む未来の通りに動けば、望む未来が手に入る。
今日はもう遅いし、一番楽にゴーレムを倒せる未来を注文したのよ。
「ありがと。それで行かせてもらうわね」
一言礼を言って、ゴーレムに向かって進む大波を凍らせる。
――パキパキ
魔法は効きづらいらしいけれど、私のユニークスキルの氷は別。
私は可能な限り氷の温度を下げ、アダマンタイトゴーレムの装甲を脆くする。
「アーサー! 好きに攻撃しなさい!」
少し前に目を覚ましたアーサーが、金色の槍を逆手に持って答える。
「ハッハー! ようやく僕の出番だね。投爆槍!」
魔力を槍に充填し、槍術の奥義を発動するアーサー。
黄金の槍は魔力の残滓を撒きながら、アダマンタイトゴーレムに向かって投擲された。
霜が乗ったアダマンタイトゴーレムのボディに、投擲した槍が直撃する。
――ドカーン!
直撃と同時に、槍を中心とした魔力の大爆発が起こった。
氷で脆くなったゴーレムのボディは、あっけなく砕け散った。
「フハハ! さすが僕だ! 今日も素晴らしい一撃だった!」
自画自賛するアーサーを横目に、私はその一撃に感心していた。
アーサーは確か、下級ジョブの「槍士」だったはず。
今の一撃は、上位ジョブの「槍豪」の投爆槍に匹敵する威力だった。
多分私の氷がなければ、一撃とまでは行かなかっただろうけれど……アーサーのユニークスキルによるステータスアップもなかなかね。
そしてユニークスキル「七転八起」によるステータスアップは、あと六回は可能らしい。
けれど一度致死のダメージを受けないと発動しないから、戦力としては予測不能な事が難点ね。
いつどの状況でそうなるか分からないもの。
そして未来ちゃんに関しては、ユニークジョブにはなったけれど、まだレベルが最大じゃない。
それに実戦の経験も足りないし、前線で戦わせるには実力が追いついていないわ。
けれどそれを補って余りあるほどに、「未来視」の力が有能すぎるわね。
今回の探索でどこまで未来が見えるのか確認したけれど、それなりに不便な所もあった。
まず本人が関わる未来でないと、未来視では観測出来ないようね。
試しに英人が目覚めるかとか、次の敵の襲撃とかを見て貰おうとしたけど無理だった。
未来ちゃん本人が近くにいる襲撃中の状況は見えるけれど、それがいつ行われるか正確な未来は読み取れない。
そして英人に関しては、一切の未来が見えなかったらしい。
はぁ……そんな都合よくは行かないわね。
私は一旦思考をやめ、三人に声をかけて魔石とドロップ品を回収してもらった。
そうして戦利品を回収したあと、私達はクランハウスへと帰還した。
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