第201話 極知極体

Side:天道 レイナ

 



 高尾山の山頂、整備された展望台の広場に、私はクランのメンバーを連れてやってきている。

 50年前に出現したこのダンジョン、通称『ゴーレム鉱山』。

 

 他とは異なるこのゴーレム鉱山では、ミスリル鉱石からオリハルコン鉱石まで、多種多様な鉱石がドロップする。

 そして鉱石とゴーレムの魔石しかドロップしない代わりに、攻略の難易度は若干低い。


 出現モンスターはゴーレム系のみで、能力値は主に防御性能に特化している。

 

 早い話、高い防御力を突破できる攻撃力さえあれば、攻略自体は容易だわ。


 私はダンジョンデータベースで調べた内容を、一通り頭の中で反芻した。


 みんな強くなっているし、特に問題ないかしらね。

 今回は攻略が目的じゃないし、深い階層に行くつもりもない。

 

 先日からリュート達ドラゴニュートが、このダンジョンをひたすら周回しているらしい。

 そっちのパーティーと鉢合わせないように、今回はお互いのルートもしっかり共有してある。

 

「じゃあ、中に入るわよ」


 後ろに声をかけ、ダンジョンゲートを通過する。


 入口の黒い膜を抜けた先では、巨大な洞窟が広がっていた。


「ほぇ〜」

「かなり広いわねん」

「僕も遂に、S級ダンジョンに潜る日が来るとはね……感激で言葉が出ないよ。そうだ! 記念に写真でも――」

 

 内部をキョロキョロと見渡す未来ちゃんと我道さん、そしてアーサーは言葉とは反対によく喋る。

 

 今回ダンジョンに連れてきたのは、未来ちゃん、我道さん、アーサーの三人。

 三人の共通点は、先日の戦いで特殊な成長をした者達。


 今回は鉱石や魔石の確保に加えて、それぞれの新しい力を把握するのが目的ね。


「さあ、進みましょう」

 

 私は皆に声をかけ、事前に決めておいたルート通りに、シーカーリングのマップを見ながらダンジョンを進んだ。

 



 薄暗い洞窟を歩き続けていると、最初のモンスターが現れた。


――ズシン! ズシン!


 洞窟を揺らしながら、前方から三体の人型ゴーレムの姿が見えた。

 

「アイアンゴーレムが二体と……もう一体はミスリルゴーレムかしらね」


 銀色のゴツゴツとしたボディで、大体人間の2倍くらいのサイズがC級のアイアンゴーレム。

 そして同じ銀色だけれど、青白く輝いているのがB級のミスリルゴーレム。


 色が似ていて解り辛いけれど、ミスリルゴーレムの方が一回り大きいから、ぱっと見の大きさで判断できそうね。

 それにゴーレム自体が光を放ってるから、洞窟の薄暗さを緩和している。

 

「我道さん。例のスキルを使ってもらってもいいかしら?」


 ゴーレムを視界に捉えたまま、我道さんに声をかける。


 我道さんが私の横に立ち、返事を返してくる。


「あら〜レイナちゃん。またアタシの肉体美が見たいのねん。あなたもお年頃なのねぇ」


 我道さんが発現したスキルは、詳細を事前に聞いているわ。


 そのメリットとデメリットもね……


「そういうのいいから……さっさとお願いできるかしら?」


「んもう! 恥ずかしがらなくていいのよん!」


 まだ揶揄ってくる我道さんを睨む。


「分かったわよん! 怒らないで頂戴。じゃあ……パ〜ンプ・ア〜ップ!」


――ビリビリビリ!


 筋肉が、着ている服を突き破って肥大化していく。

 少しガタイが良いくらいだった我道さんの体が、まるでゴリラのように人間離れした肉体になった。


 これが我道さんが発現したというユニークスキル、『極知極体』の能力の一つ。

 この『極知極体』には二つの形態があるらしく、今発動したのは『極体』の方ね。

 肉体の性能を限界まで高めるというシンプルなもの。


 シンプルだけれど、その強化倍率は凄まじいわ。

 龍纒や魔力巡纏よりも数段高い身体能力が得られる。


 このスキルの強さは、私と我道さんが戦った「死体漁り」のミーヴァとの戦いで既に証明されているわね。


 だから今は、『極知』の方を先にやってもらいたかったのよね。


「行きますよ……」


 そう言って、我道さんはゆっくりと三体のゴーレムに向かって歩いていく。


 我道さんがゴーレムの間合いに入った途端、ミスリルゴーレムが右腕を振り下ろす。

 

「フン!」


 ゴーレムのパンチに合わせて、我道さんも拳を繰り出す。


 巨大なミスリルの拳と、我道さんの剛腕が衝突した。


――ガシャーン!


 両者の力は拮抗することなく、我道さんの拳はゴーレムの拳を粉砕した。


 拳を粉砕した後、立て続けに拳を振るい、三体のゴーレムが魔石になるまで1分とかからなかった。

 

「準備運動にもなりません……先に進みますよ」


「キンちゃんすごーい!」

「僕も負けてられないね」

 

 本当にすごいわね……


 ミスリルゴーレムの耐久値は凄まじく、同じB級でも討伐に時間が掛かると聞いているわ。

 それをほとんど一撃……想像以上ね。

 

 身体能力は凄まじいけど……服が弾け飛ぶのが欠点ね。


 見てられないわ……

 

 スタスタと歩いていく我道さんの後を、私達全員で追いかけて先を進んだ。


 

 

 我道さんがゴーレムを砕きながらダンジョンを進み、快速で10層までやってきた。


 10層には中ボス部屋があり、中にはA級のアダマンタイトゴーレムがいるはずよ。


「極体」の性能を十分すぎるほど確認した私は、もう片方の「極知」を見せてもらうことにした。


「我道さん。次は『極知』の方をお願いできる?」


「もちろんです。では……」


 そう言うと、突如我道さんの体が光に包まれた。


「へーん! しーん!」


 先ほどまでの低く男らしい声色とは違い、女性アイドルのような可愛らしい声が聞こえてきた。


 今度は何……これもユニークスキルの効果なの?


 光が収まると、そこに人間離れした肉体は無く、華奢な女の子が可憐なポーズを決めて立っていた。


 その姿を見た私達は、全員が同じ反応をした。

 

「「「誰 ! ?」」」

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