第187話 ソウルレガシー
Side:リュウキ
「武装龍体……」
ソウルスキルってのは、魂が求める力の形に成るって、昔主人が言ってた。
まあ、生まれ持っている場合は別の話らしいけどな。
要するにこの力は、俺の願いとか、本質的な部分で求めている事なんだろうな。
だからこそ、力の使い方が魂の底から理解できる。
俺は一歩前へと進み、地面に転がる鉄の破片に触れる。
すると鉄の破片は光り輝き、俺の胸へと吸い込まれて消えた。
「これで俺たちは、ずっと一緒だぜ……リュウガ」
弟が今生で使っていた大楯。
特に能力が備わっているわけでもない、ただデカいだけの盾だ。
「武装龍体」は、武器を自分と同化させ、その特徴と力を自分のものに出来る。
取り込める武器は生涯で一つだけ。
あぁ……弟の罵る声が聞こえてくるぜ。
『姉さんは馬鹿なの ! ? そんな盾じゃなくて、ユルングルと同化した方が有意義でしょう!』
生きてたら、ぜってぇこう言ってくるだろうな。
でもこれで良いんだ……俺はこれから、お前の分も主人や他の連中を守ってやるさ。
俺は最強の盾であり矛だ。
「そう悲しい顔するなよ。すぐに同じ場所に送ってあげるからさっ」
クソガキが薄ら笑いを浮かべてそう言った。
そしてその笑みを見て、いくつかまた記憶が蘇る。
「思い出したぜ、そのツラ。てめえ……龍の都でも、気持ち悪い笑み浮かべながら散々仲間を殺してくれたっけなぁ」
前世で死ぬ直前、こいつや他の吸血鬼、悪魔共が大量に龍の都へ攻めてきた。
俺とリュウガなんかは、殆ど何もできずにやられちまったんだ。
一つの記憶を思い出すと、連鎖的に他の記憶が蘇る。
そういや……今の主人によく似た男が、戦場で大暴れしてたっけな。
アマギリっておっさんだ。
主人の名前に似てるな……そうか、あれが主人の父親か。
この戦いが終わったら話してやらねえとな。
溢れる記憶を漁っていると、クソガキの声で現実に引き戻される。
「ん〜君のことは覚えてないな……うん。それにトカゲ共は一匹残らず殺した――ん? じゃあ君は生き残りかな? でもどうやって逃げ――」
「まあなんでも良いけどよ、敵は討たせてもらうぜ」
色々思い出しているとキリがねえ……なんせこれまでの記憶が全て戻ってんだ。
前世だけじゃねえ、その前も、またその前も……俺が最初に生まれた時の記憶すらある。
チッ……一旦このクソガキに集中しよう。
記憶が多すぎて頭がおかしくなっちまう。
ユルングルを構え、龍気を流す。
ユルングルに流れた龍気が、崩壊と消滅のエネルギーに変わる。
「血呪だったか? てめえらが使う血の呪いだ」
「物知りだね。まあ、僕を知っているんだから当然かな?」
「少なくとも、てめえの力はもう俺には効かねえ」
クソガキの眉がピクリと動き、掌を地面に向けた。
「ふーん。じゃあ試してみようか……血呪・
掌から赤い雫が落ちる。
雫が地面に当たった瞬間、洪水の様に血の波が周囲に放たれた。
血の波は小さく、俺の足首が浸かる程度の高さだった。
周囲が血に満たされ、地面はすでに見えなくなった。
「驚いたよ。本当に効かないとは……普通の人間だったら、足が血に触れないように必死で踊っているんだけどね。その光が原因かな?」
俺の足はクソガキの血の池に浸かっているが、一切の痛みは無い。
その原因が、俺を包み込むこの光だとすぐに気付いたみてぇだ。
「そう言う事だ。さっきの攻撃で無傷だったのも、こいつのおかげだな」
俺の身体を包むこの光は、おそらくリュウガの力だ。
死後も力の影響を及ぼすなんて、一つしか思い浮かばねぇ。
「
前の主人がそう言ってたはずだ。
つまり弟は次の生よりも、今の俺を守ることを選んだ。
馬鹿野郎が……
「はん! まあいいさ。溶かせないなら普通に殴り殺すまで! 凝血!」
クソガキは空に舞い上がり、さらに右手に周囲に広がる血の一部を纏う。
血は瞬く間に巨大な腕となり、そして肥大化した腕を俺に振り下ろす。
「アハハ! 身動きできないだろう? そのままぶっ潰してやる!」
うん? 本当だぜ……足が地面に張り付いてら。
見れば足元の血の池は見事に固まり、足首まで浸かっていた俺の足は動かない。
まあこれくらいなら、力づくでもなんとか抜け出せるが……その必要もねぇな。
俺は足元からクソガキに視線を戻し、そして奴と俺の間に巨大な盾を顕現させる。
さっき取り込んだ弟の盾を大きくしたやつだ。
「武装龍体」は、取り込んだ武器を自由自在に出来る。
好きなところに出せるし、大きさも数も自由。
ただ、武器の性能は取り込んだ物の本来の性能。
そのままじゃ、はっきり言ってあいつの攻撃は受けきれねぇ。
だが取り込んだ武器は俺の体の一部になった。
「龍纏」
盾にも龍気を纏えば問題ねえさ。
おまけに――
――ゴーン!
硬質な物同士の激しい衝突音が響く。
「おまけだ。消えちまいな!」
次の瞬間、盾から破壊エネルギーが溢れ出し、じわじわと奴の巨腕を黒い靄が侵食していく。
盾の表面に破壊エネルギーを仕込んでおいたぜ。
「っ ! ?」
クソガキは直ぐに巨腕を引き、盾から離れるが、破壊の侵食は止まらない。
巨腕にこびり付いた破壊エネルギーが、ゆっくりと拳の先から腕全体に広がっていく。
「なんだよこれ! このっ」
巨腕を振り、黒いモヤを振り払おうと暴れ出す。
俺はその隙に、足元で固まっている血の池を斧で突く。
足元に黒い波が広がり、全てを消滅させていく。
そして自由になった俺は、空中で暴れるガキの元へとジャンプする。
――ドン!
暴れるクソガキの正面に躍り出た俺は、その頭を鷲掴む。
「よお、ちょっと油断しすぎだぜ?」
「っ ! ? 僕に触るなあ!」
クソガキの身体から、無数の血の棘が飛び出した。
――キキキン!
俺に迫る血の棘の全てを、極小サイズの盾を無数に展開して防ぎ切る。
「おい、吸血鬼がこれに触れたらどうなる?」
左手で頭を掴み、右手にもったユルングルをクソガキの目の前に掲げる。
そして龍気を流すと、斧から黒い靄が溢れ出す。
「っ ! ?」
破壊エネルギーを見た瞬間、左手で掴むクソガキが暴れ出した。
「そうだよなぁ? いくら吸血鬼でも、チリ一つ残さず消滅したら流石に再生できねえわな?」
クソガキの表情が、初めて恐怖に染まった。
そして次の瞬間、予想外の行動に出た。
――ザシュ!
クソガキは自分の首を切断した。
そして首無しの胴体だけが、俺から離れようと黒羽をばたつかせる。
「アハハ! バーカ! 人間にはできない芸当だろう? ある程度肉体が残っていれば、どこからでも再生できるのさ!」
生首になったクソガキは、俺の左手の中でそう言った。
そして胴体の方は、背中を向けて飛んでいこうとしたが――
――ガン!
「なんだ ! ? どうして体が動かない ! ?」
「やっぱり目は見えてねえのか。ほれ、見せてやるよ」
俺は左手のクソガキ生首を、胴体がある方へ傾ける。
「なっ ! ?」
クソガキの胴体は、直前に展開した俺の盾に引っ掛かっている。
そして逃げられないように、さらに胴体の四方を取り囲むように盾を展開する。
「これくらいでいいか……じゃあ、終わりにするぜ?」
ユルングルに更に龍気を送ると、破壊のエネルギーが勢いよく溢れ出す。
「おい待て ! ? この距離じゃ、お前も一緒に消えるぞ ! ?」
「ああ? 残念だがよぉ、この破壊エネルギーは俺には効果がねえんだ。消えるのはお前だけだ」
ユルングルの破壊エネルギーは、斧の装備者には効果がない。
「じゃあなクソガキ。破壊球!」
破壊エネルギーが膨張し、黒球が俺達を飲み込む。
「クソがクソがクソが! ふざけ――」
クソガキの最後の抵抗もあったが、その全てを崩壊と消滅の黒い波が消滅させた。
破壊球が収まり、空中には俺と顕現した盾だけが残った。
そして同時に、俺の体を包む光が消えていった。
「はぁ……」
なんとも言えない喪失感で一杯だ。
「うし! 主人のとこに行かねえとな!」
目元を腕で拭い、俺は主人との合流に向かうのだった。
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