第184話 新たなる聖者の目覚め
Side:弥愁 未来
頭上から、誰かの話す声が聞こえる。
「潤さん達……大丈夫だよね? やっぱり戻った方が……」
「ん、みんな強い。絶対大丈夫……ん、絶対」
誰かの背中に抱えられ、私の意識は徐々に暗闇から現実に引き戻されていった。
あれ……私、何してたっけ?
そうだ……今日はお父さんとお母さんとお出かけして――
そこで、先程起こった恐ろしい出来事が鮮明にフラッシュバックした。
お父さんの体に、泣きながらしがみ付くお母さんの姿。
そして胸を貫かれ、倒れるお母さん。
あぁ……そうだった。
私は一人になったんだ。
泣きすぎて瞼が重たい、叫びすぎて喉が痛い。
私……これからどうしよう。
雪嶋流の道場に入門して、「龍の絆」にも入った。
それもこれも全部、毎晩見ていた悪夢を現実にしない為。
でも、それももう意味は無い。
強くなる必要がもう無い。
そんなふうに考えていると、突然それは起こった。
突然、視界が光に染まった。
「っ ! ? なになに ! ? 何この光 ! ?」
「ん、落ち着いて涼。未来ちゃんが光ってる……」
「未来ちゃん ! ? 誰 ! ?」
「涼がおんぶしてる子」
そんな二人のやり取りが聞こえるが、私はそれどころでは無かった。
私が光ってる?
何これ……
光は更に強くなり、自分の身体から力が漲ってくる。
『ステータスが発現しました』
『聖者の種子の発芽を確認』
脳内に無機質な声が響いた次の瞬間、頭の中に大量の映像が流れ始めた。
「うっ ! ?」
止まる事なく流れ続ける映像と共に、激しい頭痛に襲われた。
思わず頭を抑え、必死で痛みに耐える。
なに……これ ! ?
頭の中に大量に流れてくる映像は、さっきのフラッシュバックとは違って、過去に体験した出来事では無かった。
この現象には覚えがある。
うそ……これ全部未来の出来事?
それは私のユニークスキル「未来視」で見ていた映像に似ていた。
でも今までと違うのは、数秒先の未来どころか場所も時間も分からない無数の未来が、絶え間なく頭に流れ込んでくる。
流れてくる映像の中で、一際鮮明に映る出来事いくつかある。
これは多分新宿の映像。
タキシードみたいな服にシルクハットを被った人が、ボロボロの英人さんを見下ろしている。
『ククク……ちょっとしたトリックですよ』
今までの未来視とは違い、音まで情報として入ってくる。
他には見覚えのない荒地の様な場所で、白い翼を生やした人が宙に浮かんでいる。
龍の絆のみんなが、その人物を見上げている。
『返してもらうよ? 私が与えた全てを……』
頭痛と闘いながら、流れる映像を必死で記憶している。
すると、誰かに肩を揺らされた。
「――い! 大丈夫 ! ?」
映像が一旦止まり、男の人の顔が見えた。
「は、はい。大丈夫……です」
そこでようやく、目の前の人物が誰か気付いた。
この人……そういえばパーティーの時にいた気がする。
確かブレイバーズの……
「そっか……よかった。もうすぐブレイバーズのクランハウスに着くから」
「ん、そこに行けば安心。多分……」
「多分って……」
「あそこには副代表がいるから……きっと大丈夫」
そうして私はまた男の人におぶられ、ブレイバーズの本部へと向かった。
その後、私たちは襲ってくる黒い羽を生やした魔物の攻撃を掻い潜りながら、ようやくブレイバーズの本部へと辿り着いた。
ブレイバーズの本部は、ある意味地獄絵図だった。
「ん、ほらね……大丈夫だった」
青髪の魔法使いの人が、クランハウス前の光景を見てそう言った。
「マジかよ……これ全部あの人が? 真壁副代表ってこんなに強かったの?」
クランハウスの前では、大量の魔物の死体が積み重なり小さな山の様になっていた。
そして屍の山の上で胡座をかき、タバコを蒸しているおじさんが居た。
「お? 涼にミトじゃない。敵さんの大将はもう倒したのかい?」
「いえ、僕らはこの子をここに送り届けに来ました」
おじさんは、ならず者のような見た目をしていた。
鎧は草臥れており、かなり年季が入っている使い古された物。
そして右手には日本刀を持ち、肩に担いでいる。
「ん、まだ戦いは終わってない。すぐに綾達のところに戻る」
ミトさんと呼ばれた女性がそう答えると、おじさんは無精髭を撫でながら言った。
「そうかい。あまり無茶はするなよ? おじさんも一緒に行きたいところだけど、ここを離れるわけには行かないからねぇ……本丸は若いもんに任せるよ」
そして私をおぶる涼さんが、気になっていたことを聞いてくれた。
「真壁さん、これ全部一人で?」
「ん? そうだねぇ……おじさんには少々厳しいかと思ったんだけど、こいつらが根っからの悪人で助かったよ。おじさん、悪人にだけは負けないからねぇ」
「ん、このオヤジのユニークスキルは刺されば強い。刺されば」
「はぁ、最初はあんなに初々しかったのに……ミトちゃんも綾に染められちゃったのねぇ」
「なるほど……真壁さん、この子をお願いします。僕らは戻ります」
そう言って、涼さんが私を下ろす。
「そうかい、無理はしちゃダメだよ? 君達にはおじさんより長生きしてほしいからねぇ」
「はい」
「ん、大丈夫」
そう返事をして、二人は来た道を走り出した。
二人の背中を眺め、私は考えた。
私は……
もう戦う理由は無い。
きっとあの化け物達も、英人さんや皆んなが倒してくれる。
全部が終わったら、普通の生活に戻って……
そこでふと、歳の離れた友人の顔が浮かんだ。
キンちゃん……は、これからも龍の絆で戦って行くんだろうな。
私はこの先一人で……
そう考えていると、後ろから声が掛かった。
「ほらお嬢ちゃん、建物の中に入ろう。大丈夫、後は彼らがなんとかしてくれるさ」
そう、後はみんながなんとかしてくれる……
そう考えた時、何かが胸でつっかえた。
私にも……できることが――
そこで、先程脳内に響いた声を思い出した。
そうだ、ステータスだ。
「ステータスオープン」
______
名前:弥愁 未来
ジョブ:勇者
Lv 1
HP:100/100
MP :120/120
龍気:500/500
筋力:120
耐久:90
器用:90
敏捷:110
知力:100
スキル(一部省略)
・武術系
剣術Lv10、魔闘術Lv10
・エクストラスキル
龍剣術Lv10、龍闘術Lv10
・技能
雪嶋流抜刀術(中伝)
武神流格闘術(初伝)
魔操術(初伝)
・ユニークスキル
未来視
______
ステータスの二行目で、私は衝撃を受けた。
勇者? 私が……
思考が追いつかない。
勇者って、御崎潤さんと同じ……私が二人目?
でも、同じユニークジョブを持つ人なんて聞いた事がない。
っ ! ? もしかして……
最悪の想像が頭を過る。
私を助けてくれた……助けたせいで――
そう考えた時、体が勝手に動き出した。
気付けば私は、涼さん達の後を追って走り出していた。
「お、おい! 嬢ちゃん何してる ! ?」
おじさんの声が聞こえるが、無視して走り続けた。
私は迷惑かけてばっかりだ……お父さんにもお母さんにも、キンちゃんにもみんなにも……
もうそんな自分は嫌だ……
私は自分に言い聞かせながら走り続けた。
私は勇者……これからはみんなの力に、もう誰も死なせない為に。
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