第185話 酸雨
Side:リュウキ
「姉さーん! ちょっと待ってよ!」
「無理してついてこなくていいぜ! 先行ってっから!」
俺は部下の奴らを置き去りにして、道なりに吸血鬼をぶっ殺しながら走ってきた。
結構走ったと思うんだけどな〜
未だにシンジュクって言う敵が湧き出る場所にはついてねえ。
トーキョーってひれぇんだな?
龍馬で道を駆け抜けていると、下っ端の吸血鬼どもが襲って来る。
「なんか来たぜ〜」
「殺せ殺せぇ!」
「死ねえい!」
前から三匹の吸血鬼が、俺に向かって突っ込んできやがる。
「ザコな上にアホなてめえらは引っ込んでな!」
主人から貰った「崩滅の斧・ユルングル」の一撃を、馬鹿どもにお見舞いする。
崩壊のエネルギーが吸血鬼を襲う。
悲鳴すらあげる暇も無く、馬鹿三匹は塵になった。
「フー! 俺様最強だぜ!」
主人が俺の斧をぶん取ってダンジョンを攻略した時に見たやつを真似たんだ。
崩壊のエネルギーは二つあって、魔力で作るやつと龍気で作るやつがある。
今みたいなザコの吸血鬼なら、魔力の方で問題ねえ。
手応えのある奴に会えねえかなぁ……早く龍気の方試して〜
そうして雑魚どもを消しながらしばらく走っていると、妙な場所に辿り着いた。
なんだあ? こりゃ……
建物が並んでいたと思ったら、急に何も無くなった。
よく見れば辺り一面、何かが溶けた様な跡が広がっている。
ふむふむ……
少し考えて、俺は自分が怖くなった。
「そうか! コーラの雨でも降ったんだな!」
いや〜俺は天才だぜ……自分の才能が恐ろしい!
前に主人に言われたんだ。
『リュウキ……コーラばっか飲んでると歯が溶けてなくなるらしいぞ? ほどほどにな』
間違いねえ……この地球では、コーラの雨が降るんだ。
「何言ってるの姉さん……そんなわけないでしょう? 多分吸血鬼が持ってる呪いの能力なんじゃないの?」
後ろから追いついたリュウガがそう言うと、それに応えるようにガキの声が聞こえた。
「せーかーい! あ、そっちの盾持った方のが正解ね。そっちの斧の方じゃないよ?」
甲高い声と共に、いつの間にか子供が立っていた。
なんだ……あのガキは?
見た目は子供だが、黒い羽も生えてるし、豪華な黒服も高位の吸血鬼の特徴そのままだ。
感じる圧力も他の雑魚の比じゃねえ。
「へへ! ようやく手応えのありそうなやつが来たぜ!」
「姉さん……油断しちゃダメだよ」
分かってるって、こいつは心配性だぜ全く。
龍馬から降り、斧を担いでガキに相対する。
「よお吸血鬼のガキ……俺に会ったのは運が悪い、お前もここで終わりだぜ?」
「随分威勢のいいトカゲだね……それから僕はガキじゃない。ノルって言う名前があるんだ」
「そうかよ! ぶっ潰れろ!」
直ぐに龍纒で身体を強化し、ガキに突撃してユルングルを振り下ろす。
ガキは身を逸らし、斧の直撃を回避する。
――ドーン!
地面が割れ、破片が飛び散る。
「よく避けたなあ! だがこっちはどうだ?」
ユルングルに込めた魔力が、崩壊の波となってガキを襲う。
斧から噴き出る黒い波がガキを飲み込むかに思われたが、余裕で回避されちまった。
「チッ……」
すばしっこいな……ガキだから当たり前か?
「ふーん、面白い武器持ってるね。僕の呪いとどっちが強いかなぁ? 血呪・
ガキが手を頭上に掲げると、掌から空に向けて赤い何かが放たれた。
赤い何かは雨となって、広範囲に降り注ぐ。
「姉さん! 龍紋盾!」
リュウガが俺の前に立ち、龍気による盾を俺達の真上に形成した。
――ザアア!
赤い雨が降り注ぎ、大量の雨粒が龍気の盾に打ちつけられる。
――ジュウウ
龍気の盾から煙が上がり、だんだんと盾が薄くなって行くのが分かる。
「おいおい……これやべえんじゃねえのか?」
「龍紋盾! 重ねればなんとか大丈夫そうだね」
龍気の盾をもう一枚頭上に張り、なんとか雨を凌いだ。
赤い雨が止み、俺たちは無事だったが……
龍気の盾に覆われていない周囲の地面から、妙な匂いと煙が立ち込めていた。
「だあ! 臭え!」
鼻がおかしくなるぜ……
だがガキの能力は割れた……地面はもちろん、龍気までも溶かしちまう。
これくらいなら、どうにでもならぁ。
「ネタが割れれば、てめえなんてチョチョイのチョイだぜ! 龍纏!」
俺は龍纏の強度を上げ、身体を包む龍気の量を底上げした。
一直線にガキの元へ走り出す。
なんでも溶かしちまうのは脅威だが、一瞬で溶け切る訳じゃねえ。
俺が溶かされる前に、ガキを仕留めれば問題ねえだろ!
「姉さん!」
リュウガが止めようとするが、無視してガキの首を狙う。
「オラあ! くたばりやがれ!」
あと一歩の距離まで詰めた所で、突然足に痛みが走った。
そして痛みに加え、脚が地面に縫い付けられた様に動かなくなる
「っ ! ?」
「ハハ! 随分せっかちだなあ! それに頭も弱い」
足元を見れば、地面から赤い棘の様なものが飛び出していた。
俺の足にその棘が無数に刺さり、動かそうにも動かせない。
チッ ! ?
無理やり足を棘から抜こうとするが、無数に刺さった棘がそれを不可能にした。
そして動かせない足の内部から、焼けるような痛みが走る。
内部から溶かしてやがるのか ! ?
「僕はこう見えて、侯爵位なんだよ? 君なりに僕の能力を理解したつもりなんだろうけど……もうちょっと考えるべきだったね」
クソ! さっきのは手加減してやがったな?
棘が強めにかけた龍纏を簡単に貫通してきやがった。
それにこの棘……ガキの挙動からは一才感知できなかった。
いったいどうやって足元に棘を――
そこまで考えて、俺は理解した。
そうか……さっきの赤い雨だな?
赤い雨は地面に落ちた後も残っていて、それをいつでも操れるってか。
やられたぜ……いや、こいつの言う通りもう少し様子見するべきだったぜ。
「まあそう落ち込まないでよ。僕の方が強かっただけの話だからさ。あっ、そうだ! 君を殺したら、その斧もらうけどいいよね?」
ガキは片手を俺に向け、そう言い放った。
「ま、君がダメって言ってももらうけどね? じゃ、お疲れ〜」
周囲の地面から赤い液体が、ガキの掌に集まっていく。
ぐっ ! ? クソ! 動け!
地面に貼り付けられた脚をなんとか動かそうとするが、既に足には力が入らなくなっていた。
なんだ ! ?
自分の足を見れば、膝から下がドロドロに溶かされていた。
「うおっ ! ?」
膝下を失った俺はバランスを崩し、地面に尻餅をつく。
「まずは一人目……さようなら」
そう言うと、掌に集まった赤い液体が勢い良く放出された。
やべえ――
ガキの釣り上る口角が見えた後、俺の視界は赤く染まった。
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