第183話 集結する仲間達

Side:天霧 英人




 左腕を落とされたと認識した瞬間、今まで感じたことのない激痛に襲われた。 


「ぐっ ! ? あぁあああ!!!」


 なんだ ! ? 唯の痛みじゃない!

 だめだ……気を失うな!


 膝をつき、なんとか激痛に耐える。


「大したものねぇ……意識を飛ばさなかったのは褒めてあげる。フフッ……どう? ちょっとオマケで苦痛を増幅させてあげたわよ?」


 嗜虐的に微笑みながら、ネメアは俺を見下ろす。


 苦痛の増幅だと……

 

「エクストラヒール!」

  

 肘から先が無くなった左腕に、回復魔法をかける。


 しかし傷口の修復が弱く、出血が止まらない。


「治癒も微妙に効いてるわねぇ。さすがは龍気の使い手って所だわ、呪いの効きが多少は弱まってる」


 少しずつ痛みは和らぎ、多少は思考の余地ができる。


 回復の阻害に痛みの増幅……厄介極まりない。

 それにまだ他にもあるだろう。


 クソッ……どうする。


 もう狂龍臨天は使えそうにない。

 あるもので戦うしか――


 痛みが引き、冷静にネメアを見て気付いた。

 

 腕が無い?


 ネメアの左腕は、俺が来た時既に失われていた。


 潤さんが付けた傷らしいが、一体どうやって?


 真祖の心臓とやらを取り込んだ状態でも、あの腕は再生しなかった。

 

 龍気の攻撃は普通に再生されるのに……多分だが神聖力だろうな。


 生憎俺には神聖力は使えない。


「何企んでるか知らないけどねぇ。坊やはもうソウル切れでしょう? もう悪足掻きはやめて、大人しく死んでちょうだい――」 


 ネメアは俺の思考を待ってはくれなかった。


 ネメアの姿がブレたと思えば、既に攻撃の挙動は終わろうとしていた。

 

 凶悪な爪がゆっくりと、首元に迫ってくる。


 速すぎる……認識するので精一杯――


 そしてネメアの鉤爪が俺の首に触れるかに思われた時、何かが起こった。


「水神結界!」


 突如視界に、半透明の膜が現れた。


――キーン!

  

 今度はなんだ ! ?


 見ればネメアの鉤爪を、青色の障壁が防いでいた。


「チッ……邪魔しないでもらえるかしら? 魔女さん」


 ネメアが振り返ると、そこにはボロボロのドレスを纏った青髪の女性が立っていた。


「はぁはぁ……危なかったわね英人ちゃん」


「ミランダさん!」


 俺を間一髪救ってくれたのは、母さんの守護を任せていたミランダさんだった。   

 

 ミランダさんの身体はどこか不自然で、身体のあちこちから白い光の粒子が微かに噴き出している。


 その様子を不思議に思っていると、ミランダさんから魂話が来た。


『大丈夫?』


『はい。助かりました』


『こっちにニアっていう吸血鬼が来なかったかしら?』


 そうか、ミランダさんがニアと戦っていたのか。


 俺はニアがネメアに変身した経緯を軽く説明した。



『そういうことね……どうりで、他の個体に比べて強いはずだわ』


『それよりその身体……どうしたんですか?』


 俺はミランダさんの身体から漏れ出る光の粒子について尋ねた。


『これねぇ……どうやら私の身体は、本物の肉体では無かったみたい――』


 聞けばニアの攻撃を受け、それが発覚したらしい。

 ミランダさんは攻撃を受けても出血する事はなく、代わりに白い粒子が漏れ出てきたらしい。

 

『――多分私は生き返っている訳じゃなくて、エネルギー体としてこの世に顕現している感じみたいね〜。体がソウルか何かのエネルギーでできているから、傷を負えばその分だけ戦えなくなるわ。申し訳ないけど、サポートするのが限界よ』


『いや、それで十分です』

 

 ミランダさんがサポートしてくれるだけでも心強い。

 

 それから、エネルギー体云々の話は終わってからで良いだろう。


 魂話でミランダさんと密談していると、ネメアが動き出した。


「久しぶりねぇ、忌々しい魔女さん。元気そうで何よりだわ」


「ええ、今日は真祖吸血鬼が討伐される日だからね。立ち会わない訳には行かないでしょう」


 ミランダさんとネメアがそう言い合っていると、今度は馴染みのある声が聞こえて来た。


「楽しそうね。私も混ぜてもらえるかしら?」


 背後から聞こえたのは、俺の幼馴染の声だった。


 振り返るとそこには、龍馬に跨るレイナがいた。

 

「レイナ!」


「間に合って良かったわ。さっさと倒して家に帰りましょう」


 レイナには見た所大きな外傷はない。

 それにレイナのユニークスキルは心強い。


「ああ……」


 まだ諦めるには早いな。


 全員で帰ろう……絶対に。


 狂龍臨天は使えないけど、俺たちならなんとかできるはずだ。


 ミランダさんの水魔法、レイナのユニークスキル、それから俺にあるもの全てを使って真祖を討つ!


 こうしてミランダさんとレイナの合流により、真祖ネメアとの最終局面が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る