第170話 各地遭遇戦
Side:村雨 大地
都心部を目指し、俺と健は吸血鬼の殲滅と市民の救援をしながら進軍していた。
「大地さん! あれ!」
並走する健が、前方を指差してそう言った。
俺たちは龍馬を止め、大通りの中心で待ち構える一人の吸血鬼に相対する。
「やっと来たぜ……俺様の相手はお前らか? はぁ……弱そうだなぁ」
大通りの真ん中で仁王立ちをしている白髪の吸血鬼。
周りに他の吸血鬼の気配はないが……なかなか手強そうだ。
俺は「換装の指輪」で槍を装備し、健はミスリル製のガントレットを装備した両拳を構える。
「俺様はネルダリオ……親父を殺したって奴はどっちだ?」
この肌を刺す様な威圧感……おそらく伯爵だろうな。
「お前の親父なんて知らねえよ? どうでも良いから死んどけ!」
っ ! ? 血の気の多い奴め……ちゃんと教育してくれ英人。
真っ先に殴りかかる健に続いて、仕方なく攻勢に出る。
「魔勁!」
――パシン
健の拳は簡単にネルダリオに受け止められる。
「まあそうだよなぁ……お前らみたいな雑魚に、親父がやられるはずねえもんなあ!」
「がはっ ! ?」
健の拳を掴んだ腕とは反対の腕で、健の腹部に痛烈な一撃を入れる。
――ドーン!
吹き飛ばされた健は近くの民家に突っ込んだ。
俺は背後を取り、特注のミスリルで出来た十文字槍を突き刺す。
「はん! 隙を突いたつもりか?」
十文字槍の突きは軽々と交わされた。
これは予想通り……
俺は魔力を槍に流し込む。
すると十字に伸びたサイドの穂先から、魔力で形作られた刃が伸びた。
「っ ! ?」
しかし穂先から伸びた魔力刃は、ネルダリオの頬を掠るだけに留まった。
「ハハ! お前はちょっとばかし楽しめそうだなあ!」
「それはどうも……英人、大地だ。俺と健も伯爵との戦闘に入る」
ユミレアさんの報告を聞いていた俺は、ついでに英人に交戦の報告を入れておく。
その報告を聞いて、ネルダリオが反応する。
「へぇ……てめえよく俺が伯爵だって気付いたな?」
さっきクランハウスに襲撃してきたあの吸血鬼の圧力に比べたら、こいつは大きく劣っている。
自分よりも格上なのは間違いない……だけどこれはチャンスだ。
俺が強くなる絶好のチャンス。
親父が昔言っていた。
『凡人が本当の強者になりてなら、死線を越えるしかねえ』
俺もそれに同意だ……
『しかしなぁ……ダンジョンには死線ってもんがねえ。なんつうか……実践に近い訓練、みてえな感じだな』
ダンジョンの魔物は機械的だからな。
だからコイツみたいな本物と戦えるのは、俺が強くなれる絶好の機会。
この機を逃しはしない!
「ネルダリオって言ったか? 悪いが俺の糧になってもらうぞ」
「へっ! 面白え……来いよ」
俺は十文字槍を構え、死線を越える覚悟を決めた。
***
Side:アーサー
僕は今、シーカーリングのカメラで目の前の光景を動画に収めている。
「ご安心召されよ。我らが護衛する故、安全に貴殿らを我が龍王国へとお連れしましょう」
ミスターの眷属のドラゴニュート達が、保護した市民達にそう声をかけている。
「ひっ……あ、ありがとう……」
「あ、あんた達は味方なのか?……」
助けてもらったとはいえ、人間とはかけ離れたドラゴニュート達の姿に怯える人は多い。
「トカゲさん! 助けてくれてありがとう!」
「こら! トカゲさんなんて言っちゃいけません! ご、ごめんなさい……息子にはよく言い聞かせておきますから」
別にトカゲさんで良いと思うんだけどね。
それよりも少年! 君のおかげで良い画が撮れた!
純粋な笑顔で、ドラゴニュート達にお礼を言った少年に感謝していると、僕のペアで行動しているミス・セツナが不満を言ってくる。
「アーサー殿……先程から何を? 今そんなことをしている場合では……」
僕はカメラを起動したまま、ミス・セツナの方へ向く。
「動画を撮っているのさっ、これも大事なことさ! 気にしないでくれたまえ」
「……」
納得できないと、不服そうな表情を見せる。
「もちろんすぐにまた進軍を開始するさっ……だけどね、これも大事なことなんだ。助けた市民を見ただろう? みんな僕らに怯えている」
「ええ、そうですね」
「今回の襲撃による被害は相当なものだろう……東京はもう壊滅状態だし、死者もおそらく一千万人規模になる。そして事態が収束した後、国民の怒りと悲しみの矛先はどこに向かうかな?」
ここまで説明して、ミス・セツナは理解した様だ。
「……なるほど、そういうことですか。見た目は完全に魔物であるドラゴニュート、それを従える代表は、今回の騒動を引き起こしたと勘違いされるのではないか? アーサー殿はそう思っているのですね?」
ミス・セツナが賢くて助かるよ。
「そういうことさ。実際そう喚き散らす御仁も居たからね……大半の人は怖がってる」
いくら団旗を高々に掲げても、その見た目のインパクトを拭うことはできない。
「「「グォアア!」」」
こうして時折、上空を旋回するワイバーン達が咆哮を上げている。
「ひい!」
「悪夢だ……」
「神様……神様……」
その度に、大半の保護した市民が怯える。
「みんな安心してくれたまえ! あれは全部味方さ! クランのマークが見えるかい? あれはこの間『英雄杯』で優勝した、ミスター天霧英人が代表を務めるクランの仲間さ!」
僕はできるだけ、彼らを安心させる事に務めるさ。
それと同時に将来起こり得るであろう非難の嵐に備えて、僕達は味方で友好的であることを示すんだ。
こうして一部のドラゴニュート達に市民の護衛を任せて、僕たちは都市部に進もうとしたその時だった。
「おやおや? あなた方は……龍人族ではありませんか? こんなところであの忌々しいトカゲ風情に出会えるとは!」
突然上空に現れたのは、片眼鏡をかけた黒髪ロン毛の吸血鬼。
これはまずいね……早くこの吸血鬼を市民から遠ざけないと。
「やあミスター。僕の方にも強そうなのが現れたよ。だけど心配御無用さ!」
そう! 僕はもう以前の僕ではないからね!
「うん? ああ、君ですか? ここを守護する強者は」
「お目が高い! だけどすまないね……君たちは美しくないから、手加減はしてあげないよ?」
コイツらの悪行は道中で散々見てきた……
流石の僕も、こんなに醜い生き物を見せられたら怒りもするさ。
「いくよ……準備はいいかい? ミス・セツナ」
「はい!」
見せてあげるよ……僕の修行の成果を!
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