第169話 最終フェーズ
Side:天霧 英人
潤さんの元へと向かってから数分、俺は思うように先に進め無いでいた。
「龍閃咆!」
――ドーン!
龍気の衝撃波が、波の様に押し寄せる吸血鬼の群れに空白を作り出す。
そしてポッカリと開いた空白は、瞬く間に元に戻る。
次から次へと……数が多すぎる!
倒しても倒してもキリが無く、ウジの様に際限無く沸き続けている。
そうして少しずつ吸血鬼を薙ぎ払いながら進んでいると、次々と魂話で報告が届く。
『ユミレアだ。伯爵の一人と交戦を開始する。心配するな……私の方に増援は不要だ』
ユミレアさんからの報告があってすぐに、高位の吸血鬼との遭遇が相次ぐ。
『英人、大地だ。俺と健も伯爵との戦闘に入る』
『やあミスター。僕の方にも強そうなのが現れたよ。だけど心配御無用さ!』
大地やアーサーさん達からも報告が入る。
そしてアーサーさんからの報告の直後、いくつかの魂が消える感覚に襲われた。
「っ ! ? これは……」
仲間が敵にやられた……
誰がやられたかは直ぐにわかった。
眷属のドラゴニュートが数名と、クランのメンバーが数人。
「くっ!」
気付けば拳を強く握っていた。
俺がそっちにいく余裕は無い……
「サクヤ……北側の増援を頼む」
『はいなのです!』
後方で待機させているサクヤを、北側から進軍するレイナの部隊の近くに派遣する。
先程いきなり消えた複数の眷属達の反応は、北側から都心方面を目指すレイナとキンちゃんのペアがいる辺りからだった。
「レイナ! そっちで何があった?」
『油断したわ……我道さんがやられた。それに何人かあなたの部下も……』
「っ ! ?……数分持ち堪えろ! サクヤを向かわせてる」
我道はキンちゃんの苗字だ。
キンちゃんの反応は弱くなっているが、まだ生きてはいるはずだ。
間に合ってくれ……
こうしてサクヤを派遣した後、俺自身は新宿方面への前進を続けた。
その後もミランダさんや天道さんからも連絡が入り、安全だった池袋も交戦状態に入ったとの報告を受けた。
そしてリュウガやリュートもそれぞれ交戦状態となり戦況は混乱を極める中、遠くで光の球が輝くのが見えた。
「なんだあれ……」
遠くて分からないが、小さな光の球が浮かんでいるのが見えた。
その光は小さいながらも、強烈に周囲を照らしている。
あれは新宿の方角、一体何が……
光の球が見えて少し後、潤さんからの魂話が入った。
『英人……最初にあった時のことを覚えてるかい?』
穏やかな声色とは裏腹に、潤さんの反応が急激に弱まっていく。
「潤さん!」
そう叫ぶも、潤さんは自分の言葉を続けた。
『結局ダンジョンに遊びに行く事はできなかったね……』
何を言って……
「待っていて下さい! 直ぐに行きますから!」
『後は任せたよ……』
そう言って、潤さんからの応答は無くなった。
「潤さん! 返事をしてください!」
『……』
くそ ! ? 早く潤さんの元へ急がないと!
しかし目の前の吸血鬼の波は、大人しく退いてはくれない。
「邪魔だ! 龍炎魔法……サンバースト・ストリーム!」
大量の龍気を消費して、太陽の炎を扇状に広げて解き放つ。
――ゴゴゴオ!
全てを焼き尽くす炎が視界を埋め尽くし、その後に肉の焼け焦げた匂いが一帯に充満する。
「ソラ! 突っ切れ!」
「グォアア!」
前方を一掃した俺は、高速でソラに乗って突き進む。
真っ直ぐと光の上がった方面に進むが、都市部に近づくにつれて吸血鬼の数はより一層に増していく。
「ヒッハー! 大将首ぃぃ!」
無数の吸血鬼が俺へと突っ込んでくるも、その全てを斬り捨てながら進む。
「退けえええ!」
襲い来る吸血鬼達を大剣で両断し、魔法で消し炭にしていく。
そうしてようやく、光の球が上がった場所へとやってきた。
しかし時既に遅く、潤さんの命の炎は完全に燃え尽きていた。
新宿S級ダンジョン前広場、その上空にいる俺は、眼下に映る凄惨な光景に思考が止まりかけた。
「……」
仰向けで大の字に倒れる潤さんと、その横に佇む一人の吸血鬼の女が見えた。
そしてそこから少し離れた所に、両腕を失い、胸に風穴を空けて倒れている剛さんの姿。
周辺に人の気配は一切無い。
夥しい数の一般市民や探索者の亡骸と、それを貪る吸血鬼の姿。
「あらあら〜、アナタがコアのガキね? 遅かったじゃない……フフ」
妖しく笑うその表情を見て……俺は抑えられなかった。
「貴様ァアアア!!!」
こうして、戦況は最終フェーズへと移行した。
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