第171話 死体漁り
Side:天道 レイナ
英人と分かれ、私と我道さんは北側方面へと迂回しながら、都心を北から包囲する形で進軍を始めた。
大通りを龍馬に乗って走っていると、我道さんが落ち着かない様子で声を掛けてくる。
「レイナちゃん、少し急いでも良いかしらん?」
「それは構わないけれど、どうして?」
家族が新宿周辺に住んでいるのかしら?
新人の子達も、皆一様に焦りと不安が表情に出ているわ……
家族と連絡が取れなくなった子がそれなりに居るし、皆気持ちは一緒なのね。
「未来ちゃん……まだステータスが発現してない女の子がいたでしょう?」
確か、ユニークスキルを持っているという中学生の女の子だったかしらね。
「ええ、その子がどうかしたの?」
「あの子が今日、家族と新宿に行くって言ってたのよ……」
新宿って……確か吸血鬼が湧いている地点だったわね。
だとしたらもう……
「どうしてさっき英人がいる時に言わなかったの?」
「あの子はね……私と同じで誰かに迷惑をかけることを嫌うから、嫌がると思ったのよ。だけどあの子と連絡が取れないから……だんだん不安になってきちゃったのよ」
ステータス無しじゃ、あの量の吸血鬼の群れから逃れることは不可能でしょうね……
でも急いだ方が良いことは確かね。
「わかったわ。少し急ぎましょう」
「ありがとう」
私と我道さんを先頭に、2千のドラゴニュートと15人のクランメンバーを引き連れ、進軍のペースを上げた。
ペースを上げて少し後、私達は西東京から練馬区へと入った。
それまでの道中は都市部から逃げてきた市民を保護し、クランハウスのある八王子市までの避難を誘導した。
そして23区に入った時、街の様子は一変したわ。
「ヒャヒャヒャ! ほらほら〜、もっと早く走らないと死んじゃうぜ〜?」
「逃げろ逃げろ! アハハ!」
「ぁああ!」
「やめてぇえ!」
「誰か助けてくれえ!」
逃げ惑う市民達を、大量の吸血鬼達が追い回している。
片腕を切り飛ばされた男性、両脚を失い這いつくばりながらも逃げる女性。
吸血鬼達はわざとトドメを刺さず、上空から彼らを見て笑っている。
「あいつら ! 」
「許せねえ……」
彼らは残虐だと事前に知ってはいた。
けれどいざ目の前でその光景を見ると……怒りでおかしくなりそうね。
「レイナちゃん……早くあのゴミを掃除して、あの人たちを助けましょう」
「ええ……水をお願いできるかしら?」
「アレやるのね? 任せてちょうだい!」
我道さんは懐から杖を取り出し、上空へと向ける。
「天の
地上から約1キロの遥か上空に、巨大な水の塊が出現する。
本来の「天の
上空に現れた膨大な水量の水塊を、落下させずに破裂させる。
――ドーン!
爆音が鳴り響き、一体に大粒の雨が降り注ぐ。
「ああん? 雨か?」
「おいおい、誰だよ雨なんか降らせた奴は? 新品の服が濡れちまうだろうが!」
結構な魔力を使った割に、敵に一切のダメージは与えられないただの雨。
けれど私が居れば話は別ね。
「総員突撃! 氷で動きを止めるから、ビビらないで急所を狙いなさい!」
ドラゴニュートとクランメンバー全員に、突撃の号令をかける。
「「「うおお!」」」
「「「ヒヒーン!」」」
私は先頭を走りながら、吸血鬼達を氷塊に変えていく。
「あん? んだよオメーら? 邪魔すん――」
「おいおい! 餌が向こうから来てくれ――」
――パキパキパキ
「ごめんなさいね? 一匹も逃すなって言われてるの……氷結」
魔力感知で感知しながら、吸血鬼だけを凍らせていく。
地上付近の吸血鬼は全身を凍結させ、上空の吸血鬼は翼や体の一部だけを凍らせて動きを封じる。
吸血鬼の再生力は侮れないから、地面に落ちて砕け散るのを避けたのよ。
吸血鬼への致命傷は、ミスリルの武器で与えないといけない。
「オラあ!」
「くたばれ化け物共!」
氷塊となった吸血鬼達を、それぞれが持つミスリル製の武器で仕留めていく。
的確に心臓を破壊された吸血鬼達が再生する気配はない。
こうして私たちは吸血鬼を狩り、生き残りの市民を保護しながら進軍を続けた。
そうして道中で凍らせた吸血鬼の殲滅や市民の保護をみんなに任せ、私と我道さんと一部のメンバーだけで先に進んでいた。
そして「天の涙」で雨を降らせたエリアを抜けた頃、また街の様子が変化した。
「また様子が一気に変わったわねん……」
「人も吸血鬼も、誰もいませんね」
「静かすぎます」
そう、街は不自然なほどに静かだった。
もちろん死体や、壊れた建物の残骸がそこら中に散らばってはいるわ。
だけど物音も何もかも、一切の音が聞こえてこないほどの静寂。
「何か変だわ……気をつけて進みましょう」
「「「はい」」」
そうしてしばらく警戒しながら進んでいると、道路の真ん中で泣いている少女がいた。
「うぅ……ウエーん! ママぁ……助けテー」
少女は地べたに座り込み泣き喚いている。
「お嬢ちゃん! もう大丈夫よ」
真っ先に、我道さんがそう言って駆け寄っていく。
――違和感
なぜかその少女に、私は強烈な違和感を感じた。
すぐに少女を観察する。
この違和感は何?
目で見た限りでは分からない……ならユニークスキルで――っ ! ?
空気中の水分にソウルを乗せて操作し、水分を少女の肌に触れさせる。
その瞬間、違和感の正体が判明した。
「我道さん! 近づいちゃだめよ! その子はもう死んで――」
少女には体温が無かった。
「もう大丈夫よ。ママはお姉さんが探して――」
――グサリ
「――がはっ ! ? なに……が――」
私の忠告は遅く、既に至近距離まで近づいていた。
そして少女の肩に手が触れようとした時、少女の口は三日月の様に裂け、同時に我道さんの背中から腕が生えていた。
「ママ助けテー! ププッ……プハハ! やっぱり人間って馬鹿よねえ ! ?」
少女は笑いながら、我道さんを放り投げる。
油断したわね……
「ごきげんよう……私はミーヴァ、伯爵よ。それと『死体漁り』とも呼ばれてるわ」
少女は立ち上がり、手についた血を舐めながらそう言った。
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