第165話 死の降臨
Side:天霧 英人
そして潤さんとの連絡が途絶え、合流に向かおうとした時だった。
脳内に立て続けにレベルアップのアナウンスが鳴り響いた。
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
『レベルが上昇しました』
・
・
・
『レベルが上昇しました』
『レベル90到達を確認……コアスキル「魂の覚醒」を獲得しました』
さっきの一撃で大量の経験値を得たのか?
いや、それにしては少しタイミングがおかしい。
となると、誰かが敵の主力を倒した?
レイナやリュート達はまだ敵の主力には遭遇していないはずだから……ジンが侯爵を倒した?
「ジン、侯爵を倒したのか?」
『……』
ジンからの返事は無かった。
まだ戦闘中か?
ジンとの魂の繋がりをまだ感じている。
ということは、少なくとも死んではいないはずだ。
だとしたら……ミランダさんか?
「ミランダさん。敵の主力を倒しましたか?」
ミランダさんからはすぐに応答があった。
『たった今候爵の一人を倒したわよ〜』
池袋周辺の被害は皆無だと、美澄さんから聞いている。
おそらくミランダさんのおかげだろうことは予想できていたけど、侯爵までこの短時間で倒してしまうとは……さすがはS級の英霊だな。
それに侯爵一人でレベルが10近く一気に上がったのは嬉しい誤算だ。
レオが倒したネルダーという侯爵の時は、レベルが上がらなかった。
タオさんとレオとは契約していないから、そのせいで経験値がレベルアップ分貯まらなかったのかもしれない。
これまでで二人の侯爵を早い段階で倒せた。
だが油断はできない……下級の吸血鬼の数を考えれば、まだまだ敵が増える可能性が高い。
とにかく今は、潤さんとの合流を急ごう。
その後ミランダさんと少し話した後、予定通り新宿方面へと向かった。
少しだけ新しいコアスキルを確認したが、最初の二行を確認してすぐにステータス画面を閉じた。
______
「魂の覚醒」
:眷属、契約者の魂が覚醒するようになる。
任意で眷属または契約者の魂を覚醒させることはできない。
______
これまでには無かったパッシブスキルのようなもので、今すぐ使えそうなスキルでは無かった。
***
Side:御崎 潤
なんて奴だ……僕達の攻撃がまるで通じない。
「いやはや、まさかここまで未熟とは……これでは主をガッカリさせてしまうではないか」
僕の聖剣術と綾の弓、そして涼の影を使った攻撃とミトの魔法、その全てを涼しい顔で捌き切ってみせた。
公爵ニア……ここまでとはね。
僕の見積は大分甘かった。
なぜか最初の攻撃以来、ニアは僕らに攻撃を仕掛けては来ない。
ただ僕らの連携攻撃を淡々と捌くのみ。
僕達ではおそらくニアを倒せないが、英人君が来る時間を稼ぐことはできている。
状況が膠着したと見て、綾達が僕の周りに集まってくる。
「潤……英人はいつ来るの?」
「潤さん……悔しいですけど、僕らでは……」
「さっき連絡があったから、もうこっちには向かっているはずだ」
返答する余裕がなかったが……声は聞こえていた。
「じゃあもう少しの辛抱ね――」
綾がそう言うと同時に、公爵ニアに動きがあった。
「ほう……ドルテアは未熟だったが、ネルダーとバハランがやられたか。この星にも中々に腕の立つ者がいるようだな」
ニアは顎を摩り、少しの笑みを浮かべながらそう呟いた。
敵の誰かが倒された……それもおそらく3人。
流石だよ……
おそらく倒したのは英人君のクランの誰かだろう。
先ほど四方に飛び立った敵の主力の吸血鬼は、普通の探索者ではおそらく討伐不可能な相手だ。
少し勝機が見えてきたね……
周辺にどれだけの被害が出てるかわからないけど……相当な被害になっているはずだ。
戦いが終われば、この責任は僕に向けられるね……それだけが憂鬱だよ。
「さあみんな、もう少しだけ――」
「頑張ろう」……そう言おうとした瞬間だった。
――ゾワ
全身の毛が逆立ち、大量の冷や汗が流れ始める。
感じたのは絶対的な「死」の予感。
呼吸を忘れ、瞬きすら忘れてしまう程の絶望感。
「喜びなさい! 矮小なる人間達よ……主の御降臨です!」
両手を広げ、高らかに宣言するニア。
ニアの背後で大口を開けるダンジョンの入り口から、何かが空に飛び立った。
かろうじて動かすことができた目線の先で、僕は「死」を見た。
満月を背に空中で仁王立ちをしながら、こちらを見下ろしている羽根の生えた人影があった。
真紅の髪を腰まで伸ばし、血の気を感じない白い肌。
他の吸血鬼とは違って角は無く、羽根がなければ唯の若く美しい女性にしか見えない。
だがあれは……本物の怪物だ。
人が勝てる存在では……
「あっ……ぁれ……」
恐怖で回らなくなった呂律で、誰かが声を発した。
「「「……」」」
それ以外誰も、一言も喋ることは無かった。
そして僕は、おそらく真祖ネメアと思われる女と目が合った。
目が合った瞬間、真っ赤な唇が怪しく歪む。
「ははぁん……あなたが勇者ねぇ」
妖艶な笑みを浮かべながら、ネメアは僕を見て舌なめずりをした。
だめだ……恐怖に飲まれるな!
僕は必死に己を鼓舞し、なんとか声を絞り出す。
「全員、逃げろ……僕が時間を稼いで見せる」
僕は全員に撤退を指示した。
アレと戦ってはいけないと、本能が悲鳴を上げている。
だけど僕だけは……逃げることは許されない。
どんなに絶望的な状況でも、戦わなければならない。
自分の命を差し出して、自分以外の全てを守らないといけない。
僕は……勇者だから。
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