第128話 スポンサー

 

 修行を終えて代表執務室へと到着すると、既に大地と美澄さんとワンさんが机に向かって仕事をしていた。


 俺は中に入ってすぐに、三人に謝罪する。

 

「すまん、少し修行に熱中し過ぎた」

 

「おせえぞ〜英人。今日は何社かスポンサー契約の話で面会が入ってるから、割と忙しいぜ?」


 スポンサーか……急だな。


「本日は5社と面会の予定を組みましたので、早速打ち合わせから始めましょう。面会には私も同席するのでご安心を」


 5社もあるのか……まあどうせほとんどの企業は断る事になるだろうから、そこまで気張らなくてもいいか。


 スポンサー契約とは、企業とクランが契約する事だ。

 まあそのまんまだな。


 大体のクランでは金銭的援助を企業にしてもらう代わりに、Dリーグにてスポンサー企業のロゴが入った装備やアイテムを使用すると言った場合がほとんどだ。

 それ以外の契約形態ももちろんあるが、大体がこれだ。


 まあ俺はDリーグに出るつもりはないから、Dリーグが契約条件に入る企業はお断りする事になる。


 メディアや番組に出演するつもりもないし……いや待て、こんなクランにスポンサーって付くのか?


 俺たちが払える対価が見当たらない……


 これはすぐに美澄さんと話したほうがいいな。

 

「美澄さん、打ち合わせ行きましょう」


「はい」


 俺は美澄さんを連れて直ぐに、隣にある会議室へと向かった。




「番組とかDリーグとか、俺自身はあまり出るつもりじゃないんだけど……というか出たくないんだけど」


「そう仰ると思いましたので、Dリーグや番組出演が契約内容にある企業は既に弾いてあります」 


 おぉ……さすが美澄さんだ。

 と言うかここまで仕事ができるのはもはや怖いくらいだ。

 本当に助かる……


「美澄さん、あなたがいてくれて本当に良かったです」


 思わずそう言葉に出してしまうくらいには感謝している。


「っ ! ? や、やめてください……何ですか急に」


 美澄さんはそっぽを向いてそう言った。


 耳が赤いな……照れてるのか。


 美澄さんは頑張ってくれてるし、もっと褒めてあげる事にしよう。

 それに協会とは別に、「龍の絆」から出す給料も弾まないとな。


 それには金が要る。

 良いスポンサーを見つけなければ……


 そうして美澄さんとガッツリ打ち合わせを済ませ、あっという間に面会の時間になった。




 応接室で待機していると、美澄さんが最初のスポンサー候補を連れて来た。

 ノックと同時に立ち上がり、来客を出迎える。


「失礼します。満腹亭のオーナー様をお連れしました」


 一人目は満腹亭というレストランのオーナーだ。

 ここ最近は毎日出前とかファストフードばっかりだから、そろそろちゃんとした料理が食べたいね。


「おお、本当にクランの代表やってやがった。よう大剣の兄ちゃん! 初めましてだな、俺は万丈ばんじょう藤吉郎とうきちろうだ。レストランのオーナーをやってる」


 入室してきたのは恰幅の良い40代くらいのおじさんだった。


 と言うか……この声どこかで聞いたことあるような。


 あのハゲた頭、そして人ごみの中でもよく通る、少ししゃがれた声。

 何より、大剣の兄ちゃんというワード……


「もしかして……試合とか昇格試験で、毎回俺の事応援してくれていた方ですか?」


「おっ、覚えててくれたのか? こりゃ嬉しいな。最初の昇格試験を見た時から、俺は兄ちゃんを応援しようと決めてたんだ」


「そうだったんですね。毎回万丈さんの声援は聞こえていました。立ち話もなんですから、どうぞ座ってください」


 まさか知り合いというか、認知している人物が来るとは思わなかった。


 俺と万丈さんはソファに座り、早速スポンサー契約についての話が始まった。


「契約の内容ですけど、この書類に書いてある内容で本当に良いんですか?」

 

 事前にある資料には、こちらから提供するものは必要無いと書かれている。

「龍の絆」が提供できるものは鉱石とか魔石しかないから、そもそも飲食店に利益があるものを提供できない。

 これでは万丈さんの方にメリットが無い。

 

「ああ、事前に提示した通りで構わねえ。ウチからは支援金として3000万出資する。それと俺とウチのシェフを何人かここで雇ってほしい。兄ちゃん達の胃袋は俺が満足させてやるぜ」


 3000万円の支援に、シェフとしてここで働いてくれると……ありがたい。

 ありがたいが――


「どうしてそこまでしてくれるんですか?」


 万丈さんは裏の無い笑みを浮かべて答えた。


「兄ちゃんには楽しませてもらったからなぁ……その礼だ。それに、この前の大会ではがっぽり稼がせてもらったしな! ワハハ!」


 がっぽり稼いだ?


 俺は意味が分からず、美澄さんに視線を向ける。


 美澄さんは俺の意図を理解して、すぐに説明してくれた。


「どうやら万丈様は英雄杯の賭けで、全財産を代表の優勝に一点賭けしたそうです。ちなみに代表のオッズは24倍でした。ちなみにですが、私もそこそこ稼がせてもらいました」


 なるほどそういうことね……そんなに俺の事を応援してくれていたのか。

 それに美澄さんまで……


 この前の英雄杯では、公式で賭けが行われている。

 選手は賭けに参加できないから、俺は一切気にしてなかった。


 俺のオッズが24倍って、1万円賭けたら24万円になるの?


 俺は相当人気が無かったのか。


 そして、そんな俺に全財産……いったいいくら儲けたことやら。

 自分で賭けられないのが本当に残念だ。


 まあともかく、話してみた感じ何か裏があるわけでは無さそうだし、人柄も良い。

 

 これはありがたく契約させてもらおう。

 

「そういうことでしたか。万丈さん、あなたと契約を結ばせてください」


 俺は立ち上がり、万丈さんに右手を差し出す。


「ああ、もちろんだ。これからよろしくな!」


 万丈さんは今日一番の笑みを浮かべ、俺の握手を返してくれた。


 こうしてまずは一社、満腹亭とのスポンサー契約が締結された。


 そして万丈さんとの契約が結ばれ、次の企業の代表が来るのを待っていると、俺のシーカーリングにメッセージが届いた。


 ______

 御崎潤

 :緊急で情報共有したいことがある。

  今日中に話せる時間はあるかい?

 ______

 

 メッセージは御崎さんからだった。

 何やら緊急の要件があるようで、今晩御崎さんとオンラインでの会談が急遽決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る