第127話 魔纏の極地

 レイナ達の修行を見た翌日、俺はまた日が昇る2時間ほど前に起床した。


 そして現在、昨日の朝に生成しておいた空間に来ている。


 真っ白な壁で覆われ、球体を半分に割ったドーム型の空間になっている。

 直径は丁度1キロメートルで、円状にしたのは外周を走るためだ。

 地面には土が敷き詰められており、それ以外は何も無い。

 

 まあ単純に生成するコストが高すぎるから、土と空間以外何も無いだけなんだけどね。


 物質生成で試し斬りの的とか作ってもいいんだけど、それは必要になった時に生成すればいいさ。


 それじゃあ、まずは外周のランニングからだな。


 龍装は全て外し、素のステータスだけの状態にした。

 今はレベル80だから、全数値13000になっている。

 大体ユニークジョブの人と同じくらいの値だ。


 とりあえず、息が上がるまで全力疾走を続けよう。


 柔軟で体をほぐし、両手を地面に着けてクラウチングスタートの体勢をとる。


 よーい……ドン!


――ドーン!


 地面を蹴る力が強過ぎて、地面を大きく抉った感覚がある。


 俺は気にせず全力で走った。

 すると大体10秒ほどで、先ほど抉ったと思われる地面が見えてきた。


 もう一周したのか……


 陥没した地面を避け、そのまま走り続ける。


 


 そうして走り続けて数十分ほど経過した頃、さすがに限界を迎えた。


「ハァ……ハァ……」


 久しぶりにこんなに息が上がったな。


 よし、息が整う前に次の修行に入らないと……


 俺は肩で息をしながら、その場で胡坐をかく。


 そして心臓付近にある魔力を、血流に乗せて全身へと送る。


「ハァ……ハァ」


 呼吸が大きく乱れているせいで、思うように魔力の調整ができない。


 やっぱり難しいな……だがこの状態でも魔力巡纏を維持できるようにならないと、次のステップに進めない。


 魔力巡纏の次の段階は、ちゃんとユミレアさんに聞いている。


 今の魔力巡纏は、筋繊維の強化が主だ。


 そして次のステップはおそらく細胞の強化だ。

 おそらくと言っているのは、ユミレアさんのいた世界に細胞という概念が無かったからだ。


『次のステップは、魔纏による自然回復能力の上昇だ。これは私も習得できていない。これがどうにも上手くいかなくてな……すまないが私が教える事はできない』


 こう言っていた。


 そしてちなみにだが、その先の段階も聞いている。


『魔纏の極地はどうやら、意識を加速させたり、反応速度を上げることができるらしい。これを使える者はお師匠様しか知らない。そしてそこまで魔力を扱える様になった時、新たな世界が開けるらしいぞ?』


『新たな世界?』


『ああ、どうやら世界が自分のものになるらしい。フッ……意味がわからないだろう? 私もわからん』


 世界が自分のものになるとかは一旦置いておこう、俺も意味はわからない。


 その前段階の自然回復に関しては、おそらく細胞分裂の話ではないかと思っている。

 細胞を魔力で活性化させることで、損傷した肉体を修復させているんだと思う。


 そして意識の加速とか、反応速度が上がるだとかは、俺は既に経験している。

 タオさんとの戦いで使った「エーテルドライブ」がまさにそれだろう。

 神経系や脳の強化が、魔力巡纏における奥義って事だろうな。

 

 あれはまあ……雷の性質を付与したからできたことで、「エーテルドライブ」無しでは到底できない。


 とにかくまずは、細胞ひとつひとつに魔力を送れるようにならないといけない。


 何回か試してみたけど、なかなか難しい。


 細胞に行き渡らせるのはそこまで難しくないけど、なぜか活性化している感じがしない。


 どうすれば上手くいくのか分からないから、とりあえずは魔力の制御をもっとできるようになる事に舵を切った。

 

 だから今は、息の上がった状態での魔力巡纏を練習している。


 血流の速くなっているこの状態で、筋肉に送る魔力量を調整しようとしているところだ。


 上手く制御できる様になれば、ひとまずは強化倍率の急上昇に振り回される事はなくなる。


 しばらく魔力の調整に四苦八苦していると、全力疾走で上がった息が整ってきた。


「ふぅ……一旦ここまでかな」


 息が整ってしまったら、この修行法は使えない。

 

 この修行に効果があるかは分からないが、師匠がいない以上は手探りでやっていくしかない。


 というか……本当は龍纏でこれを試したいんだけど、今の所龍気を修行で使うには総量が足りない。


 魔力を変換する以外で龍気を貯められる方法があれば良いんだけどな……


 最悪、魔石を龍気に変換することも視野に入れないといけない。


 まあ、しばらくは魔力の方で訓練するしかないな。


 よし、次は剣術の修行に入ろうかな。


 思いっきり剣を振って、息が切れたらまた魔力の修行を挟もう。


 そうして俺は、俺専用の修行空間で思う存分に修行に励んだ。


 おかげで気付けば時刻は9時を過ぎており、慌てて代表執務室に向かう羽目になった。

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