第126話 連戦連敗

 魔力の訓練を始めて2時間が経った。

 俺は3人の様子を見ながら、時折アドバイスをした。

 予想通り契約をしていないタオさんは、魔力を動かすことはできなかった。

 

 大地は苦戦していた様子だったが、なんとか魔力が揺れ動く程度までは感覚を掴めたようだ。

 大地に関してはもうしばらく訓練が必要だな。


 そしてレイナに関してだが、これには少々驚いた。


「案外出来てしまえばなんてことないわね。どうしてあんなに苦労していたのかしら」


 レイナの魔力は血流に乗り、全身へと行き渡っている。

 まだ筋肉に行き渡る魔力の量がバラバラで、上手く身体強化が出来ていない状態だ。

 雑な部分は多いけど、あと一歩で魔力巡纏の完成まで来ている。


 才能……と言うには、少々成長が早すぎる気がするな。


「お前それどうやってるネ! なんでウチが出来ない事がお前如きに出来るネ ! ?」


「これがセンスの差よ。あなたは見た目通りセンスがなかっただけの話じゃない?」


「ムキー! 見た目通りって何ネ!」

 

 簡単に成功させたレイナを見て、タオさんが対抗心をむき出しにしている。

 そして二人はすぐに喧嘩へと発展した。


 二人は一緒にしない方がいいのか?

 というかなんでこんなに仲が悪いんだ?


 まあいいや、これから思う存分戦ってもらう予定だし……


 俺は魔力の修行を切り上げることに決め、全員に声を掛ける。


「じゃあ、次は仮想戦闘室に移動するよ。レイナもタオさんも、そこで思う存分やっちゃってよ」


「望むところね」

「ギッタンギッタンのベッコンベッコンにしてやるネ!」

「……」


 女性陣がピリピリする中で一人だけ気まずそうだが、構わず俺たちは仮想訓練室へと移動した。




 仮想戦闘室に移動した俺は、まずはタオさんに説明をする。


「タオさん、今日から二人を徹底的に鍛えてやってください。それがタオさん達をここに滞在させる条件です」


 俺たちのクランには丁度、師匠となる人物が必要だったからな。

 タオさんがなんでもすると言った時に、真っ先に訓練相手になってもらう事を思いついた。


「え〜面倒臭いアルな〜 でもダーリンの頼みなら仕方がないネ……」


「絶対に手は抜かないでください。手加減は不要です」


「分ったネ、心が折れても知らないアルよ〜」


 レイナと大地なら問題ないさ。


 タオさんに一応の了承を得た俺は、レイナと大地のところに向かった。


「レイナと大地は今日から、タオさんとの模擬戦を日課にしてもらう。タオさんがいつ国に帰るかわからないけど、それまでにタオさんを倒せるようになるのが目標だ」


 敵にはタオさんより強い奴なんてゴロゴロいるだろう。

 それが10人か……はたまた1000人なのかは分からないけど、どちらにせよS級を軽々と倒す力は最低限必要だと思う。


「剣聖とあなたには負けたけど、それ以外で負けるつもりはないわ」


 うん、それでいい。


 タオさんは強い。

 おそらくあの試合は、俺のエーテルドライブで決めきれなかったら負けていたはずだ。

 確か「鬼起至天ききしてん」だったか……タオさんのスキル、あれにはまだ上がある気がするんだ。

 出される前に倒せただけな気がしている。


 そしてレイナとは反対に、大地は自身無さげにしている。


「俺は……まあ、やれるだけやってみるしかないか」


 お前なら勝てるようになるさ……


 心の中で大地に激励を送り、まずはレイナとタオさんの模擬戦から始める事にした。


「じゃあレイナとタオさんからいきましょう。マップは完全ランダム、痛覚も現実と同じに設定しますが、必要以上の攻撃は避けてください。それ以外のルールはありません。二人とも準備はいいですか?」


「ええ」

「もちろんネ」


 二人が同時にキューブに触れ、模擬戦が開始された。

 

『転送を開始します』




 そうして、模擬戦を開始してから2時間が経過した。

 レイナと大地が交互にタオさんと戦い、合計126試合が行われた。

 時間と試合数を見て分かる通り、二人とも1分も持たずに敗北している。

 

 俺はこの2時間、二人の戦いを見ながらどういうスキルを与えるべきかを考えていた。


 俺の「ビルドシステム」は眷属だけでなく契約者にもスキルオーブを使うことができる。

 だがそうは言っても、最初から全てのスキルを与える事はしない。

 スキルを増やせば手早く簡単に強くなれるけど、使いこなせないと意味がないし、そもそもスキルには致命的な欠陥がある。


 例えば火魔法の「ファイアーボール」なら、最大消費のMP100で発動することが限界だ。

 これはつまり、MPを100消費すれば、誰が魔法を発動しても同じ「ファイアーボール」になるってことだ。

 

 ステータスレベル1のルーキーと、大魔術師のミトさんを比べても威力は同じになる。

 だから魔術師は、最大MPが多い者と、属性を複数持つ者が圧倒的に有利になってしまう。


 そして武術系スキルの場合は、ステータスの数値で威力が変わる。

 下級ジョブと上級ジョブではステータスの伸びが全く違う。

 だから「剣士」は「剣豪」以上の威力を出す事は不可能だし、「剣豪」は「剣聖」以上の威力を出ない。


 当たり前といえば当たり前だが、ここに当人達の努力はほぼ関係ない。

 与えられたジョブの優劣に、全てが左右されてしまう。

 努力家な熟練の「剣士」が、怠惰な「剣豪」に簡単に負けてしまう。


 これが世界の現実であると同時に、俺はこれを欠陥だと思っている。

 

 この不平等なシステムを破壊できる可能性が、「技能」にはある。

 だからみんなには基本的に技能を習得させたいが、技能は習得に時間がかかる。


 器用貧乏にならないように、少数の技能の修行に専念すべきだろう。

 そこで足りない部分を、スキルで補うと言うのが俺の方針だ。

 

 少し話は逸れたが、二人に与えるスキルを決めよう。

 

 まずレイナが習得した方がいいものは「水魔法」だろう。

 水魔法があれば、レイナのユニークスキルの可能性は無限だ。

 

 だが現状は魔法の師匠がいないから、ひとまずスキルで「水魔法」を与えるしかないかな。

 先ほどから水が周りに少ない砂漠や火山のステージでは、ほとんど何もできずにやられてしまっている。

 

 そして大地のジョブは「魔術師」だが、やっぱり槍での戦いをメインとしている。

 大地には「槍術」が良さそうかな。


 あとは二人にステータス強化系スキルを与えて、しばらくは魔力巡纏の修行だな。


 そう結論を出したタイミングで、レイナとタオさんの模擬戦が終わった。


「ワーハッハ! 二人ともまだまだアルな〜」


「「くっ……もう一回!」」


 両手を腰に当て、高らかに笑うタオさん。

 対してレイナと大地は悔しそうにしているが、まだまだやる気はあるようだ。

 

「二人とも程々にな……」


 まだ当分は終わらないだろう。

 俺は執務室に戻って、あっちの仕事を手伝うか。


 その後俺は修二とワンさんの方に合流し、3人がかりで応募書類の選考をしていても、あっという間に1日が終わってしまった。


 今日も自分の修行はできなかったけど、明日には箱庭の空間が完成するだろう。

 

 少し早めに起きるとしようかな。

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