第125話 修行開始

 ルーシーさんとアンナさんと別れ、俺は改めて執務室へと向かった。


 当然、タオさん達も連れてだ。


 執務室に到着すると、修二がすでに作業を始めていた。


 俺達の入室に気づいた修二は、目の前のモニターから視線をこちらに向けた瞬間に固まった。


「遅いぜ英人〜、何してた――」


 修二はタオさん達が来てること知らなかったのか?


「け……拳聖 ! ?」


 驚いて固まっている修二を、タオさんに紹介する。


「こいつはクランの仲間の浦西修二で、主に事務の担当してもらってます」


「ほう、ダーリンの仲間アルか……ならばタオ様と呼ぶといいネ! それか、お……奥様でも良いアル……」


「ダーリン? 奥様? 英人、お前まさか……」


 早速修二は誤解してるし、タオさんも恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに……


 タオさんは頬を染めてモジモジしている。


 あんまり強く否定してもタオさんが可哀想だし、かと言って否定しないわけにもいかない。


 困ったな……まあ、後で修二には説明しておけばいいか。

 

「はぁ……ところで修二、応募書類はどうなってる?」


 話題を変え、クランのメンバー募集の話に切り替える。


「お、おう。戦闘員の応募は昨日の2倍の約5000件、他にも企業からスポンサーの打診と、事務スタッフの応募もたくさんきてるぜ」


 おお……昨日の配信で減るかもしれないとも思ったが、意外にも増えてるな。


 まあ肝心なのは、下級ジョブやジョブ無しの応募が増えているかどうかだけどな。


 早速分担を決めて、応募の書類に目を通すか。


「じゃあ美澄さんは、スポンサー打診と事務スタッフの応募をチェックしてもらえますか? 事務スタッフとスポンサーは早めに決めたいので、明日以降どんどん面会の予定を立てちゃっても大丈夫です」


「かしこまりました」


「それから修二とワンさんは戦闘員の応募のチェックをお願いします。ワンさん、選考基準なんかは修二に聞いてください」


 戦闘員の応募はかなりの数だし、ここでワンさんに手伝ってもらおう。

 

「はい、お任せください」


 よし、これで多少余裕ができたな。


 ここは彼らに任せて、俺は訓練室へと向かうか。


「タオさんは俺に着いてきてください。しっかり働いてもらいますから」


「ダリーンったらこんな昼間から……夜まで待てないアルか? しょうがないアルな〜もう! グヘヘェ……」


 なんか勘違いしてるな……


「置いて行きますよー」


 俺は気にせず、執務室から一階の道場に向かった。


「今行くアルよ〜」




 道場に到着してもまだ、タオさんの勘違いはそのままだ。


 この一階にある道場は、トレーニング用の畳が一面に敷き詰められている。

 古い民家にある様な畳ではなく、柔道場にあるような衝撃を吸収するために弾力のある仕様になっているやつだ。

 

「ダーリンはこういう場所が趣味アルか〜 まあそれはそれで良いアルな!」


 レイナ達遅いな……


 ここにくる途中、レイナと大地に道場に来るように連絡しておいた。


 お? 来たかな。


 訓練場の自動ドアが開き、レイナと大地がやってきた。


「ここが道場か、本格的だな」

 

「今日は何する……あなた、どうしてここにいるのかしら?」


 レイナがタオさんを見た瞬間、その表情が険しくなった。


「ウチがここにいると何か問題でもあるアルか?」


 一触即発の空気が流れ始めた。


「お前ら……良い歳して、また偉い大人達に怒られたいのか?」


 大地が二人を見て呆れている。


 というか、やっぱりあの後怒られたのか……


 あのパーティーにいた偉い人って、各国の大臣とか協会の上の人だよな……それは嫌だな。


「「ぐっ……」」


 その言葉が効いたのか、二人は大人しくなった。


「それじゃあ早速、訓練の方を始めようか。今日からはレイナと大地に、魔力の使い方を教えようと思う」


 本当はユミレアさんに修行をお願いしたいけど、母さん達の護衛が育つまではお預けだ。

 その間は、俺が稽古をつけることにした。

「魔力巡纏」の修行だけなら、俺も教えることができる。


「「魔力の使い方?」」


「二人とも魔力感知を使って、俺の魔力の動きを見ててくれ」


 俺はそう言いながら、魔力巡纏を発動した。


 魔力が身体の中心から、血流に乗って徐々に全身へと流れていく。


 魔力巡纏を見た二人の反応はそれぞれ違った。


「魔纏か……それがどうし――っ ! ? いや、これは……魔纏なのか?」


 大地は普通のものとの違いに気づいて驚いている。

 

「試合でも使ってたわね……何年修行したらそんな風に動かせるのよ。すごいわね……私は魔力を揺らすのが限界なのに」


 揺らすのが限界?


「待てレイナ、お前もしかして、魔力動かせるのか?」


 二人は昨日の夜に契約しているから既に魔力を動かせるはずだけど、その後すぐに試した? 

 いや、口ぶり的にもっと前から知っていた感じがする。


「動かせるってほどじゃないわ。昔少し訓練してみたけど、ほとんど出来る様にはならなかったもの」


 どう言うことだ? 

 少なくとも大魔術師であるミトさんは、一ミリも動かすことは叶わなかった。


 ミトさんが絶望的に適性がなかった? それともレイナが特別なのか?


 レイナが特別だと言われた方がしっくりくる。


 レイナとミトさんの違いは……


 ユニークスキルを持っていることくらいか?


 分からないけどその可能性が高そうだな。


「そうか……まあとりあえず、二人とも魔力を動かすところからだな。見よう見まねでいいから、とりあえずやってみてくれ」


「わかったわ」

「お、おう」


 二人はその場に立ったまま、それぞれ魔力を動かそうと試みている。


 俺はふと、隣が静かなことに気付いた。


 タオさんの方を見ると、レイナ達と同じ様に魔力を動かそうとしているみたいだ。


 タオさんにこの修行を見せても問題はない。


 これでタオさんが魔力巡纏を習得してしまっても構わないけど、おそらくそれは無理だ。


 技能の習得はおそらく、俺の「魂の契約」が関わっていると見ている。


 まだそう断言するには確証が少ない。

 だが仮にレイナ達が習得出来て、拳聖であるタオさんが習得できないとなると、俺の仮説はより確かなものになる。


 今日1日では習得できないと思うが、魔力を動かすくらいは出来るだろう。


 さあ……どうなるかな?


 俺は3人を観察しながら、時折アドバイスをしていった。

  

 こうして、レイナ達の技能習得を目指す修行が始まった。




______

あとがき


近況ノートにも書きましたが、今日からカクヨムコンテストが始まったと言うことで、せっかくの機会なので今日から毎日更新していきます!

体調不良や執筆状況によって、もしかしたら投稿できない日もあるかもしれませんが、そうなった場合はご了承ください。


カクヨムコンには一応この作品でエントリーすることにしました。

あまり皆様に見返りを求めるような事は控えてきましたが、今日だけなので言わせてください!


少しでも「面白い!」、「続きが読みたい!」と思った方は応援の方もよろしくお願いします!


それでは今後とも楽しんでくださいね〜

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