第121話 諦めないあなたへ

 Dチューブの生配信が急遽決まり数十分後、今は配信に誰が出るかを話し合っている所だ。


「まず俺とアーサーさんが出ることは確定として、レイナと大地も一応出演してくれないか? 二人が出ることで見てくれる人が増えると思うんだけど」


 レイナは元々知名度が高いし、大地も父親の影響である程度名前は売れている。


 二人の知名度で視聴者を獲得できればと思ったんだが……

 

「私は遠慮しておくわ。目立つの好きじゃないし、それに私が出ると変なのたくさん来ると思うわよ?」


 うーん確かに……レイナ目的で来られても困るな。


「そうだぜ! レイナちゃん目当てで来られても迷惑だしな! うん、レイナちゃんの出演は俺が許さん!」


 修二……お前は半分レイナ目的だろ。

 それにさっき初対面の挨拶した時はガチガチに緊張してたくせに……


「ちょっと、その『ちゃん』付けで呼ぶのやめてもらえる?」


「イエス・マイ・レディ!」


「はぁ……英人あなた、友達はちゃんと選んだ方がいいわよ」


 まあ修二に関しては本当にただのファンだし、変なことはしないだろう……多分。


「まあこいつに関しては早く慣れてくれレイナ。で、大地はどうする? 大地にもコアなファンがいたりするのか?」


「ファンなんていないと思うが……そもそも俺もメディアに出るのは好きじゃない、そういうのは親父の役目だ」


 ふむ、まあ無理強いは良くないしな。

 俺とアーサーさんだけでやるか。


「そもそもあなたは、自分の知名度分かってるの? 私と大地が出なくても、あなたが出るだけで十分なはずよ」


 と、レイナがそんな事を言ってきた。


 俺の知名度?

 まあ、父さんが有名すぎるからある程度はあると思うけど……


「そうだぜ英人、お前が世間でどれだけ話題になってるか知ってるか? 『超新星』、『英雄二世』、『龍剣士』、ネットではお前の二つ名を決めるのに絶賛大荒れ中なんだぞ」


 修二によると、俺はかなり時の人になっているらしい。


 自分のことなんて調べないし、ネットはそもそもダンジョンの調べ物以外で見ないからあまり実感がない。

 

 そうこうしていると、各メディアに連絡を取っていた美澄さんが戻ってきた。


「お話中失礼します。合計11社から、告知の記事を流してもらえることになりました」


 この短時間でそこまで……というかよく向こうもOKしてくれたな。


「メディア側から提示された条件として、後日クランを取材させてほしいとのことです。それでよろしいですか?」


 ああ、そう言うことね。

 さすがにタダでやってくれるわけないよな。


 取材で時間を取られるのは気が進まないけど、今回はしょうがないね。


「その条件で大丈夫です。18時にアーサーチャンネルで生配信するので、そう記事を出してもらうよう願いします」


「畏まりました」


 その後各報道機関が一斉に、『英雄杯を制した天霧英人から重大発表 ! ?』、『英雄二世は何を語るのか?』などなど、各社それぞれの見出しで記事が公開された。


 記事の公開から数分で瞬く間に拡散され、想像以上の反響となっていた。


  


 そして時間はあっという間に経ち、生配信開始の15分前となった。

 既に俺達は準備を済ませ、あとは時間が来るのを待つのみとなっている。


 アーサーチャンネルの配信待機画面を見ると、既に40万人の同接を記録していた。


「すごいな……まだ始まってすらないのに」


 これがメディアの記事の効果かと、思わず驚いてそう口にしていた。


 俺の呟きに、アーサーさんが返してくる

 

「そう、ミスターはすごいんだよ。大会で優勝する前からね」


 続けてアーサーさんは、ダンジョンでライカンと遭遇した時のことを話し始めた。


「あの日ミスターに救われた時、僕は生配信中でね。その時の動画がかなり再生されて、僕のチャンネルの登録者もかなり増えたんだ」


 アーサーチャンネルの登録者が多いのはそういうことだったのか。


 しばらくアーサーさんと談笑していると、いよいよ生配信の時間がやってきた。


 画面が切り替わり、俺とアーサーさんが映し出される。

 そして同時に、ものすごい勢いでコメントが流れてくる。


 そして最初の挨拶をアーサーさんが始めた。


「やあみんな! アーサーチャンネルへようこそ。今日は大事な話があってね……僕のことを見たい人もいると思うけど、残念ながら今日の主役は僕ではないのさっ――」


 いつものアーサーさんがしばらく続いた後、ようやく俺に話題を振ってきてくれた。


 コメント欄も案の定、荒れる一歩手前まで来ている。


「おっと僕としたことが、ついつい主役よりも輝いてしまったようだね……今日は僕が加入することになったクラン『龍の絆』の代表に来てもらったんだ。そう、みんなご存知ミスター天霧英人に!」


 大袈裟な身振り手振りで紹介されて少し切り出し辛い……


「……えー、皆さんこんにちは、天霧英人です。まずはたくさんの方がこの配信に来てくれていることに感謝します」


 カメラの下に設置した配信の画面を横目で見ると、同接はなんと100万人を超えていた。


 俺はその数字に驚きつつも、平常心を維持して続けた。


「早速ですが、私は『龍の絆』というクランを設立しました。今日はこの場を借りて、クランの仲間を募集させていただきたいと思います。すでに協会の掲示板には募集が掲載されていますが、その詳細について説明させていただきます」

 

 少し間をおいて、俺はコメントに目を通す。


 ”なんだクランの話かー”

 ”下級ジョブの俺には関係ないな”

 ”雑魚乙、上級ジョブのワイ勝ち組”

 ”ジョブマウントうざ”

 ”ジョブすらない俺が通りますよっ”

 ”Dリーグには出ないのかな? もっと戦ってるとこ見たいです!”


 やっぱり思った通りだ。

 

 下級ジョブ以下の応募がほとんど無いのは、「クランに応募しても入れるわけない」、「上級ジョブでないと探索者として大成しない」、これがみんなの価値観として根強いからだ。


 俺は話を再開した。


「まず私のクランでは、ジョブの優劣に関係なく探索者を採用します。下級も上級もジョブ無しも、選考には一切関係しないことを約束します」


 ”表ではみんなそう言うよね〜”

 ”そんなの建前でしょ”

 ”そもそもジョブ無いやつがどうやって戦うねん”


 やっぱりこれだけじゃまだ足りないか……


「ただ一つ必要なものがあるとすれば、覚悟だけです。どんな努力も惜しまない覚悟があるならば、俺達のクランに歓迎します」


 まだコメント欄は懐疑的、ただの綺麗事だと思われている。


 そこから俺は事前に決めていた通り、自分の境遇を話し始めた。


「知っている方もいると思いますが、俺にはステータスがありませんでした――」


 どうか伝わってほしい。


「18歳になるまで、自分が何者にも慣れないと分かっていながらも、毎日剣を振り続けました――」


 諦めないでほしい。


「探索者になるには無理だと、周りには言われ続けてきました――」


 この中にもいるはずだ……それでも何か、夢や目的を諦めたく無い人が。


 俺が境遇を話し終える最後まで、コメント欄には俺を支持するような声は見られなかった。


 そこで一旦、ダンジョン攻略をメインとするクランメンバーの募集を終え、続いてスポンサーや事務スタッフの募集もついでに行った。


 この大きなクランハウスの管理は大変だから、清掃員、装備の管理をする人、日々の食事を用意するスタッフなどなど、戦闘員以外の様々な募集をかけた。

 

 このコメント欄の感じだと、もしかしたら事務スタッフの方が応募は多くなるかもな。

 

「俺を信じてくれるなら、一緒に活動しましょう。俺は必ずあなたの力になります。たくさんの応募、待っています」


 そして最後にそう締め、生配信は終了した。


 まあどうなるか分からないけど、期待はしないでおこう。

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