第120話 合流(後編)・第一回役員会議

 来訪の知らせから5分ほど執務室で待っていると、修二を連れた美澄さんが到着した。


「おっす英人〜 あ、これ優勝祝いな!」


 そう言って入室してきた修二は、大きな花束を両手に抱えていた。

 よくあるレストランの開店祝いに、店の入り口に飾ってあったりするアレだな。


「おお、わざわざありがとうな。ところでお前……その髪どうした?」


 修二は高校の時から茶髪にしてたけど、今は綺麗な金髪になっている。 

 大学デビューってやつなのか?


「ああこれか? 大学デビューだぜ?」


 ああ、やっぱりそうなんだ……こういうのって自分で言うもんなのか?


「なるほど……で、今日はどうしたんだ? クラン立ち上げたばっかで結構忙しいから、遊ぶ時間はないぞ?」


「そう聞いてな、人手が足りねえと思ってよ。お前のクランに入ってやってやろうかと思ってな! なんでもするぜ?」


 そう言うことか……


「採用」


 俺はこの場で修二の採用を決めた。


「え?」


 この感じだと、本当にクランに入れてくれるとは思ってなかったか?

 だが残念だったな……今日は猫の手も借りたいくらいくらいには忙しいんだ。


 呆気に取られる修二に、早速仕事を与えることにした。

 

「じゃあ早速だけど、そこに座ってくれ」


 この執務室には代表である俺が作業する大きい机と、ひと回り小さい机が他にある。

 多分秘書とか側近みたいな人が作業する机だと思う。

 早速そこに座ってもらった。


「おぇ? おう……」

 

 まだ現実を理解できてない修二だったが、容赦無く仕事を与える。


「モニター見てくれ。そこにクランメンバーの応募者の書類が表示されてるだろう?――」


 俺は修二に一通りの採用基準を話して、俺の応募者の審査を手伝ってもらうことにした。


「オッケーオッケー。要は俺たちのクランにふさわしいかどうか、そこだけを見れば良いわけだな?」


「ああ、ジョブの優劣とか将来性とかは一旦どうでもいい。一緒にやって行けるかどうか、ちゃんと努力できるかが大事だな」


「任せなさい! 俺は人を見る目だけは自信があるんだ! ハハハ!」


 なんかこいつ急に調子良くなったな……


 いきなり権力を持たせるのは間違えたか?


 なんだかこいつに書類で落とされた人達は可哀想な気もするが、まあ修二も馬鹿じゃないし問題ないだろう。


 こうして修二を新たにクランに迎え、その後二人がかりでの書類選考が終わったのは、昼を少し過ぎた頃だった。




「ふぅ、なんとか終わったな」


 横を見れば修二が机に突っ伏し、口から魂が抜けそうになっている。


 修二に声をかけようとすると、執務室がノックされた。


 主はもちろん美澄さんで、今日二度目の来客を伝えにきた。

 

「天道レイナ様と村雨大地様がお見えになられています」

 

 おお! レイナと大地も来てくれたか!

 連絡しようと思っていたから丁度良い。


「すぐ行きま――」


「おい何してる英人、1秒でもレイナちゃんを待たせる訳にはいかない。すぐ行こう、今すぐ行こう」


 レイナが来てると聞いた修二は、いつの間にか執務室の扉を開け放ち、俺を催促している。


 そういえばファンだったなこいつ……


「では応接室までご案内します」


 俺たち3人は応接室へと向かった。




 美澄さんが扉をノックし応接室に入ると、レイナと大地がソファに座ってお茶を飲んでいた。


「遅い……もうお茶冷めちゃったじゃない」


 会って早々、いつもの様に刺々しい。


 俺は小声で美澄さんに確認する。


「そんなに前から来てたんですか?」


「いえ、10分も経っていません」


 相変わらず待てない人だなぁ。


「ごめんごめん、待たせて悪かったよ。ところでここに来たってことは、クランに入ってくれるってことで良いのか?」


 軽く宥めつつ、早速本題に移る。


「まあそうね。そう言う約束だったから、入ってあげるわよ」


「俺もよろしく頼む……」


 レイナは座ったまま、そして大地は立ち上がり頭を下げてそう言った。


 大地に関しては試合の場で返事をもらえなかったから、正直来てくれないかもと思っていた。


 だがこれでひとまず、俺の思い描いていたメンバーでスタートできそうだ。


「二人ともありがとう。これからよろしく頼むよ。早速で悪いけど場所を変えよう、第一回作戦会議だ」


 二人をクランに歓迎し、俺たちは全員で7階の役員会議室に向かった。


 せっかく部屋があるんだし、お試しで使ってみようか




 アーサーさんにも声をかけて、会議室に今現在のクランメンバーが全員揃った。

 

 役員会議室はその名の通り、いかにも偉い人たちが会議していそうな、20人近くがゆとりを持って座れる巨大な円卓があった。

 椅子もふかふかで高級っぽいし、円卓の中央には資料などを投影する最新鋭のモニターや設備が充実している。


 全員が席に着いた所で、早速話を切り出した。


 まずはアーサーさんと美澄さんに話したことを、今日加入した3人にも話した。

 レイナは知っている内容が多かっただろうが、黙って聞いてくれた。


 このクランの活動目的と方針から始まり、俺のスキルについてや眷属、そしていずれ戦うであろう魔神軍について触れた。

 EXダンジョンや魔神軍の話は機密扱いだから、後でみんなには契約書を書いてもらうことになる。


「──で、いずれ俺はEXダンジョンに向かうけど、その前に向こうから攻めてくる可能性がかなり高い。そうなった時、おそらく対抗できる戦力は俺たちがメインになると考えてる。御崎さん達もいるけど、ブレイバーズの中でもトップの実力者じゃないと、魔神軍との戦いは厳しいものになると思う」


 修二と大地はまだ、今の話に現実味を感じていない様子だ。


「そうでしょうね……前に戦った化け物の時も、あなたが居なかったら全滅もあり得る状況だったわ」


 ジャドと戦ったことがあるレイナが、俺の話にそう付け加えてくれた。


「俺自身ももちろん、強くなるためにできる限りのことはする。だけど俺以外にも、奴らと戦える実力者が必要なんだ」


 最近なんとなく思うんだ。

 俺のステータスは、俺自身が突出して強くなるスキルよりも、仲間全体が強化されるスキルやシステムが多い気がするんだ。


「部隊編成」の経験値配分もそうだし、「魂の契約」や「ビルドシステム」も、「眷属召喚」や「英霊召喚」だってそうだ。


「仲間を集めろ」と、誰かが俺にそう言っている気がしてならない。


 それが「魂の神玉」の意志なのか、はたまた龍王様の意志なのかはわからないけどね。


「まあそう言うわけで、今日はみんなの意見を聞きたい。今クランメンバーを募集してるんだけど――」


 そこから俺は、さっきまで修二とやっていた書類選考の話をした。


 俺の求めている人材をみんなに伝え、現状の募集にはほぼ9割が上級ジョブ持ちで、既にある程度の実力や実績があることを話した。


「もっと下級ジョブとか、それこそジョブが無い人とか、まだ本格的に探索者として活動してない層の応募を増やしたい。何かいい案はあるかな?」


 俺の要望に、真っ先に提案してきたのは修二だった。


「それなら、直接英人の口からそういう人達に呼びかけるのが早いんじゃないか? そう例えば……Dチューブのどっかのチャンネルに出演するのはどうよ?」


 動画配信か……まあ悪く無いかもな。


 修二のアイデアを少し考えていると、続いてアーサーさんが話に乗ってきた。


「それなら僕のチャンネルで生配信でもするかい? 最近僕の人気は急上昇中でね……登録者が10万人を超えそうなんだ。ようやくみんな、僕の魅力に気付き始めたんだろうね……」


 10万人か……結構多くないか?


 ぶっちゃけアーサーさんの提案はアリな気がする。


 クランのチャンネルを作ってもいいけど、Dリーグとかはあんまり考えていないし……その後チャンネルを使う予定もない。

 アーサーさんは正式に「龍の絆」のクランメンバーなわけだし、ひとまずアーサーさんのチャンネルでやっても問題ないかな。

 

「よし、それで行きましょう。アーサーさん、ありがたくチャンネル使わせてもらいます。みんなもそれでいいかな?」


「良いと思うわよ。10万人ってそこそこ多いし、ある程度の影響力はあると思うわ」

「俺はそっちには詳しくないから任せるよ」


「楽しくなってきたなあ! 俺も賛成だぜ! サムネイルとタイトルは任せたまえ!」


「でしたら私は、各社報道機関に配信日時の告知の記事を流してもらうように掛け合ってみます」


 意見はまとまったな。

 修二の遊び感覚と違って、美澄さんはさすが協会職員だ。


「じゃあ時間もあるし、早速今日の夜に配信しよう」


 その後俺たちは、急遽決まった生配信に向けて各々が動き出した。

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