第92話 老年の守護騎士
第五試合を終えてすぐ、次の俺の試合は始まった。
火山地帯マップでの戦いで勝利していた斧使いの選手が、第六試合の俺の対戦相手だった。
そして試合は始まり、ランダムに選ばれたマップは雪原。
吹雪が吹き荒れ、足元は膝上まで雪が積もっている。
相手の斧使いは第一試合での疲労と、降り積もる雪に身動きが取りづらかったのだろう。
俺との接敵後すぐに攻撃の鋭さを失い、俺は難なく勝利を収めた。
第五試合と第六試合に勝利し、順調に最終試合まで駒を進めることができた俺は、装備を整えて武舞台へと続く入場口で待機している。
次が最後の試合、これに勝てばいよいよ決勝トーナメントだ。
入場口でこれまでの出来事を反芻していると、おなじみの実況が響き渡る。
『会場にお集まりの皆さん! 遂に最後の試合となりました。この試合で、関東第二地区代表が決定します!』
「「「うおお!」」」
会場のボルテージは最高潮。
『まずは東から! 今大会初出場ながら、大会記録を大幅に更新、見たことのないスキルをいくつも使い我々に興奮を与えたこの男! 超新星! 天霧英人だぁあ!』
「「「おおお!」」」
実況の紹介聞きながら、俺はゆっくりと武舞台まで歩いていく。
『そして西! この男はもはや語るまでもないでしょう! 皆様ご存知「門番」こと! 大門 京次郎ぉお!』
俺がキューブ正面に辿り着くと、反対側の西門から歩いてくる老齢の男が見えた。
「門番」こと
彼は10年ほど前から、毎年必ず参加している。
そして「門番」と言われる理由だが、自分が認めたもの以外は通さない、つまり決勝に進出させない事でそう呼ばれるようになったらしい。
大門京次郎は厳かに、そしてゆっくりと歩いてくる。
――ガシャン……ガシャン
緋が煌めく大鎧を纏い、腰に直剣を刺し、背中に大盾を背負っている。
白髪を綺麗に撫で付け、その瞳は俺を見極めようと突き刺さる。
全身オリハルコン装備か……鎧も盾も剣も全て。
大門京次郎がキューブを挟んで反対側に辿り着くと、また実況が始まる。
『この一戦は大会の歴史に刻まれる一戦となるでしょう! それでは転送開始です!』
実況に続いて、キューブの機械音声が響く。
『大門京次郎 VS 天霧英人……マップ「古城跡」に決定。それでは転送を開始します』
マップは「古城跡」か……環境による障害がないシンプルなマップだ。
光に包まれ、おなじみの転送が始まった。
転送が終わると、目の前にはボロボロの大きな城が聳え立っていた。
どうやら俺は城の門前の広場のようなところに転送されたようだ。
しかし毎度ながら、キューブの再現度はすごいな……
まるで本当にどこかにあったものみたいだ。
古城は砲弾か何かが直撃したような、ところどころに大穴が空いている。
そして城の尖塔には一本の大きな旗が、風で靡いている。
その旗の国旗だろうか? 描かれているマークが気になった。
剣と杖が交差し、その真ん中にドラゴンらしき物の頭部が描かれている。
どこかの国旗かな?
俺が尖塔の旗を見上げていると、正面の門が古びた音を立てて開けれた。
――ギギィ
「この場所はなかなか雰囲気があって良い」
門を両手で押し開けて出てきたのは大門京次郎。
「お主があの小僧の倅か……悪くない目だ。ようやく努めを果たせる……さあ、参られよ!」
大門京次郎は左手で盾を構え右手で剣を抜き、渋い声でそう言った。
小僧の倅……
「父と知り合いですか?」
「……」
御仁は何も言わず、ただ構えている。
まあいい、多分60歳くらいか、その年齢なら父さんと知り合いでもおかしなことはない。
俺は大剣を召喚し、正眼に構える。
この人の試合はいくつか記録で見た。
基本は受けに徹するのがこの御仁の戦い方だ。
そしてある程度力量を見極めた後、剣での攻勢に出るのがいつも通りだ。
「魔纏!」
俺は魔纏で身体を覆い、御仁に向けて突貫する。
一足で間合いを詰め、正面から横薙ぎの一閃を放つ。
「はあ!」
――ゴーン
巨大な鐘をついたような鈍い音が鳴り響く。
びくともして無いな……
俺は大剣を素早く引き、あらゆる角度からの連撃を放つ。
――カカカン!
くそ……手強いな。
俺の方が筋力では大きく上回っているはず。
リトスのバフに加えて、最近手に入れたトグロの龍装もある。
なのに全ての攻撃が、綺麗に受け切られている。
「筋はいいがまだ青いな。それ……パリィだ」
――パキーン!
盾に一瞬だけ魔力が宿り、俺の剣とちょうど接触した瞬間にスキル「パリィ」が発動した。
大剣は大きく弾かれ、俺は体勢を大きく崩す。
「これで終わりか?……
御仁はそう呟きながら、大剣を握ったまま振り上げたような形でガラ空きとなった俺の腹部めがけて直剣を刺す。
本来ならここで終わりだろう。
今の俺の体勢を崩した状態で、「穿剣」を止められるスキルは存在しない。
できることは「魔纏」の出力を上げて耐久力を強化するか、致死ダメージにならないことを祈るしか無いだろう。
だが俺には――
――キン!
「何 ! ?」
龍スキルがある。
俺は「龍気障壁」を腹部に展開し、剣の突きを受け止める。
どんな状態からでも「桜みちる」の矢を防げるように、障壁を展開する修行は重点的に行なっていた。
ユミレアさん曰く魔力を使ってもできるらしいんだけど、やはり俺の場合龍気の方が習得速度が早かったんだ。
俺は上段の姿勢で弾かれた大剣に力を込め、そのまま振り下ろす。
驚いたとはいえさすが歴戦の「聖騎士」だ。
俺の攻撃にも盾での防御を間に合わせた。
俺は技術ではこの御仁には勝てない。
それがこの短い打ち合いでよく分かった。
だが俺が唯一圧倒的に有利をとっていることがある
それは初見殺しだ。
本来では習得できないスキル群に加えて、俺だけの龍スキルがある。
大剣が盾に触れる瞬間、俺は「送還」で大剣を手元から消した。
「む ! ?」
盾を上に向けて構えたせいで、胴体正面に隙ができた。
俺は無手となった両拳で、そのまま格闘戦に移行する。
「龍闘術・龍拳衝!」
龍気を纏った左拳で、ボディーブローを放つ。
右手は剣を突き、左手の盾は上段構え、この状態での左ボディーブローは流石の御仁も回避できなかったようだ。
「ぐおお!」
俺の拳は御仁の脇腹に命中し、龍気の衝撃波が発生した。
――ドカーン!
石畳を数10メートル転がり、城壁に衝突する。
土煙が晴れ、御仁はよろよろと起き上がり盾を構える。
今ので剣も盾も手放さないのか……
「先の読めない相手は久方ぶりよ……英人と言ったな、もう十分ではあるが最後の試練だ。これを突破して見せよ……聖印の強壁!」
もう十分ってことは、俺は決勝に進むに値すると認めてくれたのか……
本来であれば、この時点で御仁はリタイアするのが常だ。
去年のレイナとの試合もそうしていた。
で、あれを突破して見せろと……
「盾術Lv9:聖印の強壁」、一点の守りに関して言えば最硬の防御スキルになる。
それに使われている盾も最高硬度のオリハルコンだ。
「これを突破した者は今まで二人だ……お主は3人目になるか?」
真紅の盾は魔力を纏い、さらに深く紅く煌く。
参ったな……あんまり龍気は使いたくないのに、あれを突破するとなると龍スキルに頼るのが早い。
でも待ってくれてるし、今日までの修行の成果を試させてもらおうかな。
俺は大剣を正眼に構え、目を瞑る。
「魔力感知」で自分の魔力を感じながら、魔力を大剣に纏わせていく。
魔力は心臓付近から、腕を伝い大剣へと流れていく。
本来武器に魔力を纏わせることは、スキル発動中にしかできない。
だが魔力操作の修行を経て、体の次は武器に纏わせる訓練を始めたら、すんなり出来てしまった。
もちろんミトさんには出来なかった。
俺は残りの全魔力を大剣に注ぎ込む。
魔力を纏った大剣は濃紫に輝く。
全ての魔力を注ぎ込んだ俺は、大剣を突くように構えたまま疾駆する。
「やはりか……」
俺が走り出すと同時に、御仁はそう呟いた。
そして一瞬で彼我の距離はなくなり、俺は御仁の構える大盾に大剣を突く。
「はああ!」
スキルは発動していない、ただ魔力を乗せただけの単純な突き攻撃だ。
だが魔力を存分に纏った大剣は、いとも簡単に大盾を貫いた。
――パリーン!
盾を突き破り、そのまま御仁の胸に剣は吸い込まれていく。
「見事……」
『大門京次郎の致死ダメージを確認。勝者、天霧英人』
こうして俺は、遂に決勝トーナメント進出を決めた。
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