第93話 英雄杯・八傑

 試合が終わり、武舞台へと転送される。


 会場が割れんばかりの歓声を、俺は全身に浴びた。


 いよいよ次は決勝トーナメントだ。

 そろそろ大会が終わった後のことも考えていかないといけない。


 大会が終わり次第クランを開設して、人を集めて……それからスポンサーも探さないと。

 

 クランの運営には金がかかる、現在の所持金は300万程溜まっている。

 毎回の探索の終わりに少しずつ魔石や不要なドロップ品を換金して溜まったお金だ。

 だがクランの運営には少しばかり心許ない。

 

 拠点も探さないといけないし……やることが山積みだ。


 先のことを考えていると、横から声がかかる。


「見事だった。また会おう」


 その言葉に振り返ると、すでに出口へ向けて去っていく大門京次郎の後ろ姿が見えた。


 俺はその後ろ姿に向けて、少しだけ頭を下げて礼をした。


『これで遂に決勝トーナメント出場選手が出揃いました! 決勝本戦は1週間後に「国立ダンジョン闘技場」にて行われます!――』


 俺は実況と観客の歓声を聞き流しながら、武舞台を後にした。


 


 特別控え室にて、俺は天道さんに決勝トーナメントの説明を受けていた。


「それで、当日はこの控え室が英人くんの待機部屋になる。それから開会セレモニーにがあるから遅刻しないようにね。あとは各メディアのインタビューがこの後あるから、よろしく頼むよ」


「わかりました」


 表に出るというのは大変なんだな……


 父さんはメディア嫌いで有名だったらしいけど、俺もその路線で行くか?


 そんなことを考えていると、控え室の扉がノックされる。


――コンコン


「どうぞ」

 

 ノックに返事をすると、扉が勢いよく開かれる。


「ヤッホー! 決勝進出おめでとう!」


 勢い良く入ってきたのは綾さんだった。

 そして後ろから剛さんとミトさんが続いて入室してくる。

 

「いやぁ見事だったであるな! まさか我が師をあそこまで完封するとは!」


「ん……剛、声でかい」


 ミトさんは剛さんの隣で耳を塞ぎそう言った。


 それにしても我が師? 

 大門京次郎のことだと思うけど……


「師匠ですか?」

 

「うむ、師からは『聖騎士』ジョブのいろはを叩き込まれたんだ」


 なるほど……そういえば同じ「聖騎士」のジョブだったか。

 

「聖騎士」はなかなか珍しいジョブだから、ダンジョンデータベースでスキル構成を真似るよりも、同じジョブの人に教わった方がいいんだろう。


「そういうことでしたか。ところでみなさんお揃いでどうされたんですか?」


 俺の問いには綾さんが答えた。

 

「そんなの祝いに来たに決まってるじゃない。それにウチの亮も決勝進出を決めたみたいだから

 もしかしたら戦うことになるかもしれないわよ」


 新宿で同時に行われていた第三ラウンドは亮さんが勝ったか。


「暗殺者」ジョブとは過去に何度か戦ったことがあるけど、亮さんは油断できない。

 亮さんは俺の二つ年上ながら、すでに「暗殺者」ジョブの中では最強と言われている。

 いわゆる天才でもなければ、勇者パーティーなんて名乗れないわけだ。

 この人たちはこう見えて、この国で一番のパーティーだ。


「それは楽しみですね」


 綾さんにそう返し、しばらく雑談して過ごした。


 その後、アーサーさんも祝いの言葉を伝えに来たり、メディアへのインタビューに答えたりとかなり忙しかった。

 

 そうして家に帰れたのは夜9時を回った頃だった。




 そして帰宅した後、俺は「Dチャンネル」の特集番組を眺めていた。


『いよいよ来週に迫った「英雄杯」ですが、本日遂に出場者8名が出揃いました』


 日本全国の地区から8名が選出され、その8名で決勝トーナメントを開催する。


 関東以外の地域の選手の情報は少ないから、こうして番組を活用しているわけだ。


『それでは決勝に駒を進めた全国の猛者達を紹介しましょう! 早速一人目は、北海道地区代表、狩野かりの アリサ選手です!――』


 ジョブは「弓豪」か……桜みちるを対策していたおかげで、そこまで問題はなさそうだな。


 その後はインタビュー映像などが流れ、選手の紹介は続いていく。


『さてお次は東北地区代表、あの「氷室兄弟」の弟、氷室ひむろ 和也選手です! 年齢は17歳と今大会最年少ですが実力は折り紙付き! なんと光と闇を含む4属性適正の「大魔術師」と、もはや天は二物を与えすぎたようです!』


 氷室兄弟、もちろん知っている。


 東北にあるS級ダンジョン「悪魔の巣」を管理するクラン「氷室」の弟の方だ。

 

 火、地、光、闇の4属性が使用可能とのことだ。

 光と闇を同時に持つこと自体がかなりレアなのに、それに加えて火と地まで使えると。

 ミトさんと模擬戦しておいた方が良さそうだ。


『続いて関東第一地区代表! みなさんご存知勇者パーティーの最強暗殺者、影森 亮選手!──』


『そして関東第二地区代表は天霧 英人選手! 第一ラウンドは脅威の撃墜数で一位通過! そして豊富なスキルに、なんとドラゴンを呼び出すユニークスキルまで持っていると! さらにさらに、彼はあの「英雄」天霧大吾のご子息だそうです。彼を語るには番組の尺が足りませんが、彼は間違いなく今大会のダークホースとなるでしょう!』


 俺と亮さんの紹介は軽く聞き流しつつ、その後の紹介を聞いた。


『そして関西代表は村雨 大地選手!――』


 大地……

 

 俺のもう一人の幼馴染の村雨大地。


 昔のようには戻れないのか、どうして俺を突然避けるようになったのか?


 話したいことはたくさんあるな……


『続いて中国・四国地区代表! 水野 翼選手です! 水野選手は先日四国で「ブレイバーズ」主体で行われた「異常種討伐作戦」に参加し、多大な功績を残したそうです。それに加えてその可愛らしいルックスから、四国エリアでは絶賛人気急上昇中です!』


 水野 翼、ジョブは「拳士」と下級だが、どうやらユニークスキルを持っているらしい。

 ユニークの詳細は不明、この人も警戒しておいた方がいいかもな。

 

『そして九州地区代表、クラン「京極事務所」から「斧豪」豪羅ごうら 正孝まさたか選手です!――』


「京極事務所」か……噂でしかないが、ヤ○ザの組がそのまま大きなクランになったと言う。

 九州では実質、一番権力があるらしい。

 九州にある良質なダンジョンは全て「京極事務所」が独占管理していて、なかなか敵の多いクランだ。


 とまあ、この豪羅という選手が悪いやつだということではないけど、なんだか複雑だな。


『そして昨年大会優勝者の特別枠から、天道レイナ選手! 「勇者」御崎潤に続く大会連覇達成なるか? それが今大会の大きな見どころとなるでしょう!』


 最後にレイナの紹介があり、これで8人の出場者の紹介が終わった。


 対戦表は当日に発表されるから誰と当たるかはわからないけど、誰が相手でも俺は勝つ。


 この8人でトップになる事もそうだが、その後のエキシビションマッチが最も重要だ。


 決勝トーナメントまで後1週間、ギリギリまで修行を続けよう。

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