第91話 轟く雷

 ユミレアさんとの修行を夕方まで行いそろそろ切り上げようとしていると、シーカーリングに通知が入った。

  

『第二ラウンド一位通過のお知らせ』


 タイトルにそう書かれたメッセージを見て、心の内でガッツポーズをした。


 中身はタイトル通りで、俺の撃墜ポイントは2位に大差をつけての堂々の1位だった。


 よし、これで次の試合までの時間が少し出来たな。

 試しておきたいこともたくさんある。


 俺はその場にいた鈴達にこのことを伝えると、みんな自分の事の様に喜んでくれた。


 俺の試合は第五試合からのスタートになる。

 試合日までは引き続き修行と魔石集めに時間を使おう。


 俺たちは修行を切り上げ帰宅し、翌日の修行に備えて早めに就寝した。

 

 


 そして時はあっという間に過ぎ去り、第三ラウンド・第五試合当日。

 

 第一試合から第四試合までは、前日までの二日間にて行われた。

 俺は試合を見る事はなく、ダンジョンに潜ったり仮想戦闘室で修行したりしていた。


 第三ラウンドは池袋支部と新宿支部の二カ所で行われている。


 新宿と池袋で、関東の100支部の代表がランダムに当分され、それぞれ50人ずつのトーナメントを行う。

 

 50人の代表はランキングで番付され、上位10人はシードとなる。

 そして50人はさらに半分に分けられ、二つのブロックにて25人ずつのトーナメント形式で試合が行われる。


 俺は一位通過だから、Aブロックのスーパーシードとなる。


 そして今日は第五試合からのスタートだ。

 昨日までの試合で、50人いた選手たちは残り8人となっている


 Aブロック4人、Bブロック4人の選手たちは、大体がシード権を獲得した者がそのまま生き残っている。


 シードは試合数が少ないから、疲労度的にやはり有利なんだろう。


 今日まで俺の試合はなかったものの、今日は第五試合から最終試合までノンストップだ。

 勝ち進めば今日だけで3試合することになる。


 龍気は回復手段が乏しいからできるだけ温存した方が良いだろうし、何なら試合自体の決着を急いだほうがいいかもしれない。

 長引けばそれだけ後の試合で疲れが出てくる。


 そして俺は今、用意された特別控室でひとつ前の試合を眺めている。


 部屋に設置された魔導モニターには、仮想戦闘キューブ内の戦いが映し出されている。

 モニターを操作することで、キューブ内のどの位置からの視点でも試合を観戦できる。

 俺は二人の選手がよく映る位置を見つけ、その位置でカメラアングルを固定する。


 モニターに映るマップには、斧使いと剣士の二人の選手が激しく撃ち合っている。


「斧の人の方が強いかな。それにしてもマップは火山地帯か……」


 画面に映る戦闘エリアは赤色が目立ち、所々で溶岩が噴き出している。


 これは運が悪いな……

 火山地帯は超高温で、もはや立っているだけでも疲労やダメージが溜まる。


 第三ラウンドの試合形式は一対一だが、マップの地形はランダムで選ばれる。

 市街地、雪原、火山、森林と多種多様だ。


 闘技場の武舞台のような、一騎討ちに適した戦場でないのは公平性のためらしい。

 弓士や魔術師などの後衛職でも、マップによっては有利が取れる仕組みだ。


『ここで試合終了!――』


 しばらく眺めていると、実況が試合終了を告げた。

 

 どうやら俺の見立て通り、斧使いの選手が勝ったようだ。


 さて、今日は1日頑張るか。


 俺は装備を整え、控え室を後にした。




 俺は専用口から入場し、仮想戦闘キューブを挟んで対戦相手と向かい合う。


 俺の初戦の相手は多分魔術師だ。


 おそらくダンジョン産の魔術師のローブを着ていて、右手には片手で持てるタイプのワンドが握られている。

 杖の先がピンク色のハート型をしており、ちょっと趣味が悪い気もする。


 そして性別は……ちょっと俺には判断できない。


 見た目は金髪の坊主で、唇には真っ赤な紅を引いている。


 俺が相手の姿に戸惑っていると、対戦相手が話しかけてきた。

 

「可愛い坊やね。お手柔らかに頼むわん。チュッ」


 丸坊主のオジサンから飛んでくる投げキッスを咄嗟に躱す。


「あら釣れないわねぇ」


「……」


 俺の経験では処理しきれないでいると、実況に助けられた。


『それでは試合開始です!』


 俺の体は光に包まれ、視界が一瞬にして切り替わる。


「これは……」


 転送後、周囲を見て驚いた。


 辺り一面にには大海原が広がっていた。

 

 そして俺は、その海の中で所々海面に顔を出す岩の上に立っていた。

 

 俺の立つ岩は一歩しか動けないくらいの小さな岩で、周囲には同じ様な足場がちらほらと広がっている。


 俺がマップの極端さに驚いていると、後ろから声が聞こえた。


「坊や〜こっちよ〜」


 声の方へと振り返ると、数十メートル先の大岩の上に対戦相手が佇んでいる。

 そして手に持ったハート型のマジカルステッキをひらひらさせていた。


「んもう! 本当ならアタシが有利を取れる地形なのに、相手が坊やじゃ意味ないじゃない!」


 彼女(?)が見た通りの魔術師なら、本来であれば俺が不利だ。

 

 足場はすこぶる悪いし、近接ジョブでは中々戦闘が難しい。

 魔術師であれば、その場から動かずとも一方的に攻撃できる地形だ。


 だが俺の場合は違う。

 翼を展開すれば何の問題もない、むしろ身動きが取れない相手の方が不利になるだろう。


「こうなったら、先手必勝よん! 『水魔法・押し寄せる愛』! 私の愛に溺れちゃいなさい!」

 

 杖を振ると同時に、巨大な大津波が発生した。


 高さ40メートルほどの大津波が一瞬で形成され、俺めがけて押し寄せてくる。


 あれは「水魔法Lv9・ダイダルウェーブ」……いきなり大魔法を使ってくるのか。

 

「龍翼展開!」


 すぐに翼を広げ、天高くへと舞い上がる。


 ギリギリで躱し、俺のすぐ下を波が通過する。


 いきなりの大魔法、それに今の一撃には相当な魔力が使われていた。

 おそらく短期決着で終わらせたいのは向こうも同じ。

 

 それに相手はあの岩からほとんど動けないはずだし、空を飛べる俺の方が圧倒的に有利だ。


 そして避ける事は想定済みだったのだろう、波が収まり先ほど彼女がいた場所には大きな水球ができ上がっていた。


 水球に隠れ、彼女の姿が見えない。


 俺はすぐに「魔力感知」を広げて索敵を行う。

 

 あの人はあの水球の中にいるのか、一体何を……


 水球はおそらく「水魔法Lv8・メイルシュトロームジェイル」だ。

 自信を分厚い水の渦で囲い、あらゆる攻撃からの防御を目的とする魔法。

 

 無策であの水球に突っ込めば、俺の体は間違いなくズタボロにされるであろうまさに鉄壁。

 だがあのままじゃ、あちらも俺に攻撃できないはずだ。


 俺がその行動に戸惑っていると、遥か上空で凄まじい魔力の発生を感知した。


「っ ! ? まさか ! ?」


 天を見上げると、そこには巨大な魔法陣が形成されていた。


 あれは「水魔法極大魔術・天のヘブンズティア」か……過去の試合記録で見たことがあるけど、中々やばい魔法だ。


 魔法自体のダメージはおそらく何とかなるけど、問題は水の量だ。

 流石に俺の多くのスキルでも、あの量の水による窒息を防ぐのは難しい。


 くそ……やられる前にやるしかないな。


「天のヘブンズティア」の発動までには後10秒はかかりそうだ。

 発動までの間は、「メイルシュトロームジェイル」で守り切るのが作戦だろう。


 あの水球の大渦を突破するには、やはりあれを使うしかない。


「ようやく出番だぞトグロ……」


 俺は両腕に装備したガントレットの能力を起動する。


 トグロの龍装は「双極のガントレット」、龍の鱗を纏うガントレットは俺の拳から肘までを覆う。


 そしてこの龍装の能力は「上位元素ハイエーテル」と言って、二種類の上位属性の力を使うことができる。


 その一つである「雷」を、今回は龍魔法で放つ。


 雷であればおそらく、あの水球を難なく突破できるだろう。


 やったことないからわからないけど、最悪貫通できなければ「天の涙」を何とかすればいい。


 俺はガントレットを通して、両掌に龍気を集める。


「双極のガントレット」を経由した龍気は、俺の掌で轟く稲妻に変わる。


 バチバチと火花を散らしていた雷は、やがてゴロゴロと世界を震わせる。

 

 両手に雷を蓄積しながら、俺は水球の真上に移動する。


 もう少しだ……


 そして俺の雷が十分な威力で蓄積されたと同時に、俺のさらに上空で待機していた「天の涙」も発動準備が整ったようだ。


 水の落下速度より雷の方が断然速い!


 俺は水球に両掌を向けて龍魔法を発動する。


「雷魔法・神落かみおとし!」


 両手から黄金に輝く雷が放たれると同時に、俺の頭上から膨大な魔力の塊が降ってくるのを感知する。


 だが当然、海をそのまま落としたような水量も、落雷の速度には敵わなかった。


 雷が放たれたその一瞬、世界は轟音と稲光に包まれた。


――ドーン!


 雷は水球をあっさり突破し、彼女が足場にしていたであろう岩ごと貫いた。


 勝負は一瞬で決まった。


「ア〜ン!」

『リカ選手戦闘不能! 試合終了です!』


 天から聞こえる実況と同時に、俺の視界は光に包まれる。


 なんか変な声が聞こえたけど……まあいい、まずは勝ち一つだ。


 こうして、試合は両者の思惑通り短期での決着となった。

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