第84話 エーテルドラゴン
それはドラゴンというよりは蛇、中華の神話に出てくる「龍」の様だった。
魔法陣から巨大な蛇龍が飛び出し、長い胴体をくねらせ天高く昇って行く。
その鱗は真紅を纏い、ダンジョンの擬似太陽の光を反射して淡く輝いている。
「……」
良かった……人が全くいなくて。
こんなの見られたら大パニック間違いなしだ。
俺の横ではそれぞれが驚く声が聞こえてくる。
「ほう……『
「おお……王の眷属にふさわしき美しい龍だ」
「サクヤはあれに乗るのです!」
「味方なのは分かってるが、この斧でぶっ叩いてみてぇぜ」
「姉さん ! ? 絶対ダメだと思うよ ! ?」
各々の反応を聞いていたが、ユミレアさんの一言は聞き逃せなかった。
「ユミレアさん、あの龍を知っているんですか?」
空を見上げたまま、話を続ける。
「もちろんだ。戦場で見たが、あの殲滅力は凄まじかったぞ」
「なるほど……ということは、S級の眷属がどういう龍か知っていたりします?」
俺が召喚できる眷属は、龍王様も召喚できたということだろう。
ならば次のS級で召喚されるドラゴンも知っているはずだ。
「いや、私は他の龍は見たことがないな。『四源龍』より上位の龍は知らんぞ? いたのかもしれないが……そうであれば私が死ぬ前に戦場に出てきて欲しかったものだ」
S級眷属が存在しない?
少しでも戦力が必要なのにそれは困るな。
まあユミレアさんが知らないだけの可能性が高いし、どの道S級魔石がないと確認できない。
今は目の前の「四源龍」とやらに集中しよう。
「グオアアア!」
頭から尻尾まで100メートルはありそうな長く巨大な蛇龍は、大空に向かって産声を上げた。
そして俺たちのいる地上に真っ直ぐと頭を伸ばし、俺の目の前に平伏する様に頭部を地面に横たえた。
近くで見るとその立派な2本のツノと、長く逞しい髭がより一層神々しく思えてくる。
「グルル」
猫のように喉を鳴らしているが、あまり可愛気は無い。
体の内側を揺らす低い地鳴りの様な音で、迫力がものすごいせいだ。
俺は「四源龍」に近づき、その大きな顎の下を撫でながらステータスを確認する。
______
種族:
Lv1
HP:1000
MP:500
筋力:1000
耐久:500
器用:100
敏捷:200
知力:500
・スキル
龍魔法Lv10(火・水・風・地)
龍の息吹
・龍装:エーテル・ガントレット
______
さすがA級といった所か、軒並み初期数値が高水準だ。
てかこれ……最終的には俺より強くなるんじゃないか?
数値的におそらく「龍装」は攻撃力を上げるタイプになるだろう。
ガントレットって言ったら手に装備するやつだろうし、大幅な火力アップが期待できるな。
確認は軽くで済ませて、早速だけど名前をつけてしまおう。
名前は……姿を見た時から一つ浮かんだものがある。
「お前の名前は『トグロ』だ。よろしくな」
「グオオ!!!」
咆哮と共に、トグロの体が光に包まれる。
光が収り、上位種への進化を果たしたトグロの姿を見て、思わず感嘆の声を漏らしていた。
「おぉ……」
先ほどまでの真紅の鱗は白銀へと変わり、金色の稲光が体表を目まぐるしく迸る。
神話からそのまま出てきたかのような神の如きオーラに、思わずリュート達が跪いてしまったほどに圧倒される姿だった。
「これは頼もしいな……」
進化後のステータスを一通り確認した俺は、トグロの力が俺の戦い方を変えるほど強大なものであると確信した。
決勝トーナメントまでの間に、できるだけ使いこなせるようにしておきたい。
俺はその後、貸切状態のダンジョンでトグロの能力チェックとユミレアさんとの修行を夕方まで行なってから帰路に着いた。
俺とユミレアさんが帰宅して夕食を済ませた後、ミトさんから他の選手の情報を聞いていた。
「それでミトさん。手強そうな選手はいましたか?」
「ん……ちゃんと見てきてあげた。耳の穴かっぽじってよく聞け」
「はい……本当にありがとうございます」
俺は今一度背筋を伸ばし、聴く準備を整えた。
「まずは『雪嶋セツナ』――」
雪嶋セツナ、鈴の学校の先輩で、雪嶋流抜刀術の使い手の女の子だ。
第一試合は俺も見ていたけど、かなりの腕なのは間違いない。
三対一の状況も返せるほどの実力だ……
それにミトさんによると、彼女の使う刀が「魔導武器」であることは間違いないらしい。
ちなみに「魔導武器」とは、ダンジョンのボス討伐などで得られるミスリルやアダマンタイトの鉱石を、「鍛治士」ジョブの人が加工することで生み出される武器だ。
ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン鉱石で鍛造される武器には特殊効果がつく場合が多く、ミトさん曰く「雪嶋セツナ」の刀にも、何らかの特殊能力があるのは間違いないらしい。
俺には武装ガチャがあるから、今まで「魔導武器」についてはほとんど調べてこなかった。
ミトさんに見てもらって正解だった。
「なるほど……厄介そうですね。他の選手はどうですか?」
「ん……他には――」
他に注目選手は3人いるらしい。
一人は「
ジョブは「斧士」と下級ではあるが、金に物を言わせて強力な魔導武器やアイテムを装備してくる可能性が高いらしい。
そして二人目は「桜 みちる」、ジョブは「弓豪」で、脅威的な精密射撃で第一ラウンドを勝ち抜いた猛者らしい。
なんでも一度も正面戦闘にはならず、狙撃のみで最終局面を制したという。
最後は「葛西
今シーズンのDリーグ3位のクラン「闘神」の一軍メンバーで、戦闘スタイルは「正面突破」。
ミトさん曰く、頭は弱いけど戦闘力は本物、ということらしい。
「なるほどです。大体このくらいですか?」
「ん……あ、一人かわいそうな子が居た」
何かを思い出した様にミトさんが言った。
「可哀想な子ですか?」
「ん……名前は確か……『
これには流石に驚いた。
「まだステータスが無い……それでよく第一ラウンドを突破できましたね」
「ん……あれは事故みたいなもの――」
ミトさんによると、その「未来ちゃん」は雪嶋流抜刀術の門下生で、隠れたりしながらなんとか最終局面まで生き残っていたらしい。
だけど最終局面の残り10人前後になった頃、一人の選手が一気にカタをつけようと大規模魔法を放った所、誤って自爆したらしい。
その魔法から運よく逃れたのが未来ちゃんだけで、そのまま第一ラウンド突破となったらしい。
「それは……なんというか」
「ん……戦うことになっても手加減してあげてね」
流石にステータスがなければ、第二ラウンドの通過は絶望的だ。
俺と出会う前に誰かにやられてしまうとは思うけど……まあ、その時考えるか。
ミトさんの報告を聞き終えた俺は早々に眠りにつき、第二ラウンドに向けて英気を養った。
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