第83話 異なる理

 第一ラウンドの試合を終えた俺は、ダンジョンに向かう前に一度鈴達のところへ戻ってきた。


「お兄ちゃんお疲れ! すごかったよ最後の魔法!」


 鈴はとびきり嬉しそうな笑顔で、俺を出迎えてくれた。


 だけど何だろう……普段よりも機嫌がいい気がする。

 第一ラウンドの勝利がそんなに嬉しかったのかな?


 そして綾さんと剛さんも、俺の勝利を祝福してくれる。


「見事な一人勝ちだったわ。次の試合も頑張ってね」

 

「先ほどのあの炎、ぜひとも正面から凌いでみたい! 今度俺と模擬戦をしよう!」


 いつもはどっしりと構えている剛さんが、珍しくテンションが上がっている。


「お二人ともありがとうございます。模擬戦は……時間があればよろしくお願いしますね」


 二人に挨拶を済ませ、俺はミトさんに声をかける。


「ミトさん、この後の試合も観戦よろしくお願いします」


「ん……面倒だけど仕方がない……」


 ミトさんには、俺がダンジョンに行っている間の試合観戦を頼んでおいた。


 第一ラウンドの勝者で手強そうな選手がいたらチェックしてもらうためだ。


 池袋支部で行われた第一ラウンドの勝者50名が、三日後の第二ラウンドで戦う相手となる。


 予選は関東にある100個の支部全てで行われており、第二ラウンドで各支部の代表が決まる。

 そして第二ラウンドの試合形式だが、今回とほとんど同じバトルロイヤル形式だ。


 だが違う点がいくつかある。


 まずはマップは半径10キロの市街地エリアで、マップ全域が破壊不能オブジェクトとなる。

 つまり第一ラウンドのように、大規模な魔法で決着とは行かなくなる。

 建物を遮蔽物とすればある程度の回避が可能だ。


 そして二つ目は、あらゆる魔道具が使用可能になる点。

 第一ラウンドでは防具と武器以外の魔道具の使用が不可だったが、第二ラウンドではポーションなども使える。

 収納の魔道具で戦車を持ち込んだ猛者までいるから、何が起こるかわからない。

 

 だからミトさんに、強そうな選手のピックアップを頼んだわけだ。


 万が一負けることがあるといけないからね。


 ちなみに俺の「龍装」はルール違反ではない。

 ちゃんと事前に天道さんに確認してある。


「ユミレアさん、行きましょうか」


 俺はユミレアさんだけを連れて、A級ダンジョンへと向かった。


 鈴は学校の先輩が多く出場するらしく、この後も見ていくそうだ。



 

 

 俺とユミレアさんは、支部から一番近い平原型のA級ダンジョンにやってきた。


 今日含めて三日間、次の試合までできるだけ準備をしておきたい。


 本格的な攻略は大会が終わってからだな。

 A級は四十階層もあるし、本腰を入れて攻略するのは今ではない。

 

 まずは低階層を回って魔石を集めて、A級眷属の召喚を最優先とする。

 その他にはまだまだ修行中の魔力操作の訓練や、ユミレアさんとの模擬戦をやる予定だ。


 あとは、ユミレアさんに確認しておきたい事も済ませていこう。

 

 俺とユミレアさんはダンジョンを進み、魔石集めを開始した。




「英雄杯」の予選が行われている事もあり、ダンジョンには俺たち以外の探索者はいなかった。


 おかげで何も気にする事なく、魔石集めが大いに捗っている。


 俺とユミレアさん、サクヤとリュート、リュウキとリュウガ、合計3手に分かれて狩りを行なっている。


 そして片手間に、ユミレアさんに質問した。


「ユミレアさんのステータスは、どうして何も書かれていないんでしょう?」


 ______

 名前:ユミレア・レーネベルト

 種族:エルフ

 称号:剣鬼・剣聖の弟子

 

 スキル:なし

 ______

 

 俺はステータスボードをユミレアさんに見せる。


「ん? これはなんだ?」


「え?」


 なぜか会話が噛み合わない。


「これがステータスとやらか? 名前に種族に称号……全て正しいが、これに何の意味があるのだ?」


 ステータスを知らない? どういうことだ?


 俺は自分のステータスも見せ、一つ一つ説明した。




「ふむ……なるほどな。身体能力の数値化に、使用できるスキルの情報か、これはなかなか面白いな」


 少し話を聞いてみて、やはりユミレアさんが異世界人なのだと改めて実感した。


 そしていくつか異なる点が判明した。

 

 ステータスというものは「イヴァ」には存在せず、スキルポイントというシステムも存在しないらしい。


 地球の俺たちが「魔纏」を使うには、スキルポイントで「魔闘術」を習得し、MPを消費して「魔纏」スキルを発動する。


 だが「イヴァ」では、俺が特訓している様に魔力を操作するところから始め、鍛錬の末に技術として習得するという。


「イヴァ」では努力の末に手に入れる技であるのと反対に、「地球」ではスキルポイントを使って借りている。


 こんなイメージで合ってるだろうか?


 世界が違うのだからと言ってしまえばそれまでだが、何だか流してはいけないような事な気がする。


 何だ……このモヤモヤは?


 ミトさんや俺以外の人達が魔力を操作できない理由とつながっているような気がするんだよな。


 う〜む……


 ユミレアさんが俺のステータスを眺めている横でモヤモヤと考えていると、リュートたちが魔石集めから帰ってきた。

 

「王よ、ただいま戻りました」

「ご飯くださいなのです!」


「英人様! たくさん集めてきました」

「いや〜暴れてスッキリしたぜ〜」

 

 別行動していた眷属達から魔石を預かり、1時間程で召喚できる分が溜まった。


 ______

 インベントリ

 魔石

 ・F級:203756

 ・E級;519

 ・D級:453

 ・C級:436 

 ・B級:445

 ・A級:24

 ______

 

 F級魔石もずいぶん溜まったな……本戦までに時間を見つけてガチャを引いておくか。

 スキルガチャや武装ガチャは今度にして、とりあえず一体だけA級眷属を召喚しよう。


 今日は大会中で運良く誰もいないし、ここでいいか。


 俺は「眷属召喚」を開き、そのままA級眷属の召喚を実行した。


 ワイバーンの時よりもさらに大きい直径30メートルほどの魔法陣が、さながらミステリーサークルのように生い茂る草を押し退けて出現した。


 魔法陣が色鮮やかに輝き、魔法陣から巨大な龍が飛び出した。


 それはドラゴンというよりは蛇、中華の神話に出てくる「龍」の様だった。


「でけえ……」


 俺はしばらくの間、天に昇る龍の姿を見上げていた。

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