第82話 友・そして「聖」者達


 炎が全てを焼き払い、フィールドは更地となった。

 

 そして北東へ4キロの地点に、先程の龍魔法を回避した人物の反応があった。


 ソラの背中に乗って反応のある地点に着いたが人は見当たらない。


 ん?


 隈なく周囲を観察すると、ポッカリと空いた小さな穴があった。


 なるほどな……咄嗟に穴を掘って地中に逃れたのか。


 俺は穴から少し離れた場所に着地し、生き残りが穴から出てくるのを待った。


 しばらくすると、穴から一人の青年が這い上がってきた。


 ハハ……これは驚いたな。


 穴から出てきた人物を見て、思わず笑みが溢れた。


「さすがミスターだ。死ぬかと思ったよ……」


 這い出てきたのは金ピカ鎧のキザ男、アーサーさんだった。


 アーサーさんは鎧についた土を払いながらそう言った。


「まさか生き残ったのがアーサーさんだったとは、正直驚きましたよ」


 魔法の発動を阻止しようと攻撃してきた者、何もせず空を見上げる者、マップの端まで退避する者。

 対処法は様々だったけど、まさか穴を掘るなんてね。

 でもそれが、唯一の正解だったのかもしれない。


 ちょっとアーサーさんを舐めていた。

 

「これでも、探索者歴は長い方なのさ」


 経験と直感か……さすがだ。


 俺は生き残りがアーサーさんだと分かった時、なぜか嬉しかった。


 アーサーさんに才能はない。

 下級ジョブの「槍士」で、槍の技術も悪くない程度だ。

 そして「英雄になる男」だと、能力に見合わない夢を掲げていた。


 俺も少し前まで同じだった……


 俺はソラを龍装に戻し、大剣を召喚する。


「アーサーさん。魔力も残り少ないみたいですし、リタイアしてもいいんですよ?」


 かなり深く穴は掘られているし、熱波を凌ぐのにも魔力障壁を展開する必要があったはずだ。


「そうだね……でもこんな機会はもうないかもしれないから、最後まで戦ってくれるかい?」


「もちろんです」


 タイミングを測るまでもなく、俺とアーサーさんは同時に地を蹴った。


 刃を交える中、アーサーさんは笑っていた。




 ***

 Side:天霧 鈴


 


 お兄ちゃんの試合が始まって5分とたたずに、興奮した実況が試合終了を告げた。


『まさにこの世の終わりのような凄まじい一撃を回避したアーサー選手でしたが、ここでドロップアウト! 第3試合は天霧選手の勝利で試合終了です! 大会の歴史でも類を見ないほどのワンサイドゲームとなりました!』


「「「おぉ……」」」


 会場の観客はほとんどが放心したような、驚きすぎて声も出ないと言った様子だった。


 私ももちろん驚いてる。


 お兄ちゃんが強いことは、あの事件で分かってはいたけど、ここまで強いとは思ってなかった。


 でもそんなことよりも、お兄ちゃんが最後に見せた顔を見て、私の目には自然と涙が溢れていた。 


「お兄ちゃん……」

 

「何年振りかしら……あの子が笑ったのは」


 隣にいるお母さんも、私と同じように泣いていた。


「お、おい。二人ともなぜ泣くのだ?」


「何でもないのよユミレアちゃん。ちょっと感動しただけなの」


「そ、そうか……我が弟子の強さに感動したか! ハハハ!」

 

「ん……違うと思う」


 お母さんたちの会話が、静まり返った会場に響いていた。


 それがきっかけなのか、徐々に会場もざわつき始めた。


「なあ……あんな魔法スキルあったか?」

「ドラゴン……」

「彼のジョブは何だと思う? ユニークかな?」


「さすが俺の見込んだ男だぜ! 大剣の兄ちゃん! 俺は兄ちゃんに全財産かけるぜ!」


 ざわつきは次第に伝播し、やがて猛烈な熱気となって会場全体を包んだ。




 ***

 Side:「拳聖」タオ・フェン:中国




「な……ななな、何ネ ! ? 今の何ネ ! ?」


 日本で行われている「英雄杯」、その中継を見ていたウチは度肝を抜かれた。


 火魔法の様ではあったけど、あんな魔法が存在しないことくらいS級のウチなら知っている。

 

 隣で一緒に見ているワン・リーフェイに、今のが何か訪ねた。


「リーフェイなら視えていたはずネ! 今の何ネ ! ?」


 リーフェイは少しずれたメガネをクイっと直して答える。


「何度も言うようですがタオ様、私のこの眼は直接見る必要があります。ですから、何と尋ねられても困ります。タオ様はニワトリですね」


 済ました顔で煽ってくるリーフェイ。


「ムキー! だったら直接見に行くネ! 急いでジャパンに飛ぶネ」


「本戦の二日前に向かう予定では? 一応招待されているのですし、勝手に予定を変えるのはあちらの準備もあるでしょうし、迷惑になります」


 むむ……そうだった。


 でも一刻も早くあの天霧という男に会いたいアル……


 ようやく見つけた……今回は本物かもしれないネ……


 


 ***

 Side:「賢者」オルトス・フィリデン:アメリカ合衆国

 

 


 ほうほう……なかなか面白いことになっておる。

 

 私は「英雄杯」の中継を切り、その足でレオ坊のところへ向かった。


 国防総省内部に充てがわれた豪華な一室、ここは現在世界で最も強い男のいる部屋。


 ワシはノックの返事を聞かず、そのまま扉を開けた。


「レオ坊、そろそろ日本へ向かうフライトの時間じゃが、本当に行かんのか?」


 豪華な部屋の真ん中で、ゲームに熱中する「剣聖」に声をかけた。


「ん? 何度も言わせないでよ。今イベントで忙しいからパス〜、適当に理由つけて断っといてよ」


 レオナルドはモニターに目を向けたまま、ワシにそう返事をした。


「今年の大会こそは、レオ坊の求める人物と戦えるかもしれぬぞ?」


「だから行かないって、どうせ優勝は天道レイナだろうし、彼女にはもう興味ないから」


「ふむ……気が向いたらで良い、日本に来なさい」


 ワシはそれ以上は何も言わず、坊の部屋を後にした。


 レオナルド・オルティリオ、ユニークスキルとジョブを同時に持った唯一無二の少年。


 そして彼を最強たらしめるのは、天賦の才。

 並はずれた戦闘視野、身体能力、戦闘における全ての才があった。


 ジョブが開花したその日から、レオ坊と肩を並べるものは、かの日本人以外はおらんかった。


 その「英雄」、「狂犬」と呼ばれた男も、坊の成長を待たずしていなくなった。


 彼が生きていたなら、坊の孤独は幾分か紛れたかもしれない。


 ゲームの中でしか他人と競い合えないなど……なんと辛きことか。


 じゃが、彼ならば……坊の良きライバルになれるかもしれんのう。


 天霧英人……今年のエキシビションは、久々に出しゃばってみるのも良いかもしれん。

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