第80話 輝く最強への道
天道支部長が手続きを行なっている間、俺とアンナさん達の三人は支部長室で待機していた。
「アンナさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
先ほどの戦いで観測したエネルギーと、魔力を動かせる件について聞きたいところだ。
「どうした?」
「ユニークスキルはどうやって発動しているんですか?」
ユニークスキルはステータス欄に書かれてはいるが、通常の他のスキルとは異なる。
通常スキルは発動を意識することで半ばシステム的に発動されるが、ユニークスキルはそうはいかないらしい。
能力の説明も書かれていないし、どうすれば発動するのかなど、手探りで長い時間をかけて習得していくものだという。
「難しい質問だが、そうだな……映像がスローモーションになるイメージを頭に浮かべて、その効果をどこに反映させるか、細かく意識して発動しているな。例えば先程の模擬戦の最後に使っていた時は、私の半径3メートルの範囲の時間が遅くなる様にイメージして発動していたぞ」
なるほど……イメージか。
この感じだと、エネルギー源についてはよくわかっていなさそうだな。
「何かMPの様なものを消費している感覚ってありますか?」
「いいところに目をつけたな……ステータスに表記されていない何かを消費している感覚はある、その何が有限だということも。だから、先程は逃げの一手を選択されると困るところだった。数分で使えなくなっていただろうしな」
ふむ、なんとなく分かってきた。
やっぱりあの白い靄は、特殊なスキルでないと本人を含めて感知できないんだ。
逆によくあそこまで使いこなしているものだな……
「それにしても、どうやって私のユニークスキルを逃れたのだ? あそこまでユニークスキルの効かない相手は始めてだ」
「実は――」
俺は龍感覚を使って、魔力とは別のエネルギーを感知したことなどを二人に説明した。
「なるほどな……その白い靄を避けることで回避していたということか。それにしても、これは大発見なのではないか?」
「そうですね……世界中の研究者達からモテモテになりそうですね」
ルーシーさんの言う通り、俺の「龍感覚」でしか感知できない以上、ユニークスキルを調べるには俺が必要になる。
「ですから、このことはここだけの話でお願いします」
ユニークスキルについては気になるけど、そこまで本腰を入れて研究に付き合う時間はない。
このことは、俺の方で独自に調べていくことに決めた。
そしてここで、もう一つ気になっていることを訪ねた。
「そういえばアンナさん、魔力を動かしてましたよね?」
「ああ、あれは私の特異体質らしくてな。普通はできないらしい」
うん? 特異体質だって?
「じゃあ、ルーシーさんはできないってことですか?」
「ええ、私にはできません。私の知っている限り、アンナ以外に魔力を動かせる人は……剣聖のレオナルドさんくらいでしょうか」
これはどういうことだ?
てっきり、ミトさんに才能がないのだと思っていたんだけど。
アンナさんと剣聖以外は魔力を動かせないとなると、二人の共通点は……
俺はしばらく頭をフル回転させ、一つの共通点を見つけた。
ユニークスキルか?
でもそうなると、俺はどうして魔力を操作できる?
俺にはユニークスキルという表記のスキルは持っていない。
怪しいのは「コアスキル」と「ソウルスキル」だけど……
うーむ……分からん。
仮にユニークスキルを持っていることが、魔力操作ができる条件だとする。
そうなると、レイナも魔力操作ができるはずだし、父さんにもできたということになる。
さらにいえば、魔力操作ができるユミレアさんはユニークスキルを持っていることになる。
まあ、ユミレアさんには帰ったら聞いてみるとして、この疑問はすぐには解決しないだろうな。
そうこう話しているところで、天道さんが手続きを終えて支部長室にやって来た。
ひとまず魔力やらの話はまた今度にしよう。
「待たせて済まなかったね。これが新しいシーカーリングだ。A級昇格おめでとう」
俺は天道さんから新しいアダマンタイト製のシーカーリングを受け取った。
A級のシーカーリングはアダマンタイト鉱石で作られており、美しい灰色の中に淡く青色が輝く、なんとも不思議な色をしている。
「英人さん、おめでとうございます」
「私に勝ったのだから当然だな」
二人ともどこか嬉しそうに、祝いの言葉をくれた。
「ありがとうございます」
こうして、俺は晴れてA級探索者となった。
それから、A級探索者の注意事項や特典などの諸々の説明が終わり、今日のもう一つの目的を果たす時が来た。
「それじゃあ説明はこのくらいだね。それと頼まれていた件、少しだけなら時間が取れるそうだよ」
「ありがとうございます」
天道さんには事前に、あるお願いをしていた。
――ピピピッ
支部長室に設置してある大型モニターに、財前会長からの着信が表示される。
「おっと、準備はいいかい?」
「はい」
天道支部長が手元の端末を操作すると、モニターに財前会長の姿が映し出された。
「お疲れ様です財前会長。お時間いただきありがとうございます」
天道支部長はそう言って頭を下げる。
俺たち三人も、それに倣って頭を下げる。
『ほっほっほ、良い良い。天霧少年が何か頼みがあるのじゃろう? それくらい構わぬよ』
俺は立ち上がり、財前会長に話しかける。
「お忙しい中ありがとうございます。単刀直入ですが、次の英雄杯……そのエキシビションマッチで俺が勝利したら、S級ダンジョンの管理権限をいただけないでしょうか?」
俺はそう言って頭を下げる。
来月開催されるDリーグのトーナメント戦、正式名称を『Dリーグ特別トーナメント・英雄杯』。
この大会は、各地区の予選を通過した8人によるトーナメント戦で、年に数回しか行われない個人戦の大会だ。
いくつかある大会の中で「英雄杯」は少し特殊で、A級以下の探索者しか出場できない珍しい大会だ。
「英雄杯」は、父さんが立ち上げた大会でもある。
『未来の英雄が生まれる大会』
というのがコンセプトで、S級が出場しない唯一の大会でもある。
そしてこの「英雄杯」は毎回、その年の優勝者と現役のS級探索者が対戦する「エキシビションマッチ」が行われる。
S級探索者と言っても、ただのS級じゃない。
毎年必ず、ユニークジョブ持ちのS級探索者の誰かが対戦相手となり、試合直前まで公開されない。
ちなみに去年は確か、アメリカの「剣聖」レオナルド・オルティリオが、英雄杯の優勝者と対戦したはずだ。
それと未だかつて、このエキシビションマッチでS級に勝利した者はいない。
噂では、このエキシビションに勝利したら「英雄」の二つ名を与えられるらしい。
まあ目的はそれじゃないけど、父さんと同じ二つ名なら是非とも欲しいところではある。
「ふむ……面白いことを言いよる。A級に上がって自惚れている……わけではなさそうじゃな」
俺は真っ直ぐと、財前会長を見る。
S級ダンジョンの管理権限、これは時間をかければ手に入れることは可能だ。
各大会で優勝したり、長年のダンジョン攻略実績だったりと、地道に実績を積み重ねていればいつか手に入れられる可能性はある。
だけどそんな悠長に実績を積み重ねている暇はない。
明日にでも……いやこの瞬間にでも、魔神軍の侵攻が起こらない保証はどこにもない。
だから一刻も早く、S級ダンジョンを確保して、眷属と英霊の総出で魔石を集め始める必要がある。
それにS級ダンジョンの管理権限を得られるということは、同時にS級に認定されたと言ってもいい。
S級に上がるには、A級ダンジョンを3つ攻略するだけでは昇格できない。
必要なのは実績、早い話が大勢の人にS級の資格ありと判断される必要があるわけだ。
今回はエキシビションマッチでユニークジョブのS級に勝利することで、その実績の部分を認めてもらおうという話だ。
そうすることで、A級ダンジョンを3つ攻略した時点でS級に昇格することができるし、準備が整い次第 EXダンジョンに向かうことができる。
かなり無理を言っている自覚はあるが……
「なるほどのう……つまり、S級ダンジョンの管理権限の他にも、S級に昇格するための実績としても認めて欲しいということじゃな……少年はなかなか欲張りじゃのう……」
財前会長の感触は良くはない……が、悪くもなさそうだ。
するとここで、他の面々が交渉に参加してくる。
「英人さんの実績という部分では、先日の敵勢力の情報提供もありますし、襲撃事件の首謀者を撃退していますから……S級への実績を認めるには十分ではないでしょうか?」
ルーシーさんに続けて、アンナさんと天道さんも意見を述べる。
「私も良いと思うぞ? 英人はまだ発展途上だ……にもかかわらず私を圧倒してみせた。S級に上がっても文句はそれほど出ないだろう」
「私からもお願いします。財前会長。実績の部分はさておき、S級ダンジョンの管理に関しては、他のS級より英人君の方が適任だと考えます」
意外なことにルーシーさんとアンナさんと天道さんの3人は、俺を後押ししてくれた。
天道さんには俺が魔石を使って眷属を召喚していることを話しているから、俺に魔石が必要なことを理解してくれているんだろう。
『ふむ、これは参ったのう……聖女殿とアンナ殿にそこまで言わせるとはのう。良いじゃろう、エキシビションでの勝利を持って天霧少年のS級昇格の実績と、S級ダンジョンの管理権限を認めよう……』
よし! これで大幅に時間が短縮できる。
財前会長の承諾に、俺は思わずガッツポーズをしそうになった。
『ただし……ただの勝利ではない。圧倒して見せよ』
喜んだのも束の間、財前会長は難題な条件をつけてきた。
おう……マジかよ……
『天霧少年の父が、かつてそうであったように……圧倒的な強さと「英雄」の二つ名に恥じない戦いをして見せるのじゃ』
ユニークジョブ持ちのS級を圧倒か……
勝利はできる自信はあるけど、圧倒するとなると……
いやでも、この先戦うことになる魔神軍のことを考えれば、圧倒できなければ話にならないのかもしれない。
誰が相手になるかわからないけど、なって見せよう……父さんと同じ最強に。
俺は今一度決意を固め、財前会長に宣言する。
「わかりました財前会長。全ての試合で、圧倒的に勝利してみせます」
『ほっほっほ。楽しみにしておるぞ』
「ハハハ! これは俄然楽しみになってきたな!」
そうして密かな交渉は終わり、俺の頼みを聞いてもらうことができた。
「英雄杯」の予選は明日からだ……本戦までの間にできるだけ鍛えておかないとな。
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