第58話 大空の覇者
B級ダンジョンへ入場した後、俺は順調に探索を進めた。
そして無事夕方に15層の中ボス部屋へ辿り着いたが、案の定ボス部屋前は長蛇の列が出来ていた。
これは……
今の時刻は18時半、この行列だと最後尾は0時を過ぎるんじゃないか?
俺は急遽15層で野営をして、翌朝一番で中ボス部屋に乗り込むことに決めた。
ここのダンジョンはボスが強いで有名だから、ほとんどのパーティーは中ボスを倒して帰還するだろう。
だとしたら多少遅くても今日中に帰りたいだろうし、朝一で中ボスに挑むパーティーは少ないと見た。
俺は中ボス部屋から少し離れた場所に結界石を設置し、野営の準備を始めた。
そして翌朝、俺の予想通り中ボスに挑むパーティーはおらず、待たされることなく中ボスに挑むことに成功した。
中ボス部屋に入場すると、C級のアイアンゴーレムが三体出現した。
アイアンゴーレムはその名の通り、3メートルほどの鋼鉄の塊が人型になったような魔物だ。
物理攻撃はほとんど効果がないけど、魔法が使える者がパーティーに入ればそこまで苦労しない。
俺は三体のアイアンゴーレムに向けて火魔法を放つ。
「クリムゾンフレア!」
俺が魔法を発動すると、中ボス部屋の床に巨大な魔法陣が出現する。
3メートルほどのアイアンゴーレム三体を、余裕で魔法陣の中に収めるほどの大きさがある。
そして展開された魔法陣から、灼熱の炎の柱が吹き出す
炎柱はアイアンゴーレム三体を飲み込み、わずか5秒ほどで三体の魔物を消し炭に変えた。
「よし、魔石と報酬の回収を頼む」
「承知しました」
別にリュートに指示したわけではないけど、魔石の回収は大体リュートがやってくれる。
サクヤ達もリュートが回収することが当たり前になったのか、誰も動くことはしない。
まあ、動くだけ無駄な事にみんな気づいたんだろう。
「お納め下さい。王よ」
この通り、リュートは高い敏捷値を存分に活かして、魔石を速攻で回収してくる。
「ありがとうリュート。助かるよ」
俺は礼を言いつつ、リュートから魔石と討伐報酬を受けとる。
討伐報酬は鉄のインゴットが10kg、そしてミスリル鉱石が1kg手に入った。
ゴーレム系のボスは確定で鉱石が手に入るから、探索者には人気のボスだ。
俺が報酬をインベントリにしまっていると、中ボス部屋中央に16層への階段と帰還用魔法陣が現れた。
俺たちは迷わず階段を選択し、16層へ歩みを進めた。
中ボスを倒した俺たちは、その後も順調に攻略を続けた。
時刻が18時を過ぎた頃、ようやくボス部屋の入り口にやってきた。
B級以上のダンジョンでは、最終階層の全域がボス部屋となっている。
今俺は29層にいて、30層に入場した時点でボスが出現する。
ボス戦の形態はダンジョンごとに異なり、今回のボスはB級が2体出てくるはずだ。
そして俺は階段を進み、30階層に入場した。
俺はすぐにリュート達眷属を召喚し、敵の出現に備える。
フィールドは草原が続いており、階層の中心と思われる位置に大きな山が聳えている。
山は所々霧が掛かっていて、ダンジョンの生成物とは思えない程に壮大だ。
おそらくあの山頂付近がボスの出現エリアのはずだ。
「やっとボスか! 主人、ボスはどんな奴なんだ?」
リュウキはいつも通り目を輝かせながらそう聞いてくる。
「今回のボスは……」
ボスの説明をしようとすると、遠くに聳える山の頂上付近に、ボスがその姿を見せた。
「あの二匹が相手だ」
『『ピィーーー!』』
甲高いホイッスルのような鳴き声を上げ、2体の魔物が霧の合間から現れる。
強靭な筋肉を持った獅子の体躯に鷲の頭、そして背中には大きな鷲の翼が生えている。
今回のボスはグリフォンが2体。
B級の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ魔物だ。
こいつらの厄介な点はいくつかあるが、一番は空を飛ぶことだろう。
グリフォンは基本的に、上空から風魔法で攻撃してくる。
おかげで近接攻撃手段しかないパーティーは一方的に攻撃されてしまう。
そしてグリフォンはMPが切れると地上に降り立ち、凶悪な前脚の爪で攻撃を仕掛けてくる。
だがそこでも、あの巨体が厄介になってくる。
象よりも大きな体躯、そしてジェット機のウィング並みのサイズの翼。
そこから放たれる前脚の爪攻撃は凄まじい威力を持つ。
そんなグリフォンを2体、このダンジョンでは相手にしないといけない。
難易度がそこらのB級ダンジョンを優に凌ぐ。
そして今回は龍気の使用も制限するから、なかなか厳しい戦いになるかもしれない。
だけど俺とリュート達4人なら可能なはずだ。
さて、作戦はどうしようか……
今回俺は、ボスの攻略方法などはなるべく見ないようにしてきた。
ここのダンジョンは有名だから、グリフォンの特徴なんかは覚えていたけど、他の事は知らない。
俺はひとまず「魔力察知」を発動した。
風魔法は基本的に可視化できないから、スキルで魔力を感知しないと対応は難しい。
研ぎ澄まされた感覚が、グリフォンの魔力を感知する。
なるほどな……これは面倒だ。
グリフォンの巨体は、全身隙間なく風の魔力に覆われている。
こちらも空を飛んで、空中での近接戦闘で勝負しようと思っていた。
だけどあの風の魔力が覆っている限り、近接攻撃は効果が薄いだろう。
あの風魔力の結界を突破できるのは龍気による攻撃くらいかな。
だとしたら、まずはグリフォンのMPを切れさせないといけない。
俺は試しに、火魔法をグリフォンめがけて放ってみる。
「フレイムショット」
炎の弾丸が高速で飛翔し、グリフォンの風の結界に直撃する。
――ボフッ
まだグリフォンとは距離があるし、知能が無いとはいえ十分避けられたはず。
しかしグリフォンは避ける素振りを見せず、俺の火魔法は風の結界に簡単にかき消された。
なるほどな……
今の攻撃を見て、サクヤ達が反応してくる。
「主人様〜サクヤの矢も効かなそうなのです。どうするのです?」
「俺に任せろって、あんなもんこの斧があれば余裕だろ!」
確かにな、リュウキの「ユルングル」ならそれも可能だろう。
俺は無言で手元に「ユルングル」を召喚をし、リュウキから斧を取り上げる。
「あ! おい主人! 何してんだ ! ?」
「リュウキ、今回はこれを使え」
そう言って俺は、「アダマンタイトの斧」を渡す。
「そりゃないぜ〜」
みるからにテンションが下がっているけど仕方ない。
今回は訓練の意味もあるから、強すぎる武器は無しで行こう。
「王よ、作戦はどうされますか?」
俺は少し考えて、今使える一番有効そうな手段を見つけた。
「そうだな……まずは片方を地面に落とそう。リュウガ、お前の出番だ」
「オ、オイラですか ! ? オイラは何をすれば……」
そうこうしているうちに、2体のグリフォンがすぐそこまで迫っていた。
そして早速、2体のグリフォンは風魔法での攻撃を開始した。
『『ピィーーー!』』
俺たち5人をめがけて、風魔力の弾丸が嵐の様に迫る。
俺はすぐに思考共有で意図を伝え、リュウガにスキルを発動させる。
「そう言う事ですね! 了解です!」
すぐにリュウガは俺の指示を理解して、俺たちの前で大盾を構えて盾術の奥義を発動した。
「反転する運命!」
リュウガの大盾が輝き、グリフォンの風魔法は大盾に吸い込まれるようにして消えた。
「まだだ! もう少し吸収しろ!」
「任せてください!」
______
盾術Lv10:反転する運命
一定時間攻撃のエネルギーを吸収して、任意のタイミングで前方に魔力衝撃波を放つ。
吸収した攻撃の強さに比例して、魔力が消費される。
使用者の魔力量を超える攻撃は吸収できない。
______
リュウガのMPでどれだけ持ち堪えられるかわからないけど、片方のグリフォンを撃ち落とすくらいはできるだろう。
そしてその後も、グリフォンは絶え間なく上空から風魔法を放ってきた。
その全てをリュウガの盾に吸収させ、MPの限界まで攻撃を蓄積し続けた。
「英人様! もう限界です〜!」
もうそろそろ良いかな……
「よし、攻撃に出るぞ!」
「承知!」
「はいなのです!」
「おうよ!」
俺の号令で全員が「龍翼」を展開し、グリフォンのいる大空に飛び立つ。
そうして、グリフォンとの空中戦が開始された。
***
Side:天霧 鈴
「じゃあ鈴ちゃん、また明日学校でね」
「うん、また明日ね!」
私はクラスメイトの皆と別れ、池袋支部を後にした。
探索者学校に入学した私は、クラスメイト4人とパーティーを組んだ。
今はそのパーティーメンバーのみんなとダンジョンでレベル上げをしてた。
最近は毎日、クラスメイト達とダンジョンに潜っている。
みんなとのダンジョン攻略は18時で大体終わるけど、私にとっての本番はここから。
私は駅に向かうクラスメイト達の後ろ姿を見送って、一人でE級ダンジョンに向かう。
やっぱりパーティーメンバーの数が多いと、一人当たりの経験値が少ないんだよね……
今の私のレベルは9に上がったところ。
こんなペースだと、お兄ちゃんにどんどん差をつけられちゃう。
早くお兄ちゃんと同じくらいのレベルになって、お兄ちゃんの力になりたい。
早く苦しむお兄ちゃんを解放してあげないと……私はまた笑顔のお兄ちゃんが見たい。
そうして歩いて数分、ここ最近秘密の特訓をしているダンジョンに着いた。
私はシーカーリングをかざしてダンジョンに入った。
よし! 今日も頑張ろう!
レベル上げを始めてから少し経った頃、奇抜な格好をした男の人が近づいてきた。
またか〜
一人でダンジョンにいると毎回のようにナンパされるから嫌だな〜
今日も適当に断ろっと。
「お嬢さん、ちょっといいですか?」
「私パーティーはもう組んでるので、他を当たってください」
どうせパーティーの勧誘だろうし、少し強めにそう言った。
だけど男の人は、いつもの人とは違った。
「あなたが天霧鈴さんですね?」
うん? どうして私の名前を……
名前を知っていることを不思議に思っていると、男は目深に被った帽子を取った。
「私と一緒に来てもらえますか?」
そしてここで初めて、血のように真っ赤に染まった眼が見えた。
っ ! ? この人……もしかしてルーシーさんが言ってた――
『『『ガルル』』』
私が男の赤い目に驚いていると、いつの間にか二足歩行の狼に囲まれていた。
「ひっ ! ?」
思わず尻餅をつきそうになったけどなんとか踏ん張った。
最近話題になってるライカンスロープ……今の私のレベルじゃ、瞬きする間に殺されちゃう。
恐怖でうまく言葉が出せない。
「な……なんですか? 着いていくつもりは――」
すると突然、男の蹴りが私のお腹に突き刺さった。
「うぅっ ! ?」
強烈な腹部の痛みで、私の意識は次第に遠退いて行く。
「残念ですがあなたに拒否権はありません。ククク……あなたのお兄さんがどんな表情を見せてくれるのか楽しみですねぇ」
私は立っていることができずに地面に崩れ落ちる。
薄れゆく視界に、口角の上がり切った男の表情が見えた。
おにい……ちゃん……たすけて……お兄ちゃん!
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