第44話 卒業

 ダンジョンで蚊を発見してから4日が経った。


 ダンジョンの封鎖は大々的に報道されたが、理由については明かされなかった。

 

 そして各ダンジョンの調査が進められ、池袋周辺ではいくつかのダンジョンで安全が確認された。

 明日からは、ダンジョンに潜ることはできそうだ。

 

 そして、今日は俺が通っている学校の卒業式がある。


 そして偶然にも、鈴の中学の卒業式も今日らしい。

 俺と鈴も通う学校は家から徒歩圏内にあるので、途中まで一緒に行くことになった。


 少し歩いたところで、思い切って鈴に尋ねてみた。


「なあ鈴……探索者高校に行くって聞いたけど、本当か?」


「うん、4月から新宿校に通うんだ〜」


 ルーシーさんが言っていたことは本当だったのか……


「よく入れたな、探索者高校はジョブの審査が厳しいだろう?」


 探索者高校は国の機関で、将来的にB級以上の高ランク探索者を育成することを目的としている。

 そのため、入学の段階でジョブの審査がある。

 まず大前提として、下級ジョブはまず入学できない。

 言ってしまえば探索者のエリートが行く学校という感じだな。

 俺はそもそもステータスがなかったから入れなかった。  


「私はジョブが大司祭だったから、すんなり合格もらえたよ」


 大司祭か……司祭の上級職で、回復魔法と光魔法が使えるジョブだ。

 上級の中でも珍しいジョブで、手に入れたら将来安泰とまで言われている。

 探索者として活動しなくても、病院で必ず雇ってもらえるし。

 

 良いジョブを手に入れたな……少し安心した。


 そしてその後は他愛もない鈴の話を聞いていた。

 鈴の話はルーシーさんについてがほとんどだった。

 あの赤毛が可愛いだとか、そんなことを話していた。


 最近家でよく二人が喋っているのを見かけたが、鈴も回復系のジョブだったからだろうか?

 聖女と知り合いの大司祭なんて、箔が付きまくりだな。


 そして分かれ道に差し掛かり、俺は鈴と別れて学校まで歩いて行く。

 

 学校に着いて俺が校門に入ると、同じく卒業を迎える同級生たちが登校している。


 しかしそこで、妙に視線を感じた気がした。

 

 ん? 気のせいか? 妙に視線を感じる気が……服装間違えたか?

 間違えるも何も、うちの学校は制服だしな……


 視線を感じつつも、自分のクラスの教室に向かうと、教室の至る所でクラスメイトたちが集まって何かを見ている。


 そして俺が教室に入ると、一斉にクラスメイトたちの視線が俺に集まる。


 お? なんだ? 


 後ろを振り返っても誰もいない。

 間違いなくクラスメイトたちの視線は俺に集まっている。


 一体なんなんだ? 寝癖でもついてるのかな?


 そうして髪の毛を触って確認していると、修二が俺の前にやってきた。


「英人ぉ……お前……よがっだなぁあ!」


 修二は鼻水と涙で、ひどい顔をしながら俺に抱きついてくる。


「おい、鼻水つくだろう! 離れろって」


 てかなんで泣いてんだこいつは……


 すると今までほとんど話したことがないクラスメイトたちが俺の周りに集まり、一斉に話しかけてきた。


「天霧君! 動画見たよ! すごくカッコ良かったよ!」

「お前実はすごい奴だったんだな!」

「私も見た! B級に上がったんでしょ? すごいよ天霧君!」

「ウチもっと天霧と話しておけばよかったな〜」

 

 一体なんの騒ぎだ? 動画? 


 もしかして……アーサーさんを助けた時の?

 

「英人ぉ……ゔぅ……俺は信じてたぜ? お前は絶対活躍するってな! だから……早くレイナちゃんに合わせろ!」


 結局こいつはレイナかよ……


 レイナはうちにいると言うのは辞めておいた。

 嫌な予感がするからね。

 

 そうして担任の先生が来るまで、俺はクラスメイトに質問攻めにされていた。

 今はどこのダンジョンを攻略しているのかとか、どんなスキル覚えたとか、色々聞かれた。


 まあ、スキルについては当たり障りのない回答をしておいた。


 俺たちくらいの年齢は、大体が探索者に憧れている。

 稼ぎが良いのももちろん、探索者が人気の理由の一つだ。

 しかし一方で、Dリーグなどの競技シーンも盛んに行われているため、一昔前のスポーツ選手のような人気もある。

 それに加えて何かとメディアで話題になる探索者も多いし、アイドルや女優と結婚するというのも珍しい話ではない。


 そしてこの学校に通っているのは、下級ジョブだったものが大半だから、そうした探索者への憧れみたいなものが強いのかもしれない。

 かくいう俺も、少し前まで他の人が羨ましかったのは言うまでもない。


 


 そうして、無事に卒業式は終わり家に帰ると、アーサーさんが家の前にいた。


「またパーティーの勧誘ですか? アーサーさん」


 実は一昨日にも、うちに来てパーティーを組まないか誘われた。


「冷たいじゃないかミスター、今日はミスターと鈴嬢の卒業式だろう? 二人のためにこの僕が! 祝いに来たというわけさ!」


 どうして俺たちの卒業式が今日だって知っているんだ?

 鈴が始めてアーサーさんを見た時、俺のファンだと言っていたが、ファンというよりストーカーじゃないか?

 

「そんな二人には、僕からのプレゼントだよ」


 そう言って、巨大な花束を渡してきた。


 まあ、少し変わった人だが、今日は純粋に祝いに来てくれたようだ。


「ありがとうございます。アーサーさん」


「今日はめでたい日だからね、バディの勧誘はまた後日にするとしよう。それではミスター、鈴嬢にもよろしく言っておいてくれたまえ! See you again !」

 

 そう言って、俺の返事は聞かずに行ってしまった。

 

 だからパーティーは組まないって言ってるのに……

 


 

 アーサーさんからの花束は玄関に置いておいた。

 

 ウチは俺以外みんな女性だし、母さんと鈴は意外と喜んでいた。

 病院から帰ったルーシーさんとアンナさんも、綺麗な花だと騒いでいた。

 レイナだけは興味なさそうにしていたけど。

 

 そして今日から俺は、晴れて専業の探索者となった。


 これからは学校もないし、ダンジョン攻略に専念できる。


 まずはキメラウイルスの依頼を片付けて、A級の昇格を目指そう。


 A級に上がった後は、クランの結成を目指す。

 まずは一対一のトーナメントに出場して優勝する。

 その実績を使ってクランを作り、独占できるダンジョンを確保する。

 

 その後はS級に昇格して、戦力を整えたらいよいよEXダンジョンに行ける。


 もう少し時間がかかるが、確実に父さんに近づいている。

 ステータスを得る前は、一歩だって進んでいる気がしなかったけど……今は違う。


 俺はもう止まらない。

 

 生きた魔物にもルアンにも、俺の邪魔はさせない。




 ______

 あとがき


 少し日常回が続いてしまいましたが、逆に次話より戦闘回がそこそこ続きます。

 お楽しみに〜

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