第45話 蚊の化け物
俺が高校を卒業してから3週間ほど経った。
ダンジョンで蚊を発見してから、東京近辺の実に3割のダンジョンで蚊が発見された。
蚊が発見されたダンジョンはすぐに封鎖されてしまった。
一通りのダンジョンの調査の後、封鎖したことで感染者の増加は落ち着いた。
だけどそれまでに感染者は一万人を超え、ルーシーさんの治療はますます忙しくなっっている。
おかげでまだ蚊の発生源の特定はできていない。
ルーシーさんたちが病院で感染者の治療をしている日は、俺はダンジョンでレベリングを続けた。
ルーシーさんがいないので、蚊のいるダンジョンは入れない。
それは一般の探索者も同じで、蚊が発見されなかったダンジョンはめちゃくちゃ混雑していた。
おかげで魔石集めもレベリングもなかなか思うように進めないでいた。
そろそろ依頼を完了させたいんだが、なかなかそうもいかない。
この3周間で3回ほど発生源の調査をした。
俺は必死で龍感覚を使い、血眼になって発生源を探したが何も見つかっていない。
そして今日は4回目の調査に向かう日だ。
今日こそは発生源を特定できるといいんだけどなぁ。
早く普通に探索できるようにならないと困る。
レベルもあと1で60になるとこまで来ているのに、人が多すぎて魔物に出会えない。
「今日こそは見つけたいなぁ」
レベリングが進まないストレスからか、思わずそう口にしていた。
俺のぼやきに、ルーシーさんは答えてくれた。
うちの家を拠点にし始めて一ヶ月近く経つ、ルーシーさんとアンナさんともそれなりに打ち解けてきた。
「そうですね……そろそろ私だけでは治療が追いつかなくなってきていますし……」
キメラウイルスは、今の所ルーシーさんの回復魔法しか効果がない。
そろそろ倒れてしまってもおかしくないくらいには忙しそうにしている
まあそれも、感染者の増加は止まっているから、後は回復魔法かけていけばいずれは終わるだろう。
そして俺たちは、新宿にあるC級ダンジョンにやってきた。
いつものようにルーシーさんが「聖なる
俺の仕事は各階層での探知だ。
ルーシーさんが治療をしている日は、MPは常に龍気に変換しているからかなり溜まっている。
______
龍気:274350
______
俺は龍感覚を発動してあたりを探る。
「この階層には何もありません」
そして階層全体の探知が終わると、次の階層へ進む。
道中はアンナさんが魔物を瞬殺していく。
アンナさんは上級ジョブの「剣豪」で、さらにはユニークスキルを持っているそうだ。
探索者ランクはもちろんS級だ。
さすが、聖女の護衛に選ばれるだけある。
俺たちは半ば作業のように、探知して進んでを繰り返していった。
そうして階層を移動し、第13層に来た。
いつものように龍感覚で階層を探る。
「龍感覚」にもだいぶ慣れてきて、今では空気中の魔力なんかも探知できるまでに熟練した。
「ここの階層も異常な――」
つい口癖で、異常なしと良いかけた。
これは……もしかしたら見つけたかもしれない。
思わず笑みがこぼれる。
「英人さん? どうかされましたか?」
ルーシーさんにそう聞かれ、俺は感知したものを報告する。
「ここから丁度反対側の壁沿いに、たくさんの蚊が密集している場所があります」
今いる場所は、12層へ上がる階段を出たところ。
マップで言ったら、南の壁際にいる。
そして中央に14層への階段があって、そのさらに上の北の壁際に、夥しい数の蚊の反応がある。
「やっと見つけたか、ようやくこの退屈な調査から解放されるな」
アンナさんは声が少し弾んでいる。
「何があるかわかりませんから、二人とも慎重かつ冷静でいてください。それでは、反応があるという北の壁を目指しましょう」
ルーシーさんはいつも冷静だ。
いつも的確な指示が飛んでくる。
俺も見習わないとな……
そして反応がある場所まで一直線に、俺たちは移動した。
反応がある場所まであと50メートルの場所までくると、さすがにこの階層がおかしいことに気づく。
「やっぱり妙ですね、魔物が一切現れません」
おかしい……ここまで「龍感覚」はずっと発動しているが、蚊以外の反応が一切無い。
「そうだな、魔物が現れなくなるなど聞いたことがない」
「お二人とも、気を抜かないように」
そして密集反応がある地点に近づくと、そこには巨大な赤黒い泥の塊が見えた。
赤黒い泥の塊は見上げるほど大きく、高さは目算で軽く20メートルは超えている。
そして、泥の塊には所々穴が空いている。
「これは……巣でしょうか?」
ルーシーさんがそう呟いた瞬間、おれの「龍感覚」に大きな魔力の反応が現れた。
「何か来ます! 注意してください!」
――ブーン
俺が注意を促した瞬間、泥の塊の中から大きな羽音が響き渡る。
決して、蚊のような小さいサイズの羽音じゃない。
もっと大きいサイズの低い羽音だ。
そして巣と思われる泥の頂上から、巨大な何かが現れた。
巣の頂上を見ると、そこにはありえないサイズの巨大な蚊のような化け物が俺たちを見下ろしていた。
『ギシャアー!』
おいおい……なんだあれは!
「なんだ……あんな魔物は見たことが……」
俺とアンナさんが見たことのない魔物に驚いていると、ルーシーから一喝が入る。
「お二人とも! 未知の魔物です、気を抜かないように!」
俺は一度冷静に、あの化け物を観察する。
あれは……蚊なのか?
所々で蚊には無い特徴が散見される
大きな蟻のような凶悪な顎の中央から、蚊の血を吸う器官がホースの様に伸びている。
そして長く太い胴体から3対6枚の羽が生えている。
さらには前足の二本が、まるでカマキリの様な鎌の形をしている。
こいつ……ただ蚊が大きくなったわけではなさそうだ。
蚊の魔物なら一応はダンジョンでも出現する。
しかしサイズは人の頭くらいとそこまで大きくはない。
俺たちを見下ろしてるあの化け物は、優に3メートルは超えている。
俺が蚊の化け物を観察していると、胴体が大きく膨れ上がる。
「お二人とも何か来ます! 備えてください!」
ルーシーさんの指示でアンナさんは抜剣し、俺も大剣を召喚する。
するとホース状に伸びた化け物の口から真っ赤な液体が、消防車の放水の様に勢いよく噴出された。
――ブシャー!
真っ赤なジェット噴射が飛んでくるが、俺たちは四方に飛んで回避する。
――ズドーン!
噴射の威力はそこまでではないが、地面に真っ赤な池ができた。
丁度そこにあった木は、見る見るうちに蒸気を上げながら崩れていく。
酸の攻撃か? あれに当たったらタダでは済まなそうだ……
そして蚊の化け物は間髪無く攻撃を仕掛けてくる。
――ブシャー!
「チッ!」
回避には成功したが、地面がどんどん真っ赤に染まって行く。
このままだといずれ足場がなくなる。
ただでさえ近づき難いのに、さらに状況は悪くなる。
俺は蚊の化け物めがけて、龍剣術を発動する。
「龍燕斬!」
「龍の心臓」というスキルのおかげで、俺の龍気を使うスキルの発動効率が、以前とは比べ物にならないほど上昇している。
蒼の斬撃が化け物めがけて飛んでいき、丁度化け物が足場にしている辺りに着弾した。
外れたか……
化け物には当たらなかったが、巣頂上付近を崩すことには成功した。
まずはあいつを地面に落とそう。
じゃないとまともにダメージが与えられない。
俺は遠距離系のスキルがそこそこあるが、アンナさんは斬撃くらいだろう。
ルーシーさんは光魔法があるが、ルーシーさんのMPが切れるのはまずい。
ここは俺がやるしかなさそうだ。
俺は「龍燕斬」連続で発動し、泥の巣の破壊を狙う。
当然化け物がそれを許すはずもなく、大量の真っ赤な液体をジェット噴射してくる。
俺は液体を避けながら斬撃を飛ばす。
そして数回の斬撃が命中し、たちまち泥の巣は崩れ落ちていった。
――ゴゴゴゴ!
「ナイスです! 英人さん!」
「地面に落として仕舞えば私が切ってやろう!」
――ブーン
だが喜んだのも束の間、蚊の化物は6枚の羽を羽ばたかせ、20メートルほどの上空でホバリングし始めた。
やっぱりそうなるか……
もしかしたら図体がデカいせいで飛べないかもしれないと思ったが、そんなことはなかった。
「なっ! くそ!」
「空も飛んできますか……お二人とも、ここは撤退しましょう! 遠距離攻撃に乏しい我々では不利です!」
ルーシーさんが撤退を叫ぶ。
確かに不利な状況ではあるが、それは俺がただの剣士だった場合だ。
今回は、ルーシーさんに異を唱えさせてもらう。
「あいつは俺がやります! ルーシーさん! バフをかけ直してください!」
「一体どうするんですか ! ? ……わかりました、ここは英人さんを信じます!
一瞬迷った様子を見せたが、俺の自信が伝わったのか、バフをかけ直してくれた。
「ありがとうございます!」
そして俺は「
「龍翼展開!」
俺の背中から、大きな蒼い龍の翼が顕現する。
次はこっちの番だ!
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