第43話 封鎖
「私が予想していた最悪の展開になったようです。おそらくキメラウイルスの感染源は、先ほどの蚊だと思われます」
今の状況から見てそうなるだろう。
本当に先程の蚊がキメラウイルスを持っているかは、俺たちでは調べようがない。
だけど現状は、蚊が感染源と見て動いたほうが良さそうだ。
しかしこの蚊は、一体どこから湧いているんだ?
「ダンジョンには人間以外の生物は入れないはずですよね?」
ダンジョン出現当時の研究で、犬や猫などの動物を連れて行こうとしたところ、人間以外はダンジョンの入り口を通過できなかったらしい。
その後の研究で、ダンジョンには生態系が存在しておらず、虫や微生物でさえ発見できなかったという。
「はい、そのはずですが……こうして存在を確認した以上、何かが起こっていると見ていいでしょう。せめてどこから蚊が現れているかを確認できればいいのですが……」
蚊の発生地点か……俺のスキルなら探せるかもしれない。
「それなら俺に任せてください。龍感覚」
俺は「龍感覚」を発動した。
階層全域を調べるために、今までにない程に集中して探る。
龍気が波紋のように広がり、階層全体に行き渡る。
蚊はサイズが小さいため、索敵の対象を小さな生物に絞る。
すると階層全体に、夥しい数の蚊を発見した。
これは……ちょっとまずいかもな。
それに発生源も不明だ。
どこにもそれらしき痕跡は感知できない。
「ルーシーさん! すぐに撤退しましょう!」
「どうしたんですか ! ?」
もしキメラウイルスの感染源がこいつらなら、ここにいるのはまずいかもしれない。
もしかしたら既に、俺たちは感染している可能性すらある。
「階層全体で蚊を感知しました。発生源らしきものも見当たりませんし、一度地上に戻ったほうがいいかもしれません」
感知の結果を報告すると、アンナさんが俺の感知範囲に驚いていた。
「今の一瞬で階層全体を ! ? いったい何のスキルを使ったんだ?」
「アンナ、今はそれより地上を目指しましょう。英人さんの感知が正しいとすれば、ここにいるのは危険です」
冷静なルーシーさんの決断で、俺たちは地上を目指すこととなった。
「聖なる衣! これで万が一刺されていても大丈夫です。一定時間浄化が続きますから、効果が切れる前に戻りましょう」
ルーシーさんがいて助かった。
もしいなければ、俺はとっくに病院行きだったかもしれない。
俺たちは急いで地上に戻り、その足で池袋支部へ向かった。
池袋支部にて、天道さんに今回のC級ダンジョンでの出来事を報告した。
「なるほど、C級ダンジョンに蚊が……それがキメラウイルスの感染源の可能性があるということか、これは……私の手には余るかもしれないな。」
天道さんはしばらく考えた様子の後、どこかに連絡するそぶりを見せ、支部長室にある大型のモニターを起動する。
するとモニターには、一人のおじいさんが映し出された。
「財前会長、お忙しいところ失礼いたします。至急お伝えしたいことが――」
どうやら財前会長に繋いでいたようだ。
天道さんは財前会長に今回の件を説明した。
それを受けた財前会長は険しい表情を見せる。
「ふ〜む……もし感染源が蚊だとしたらまずいのう。止むおえまい……ひとまずダンジョンは封鎖したほうが良いのう」
そして財前会長は悩んだ末、関東県内にあるダンジョンを全て、無期限で封鎖することが決まった。
まあ仕方がないだろう。
現状では手の打ちようがないし、ルーシーさんがいなければまともに探索巣ることすらできない。
そして完全防護服を着た調査隊を編成し、全てのダンジョンの調査が行われることとなった。
調査隊に感知能力に優れた人材を編成し、蚊を感知したダンジョンはそのまま封鎖。
蚊が発見されなかったダンジョンは、安全が確認でき次第解放されるとのことだ。
しばらく探索はお預けか……まあ今回は仕方がない。
そして報告した後は家に戻り、今日の調査は終了した。
そして眠る前のベットの中で、明日以降の行動を考えていた。
明日からどうしようか……ルーシーさんが居ないと探索は厳しい。
全てのダンジョンに蚊がいる訳ではないだろうけど、現状では調査隊の報告を待つのが無難だろう。
池袋周辺のダンジョンの調査は数日で終わるかな?
それまでどうしようか……
そう考えていると、蚊を発見する前のルーシーさんとの会話を思い出す。
確か……鈴は探索者学校に入学するんだったか。
鈴のジョブはなんだろう?
鈴は今15歳のはず、遅くても12歳でジョブは発現するから、少なくとも3年間はジョブを知らずに俺は生活していたわけだ。
まあ、今度聞けばいいか。
それより、鈴の高校入学で思い出した。
もうすぐ俺も卒業式があるはずだ……
全く気にしていなかったけど、いつだろう?
確認すると、俺の卒業式は4日後の3月7日だった。
12月頃の俺は、何も考えず剣の素振りをしていた。
だけどステータスが手に入ったおかげで、高校卒業後に途方に暮れずに済んだ。
卒業か……学校の思い出なんてほとんど無い。
放課後は速攻で帰宅していたし、朝もチャイムギリギリで登校していた。
できるだけ鍛錬の時間を確保するためだ。
毎日自分を鍛えていないと、なんとも言えない焦りがあった。
最後に修二の顔でも拝みに行くか……
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