第41話 始動と胎動
そして俺とレイナは正式な手続きを終えると、天道支部長がとんでもない事を言い出した。
「そうそう、英人君。お二人はしばらく英人君の家で世話になるそうだから、よろしく頼むよ」
「はい?」
俺の聞き間違いだろうか?
「二人は極秘で来日しているからね、できるだけ人目につかないように、滞在先は君の家になったよ。お母さんには既に許可をもらっているから心配いらないよ」
「母さんが許可を? いつの間に……」
「これから一緒に行動するんだ、同じ場所で寝泊まりした方が色々と楽だろう」
そうして俺は流されるままに、全員で俺の家に向かった。
用意された車で家の前に着くと、鈴が玄関先で俺たち四人を出迎えた。
「いらっしゃい皆さん! 天霧家へようこそー」
なんだか鈴の機嫌がいつもより良い気がするのは気のせいか?
「妹の鈴さんですね。こんにちは、ルーシーと申します。しばらくお世話になりますね」
「私はルーシー様の護衛のアンナだ、よろしく頼む」
「聖女様! 会えて嬉しいです! 握手してください!」
鈴が聖女に握手をお願いすると、ルーシーさんは快く握手を交わしてくれたようだ。
鈴は聖女のファンだったのか?
そして、ルーシーさんとアンナさんは二人で一部屋を使うことになった。
鈴の隣の少し大きな部屋だ。
ちなみに俺の家は結構大きい、俺と鈴と母さんが使っている部屋以外に、客間にできる部屋が3部屋ほどある。
二人の部屋を案内した後、二人が部屋で荷物などのを整理している隙に、レイナが俺に提案してきた。
「ねえ、私もしばらくここに泊まるわ」
「いや、レイナの家はすぐ近くだろう? わざわざ泊まる必要あるのか?」
そう、レイナの実家であり天道さんの家は、俺の家から徒歩で10分と言ったところだ。
「べ、別に良いじゃない! どうせなら四人とも同じ家にいたほうが楽でしょ?」
「まあ確かにな……」
「そういうことよ。そうと決まれば一旦家に戻って荷物取ってくるわ」
そう言ってレイナは荷物を取りに、一時帰宅した。
そしてレイナが戻り、部屋の確認が終わったところで、俺たちは今回の依頼の会議用に作った部屋に集合していた。
「それでは改めて英人さんとレイナさん、お二人ともよろしくお願いしますね」
「よろしくお願いします。それで、具体的に俺たちはどうすれば良いんですか?」
俺は今回の依頼について尋ねた。
できるだけダンジョンに潜れる時間が作れると良いな。
「まずは感染者の治療が優先になりますね。まだ私の回復魔法で治せると決まったわけではありませんが、感染元の調査の方針を決めるためにも、本日は感染者のいる病院へ行きましょう」
そうして俺たちは、まずは感染者が入院している病院へ向かうことになった。
病院へ到着した後、俺たちは感染者の病室を回って治療を行った。
病院内は看護師や医師が絶えず動き回っていて、病室からは患者が苦しむうめき声がそこらじゅうに響き渡っていた。
想像以上に深刻な状態だったようだ……
結論から言うと、聖女の回復魔法は効果があった。
完治とまではいかなかったが、素人目に見ても症状が良くなっているのがわかった。
聖女の回復魔法しか効果がない以上、ルーシーさん一人で感染者を治療する他ない。
現在の感染者は3000人以上に増えている。
依頼終了はしばらくかかりそうだな……
病室を回って治療を続けていると、あっという間に時間は過ぎた。
俺たち4人は帰宅すると早速、今後の方針についての話し合いが始まった。
「私の回復魔法が有効だったのは幸いですね。明日からは、病院についてくるのはお二人のうちどちらかで構いません」
よし! 流石に毎日病院に行くのはごめんだ。
ここはスピード勝負。
「じゃあレイナ、病院への同行はお前に任せたぞ」
俺はレイナの方に手を置き、笑顔を作る。
「ちょっと! まあいいわ……私はもうA級に上がったから、しばらく急ぐ必要はないし」
こいついつの間にA級に……別に競争しているわけではないが、少し悔しい。
「ふふ、ではレイナさんは治療のサポートを、英人さんにはダンジョンジョンでの調査に同行してもらう、と言うことでよろしいですか?」
ん?
「ダンジョンで調査ですか?」
「はい、おそらく今回のウイルスの件、ダンジョンで発生している可能性が高いと思いますので、英人さんにはそちらの調査に同行してもらいますね」
ダンジョンでの調査か……まあ、魔物は俺に倒させてくれればいいか。
間違いなく治療に同行するよりはマシだろう。
あの患者たちは見ているだけで気分が悪くなるし……
今日治療した感染者は気を失っているか、痛みや苦しみで泣き叫んでいる者がほとんどだった。
一日中あの叫び声を聞いていたらこっちがおかしくなりそうだ。
だけど、キメラウイルスの感染源はダンジョンなのだろうか?
「どうしてダンジョンで発生していると思うんですか?」
「勘です」
ルーシーさんは誇らしげに胸を張ってそう言った。
勘かよ……
そうして、俺とレイナの役割分担が決まった。
レイナが病院での治療をサポートし、俺がダンジョンでの調査をサポートする。
病院で治療を進める日は、俺の仕事はなく自由にしてて良いそうだ。
逆に俺がダンジョンで調査をする日は、レイナが休みになる。
明日はもう一度病院に行くらしいから、俺は普通にダンジョン攻略を進めるとしよう。
感染者の数は多いし、病院に治療しに行く日の方が多くなるだろう。
***
SIDE:ルアン
SCENE:ボス部屋で英人に接触した直後
「ククク……彼でしたか」
ようやく見つけましたよ。
長かったですねぇ、笑みが止まりませんよ。
まさかまだ低級の探索者だったとは、少々驚きですねぇ。
どうりで……高ランクの探索者が軒並みハズレだったわけです。
コアは10年前には既にこちらに来ていたはずなのですが……
いえ、私が考えることではありませんね。
報告に戻るとしましょうか。
久しぶりですねぇ。
約10年ぶりでしょうか……この城を見るのは……
私の目の前には、昔と変わらぬ姿の古城が
もしかしたら皆さんには忘れられているでしょうか?
だとしたら悲しいですねえ。
早速ネメア様の所へ向かいましょうか……
古城の門を抜けて、最上階のネメア様の居室に来ました。
「お久しぶりでございますネメア様。ルアンでございます」
「あら? どこかで聞いた名前ね……とりあえず入ってきなさい」
やはり忘れていらっしゃる……まあ、私は特殊ですから仕方がありませんね。
「失礼します」
私は扉を開けて中に入りました。
そこには我が主人が、一切変わらぬ美貌でそこに居らっしゃいました。
「ネメア様、ルアンでございます。ただいま戻りました」
「ルアン? ……ああ、もしかして……コアを探しに行ったルアンかしら?」
流石に私も時間がかかった自覚はありますが……一人で探していたんですから仕方がありませんよね?
「それで? コアは見つかったの?」
「はい、天霧英人という少年が所持しているのを確認しました」
「フフフ……そう、見つかったの……フフフ、よくやったわ。で? ちゃんと奪ってきたんでしょう? 早くよこしなさい!」
「いえ……まだコアはその少年が持っていますよ」
「はあ? じゃあなんでノコノコ戻ってきたわけ? 早く奪ってきなさいよ!」
まったく……私にあの少年を殺すことはできないでしょう。
コアを持っているということは、普通の生物が勝てる相手ではありませんし。
私のような策を弄するタイプでは尚更不可能に近いでしょう。
「私にはあの少年を殺す力はありませんよ。まだ成長途中のようですが、それでも狼どもは簡単に倒してしまいますからねぇ」
「そうだったわね……あなたとびっきりの雑魚だったわね。なら適当に何人か連れて、コア奪ってきちゃいなさい」
またあそこに戻らないといけないんですか?
戻ってきたばかりだというのに……
仕方がありませんねぇ、私は下っ端ですから。
すると突然、ネメア様と私しか居ないはずの部屋に、聞き覚えのある声が響きました。
「なにやら面白そうなお話をしていますかな! 私もついて行っていいですかな?」
このテンションの高さと妙な語尾……懐かしいですねえ。
「ザザ様のところのジャドさんですか……私のお手伝いをしてくださるんですか?」
「ええ、ええ、もちろんですかな! 私でよければお手伝いしますかな!」
ジャドさんが来て下さるなら、私も楽になりますねぇ。
「ちょっと! コアはアタシんとこのルアンが見つけたんだから! しゃしゃり出てくんじゃないわよ!」
「ええ、ええ、ザザ様は手柄など欲していませんかな! ですから、ネメア様の手柄として報告していただければいいんですかな! 私はただ苦しむ人間が見たいだけですかな」
はぁ、まったく……ここにいる方々は自分の欲求に忠実ですねえ……
下っ端の私は大変なんですから……
「まっ、アタシの手柄ってことでいいなら、ジャドも遊んできていいわよ」
「ええ、ええ、ありがとうございますかな! 存分に楽しんできますかな!」
「それでは、コアを奪い次第戻ってまいります」
「よろしくね〜 さっさと戻ってくるのよ〜」
さあ、さっさとコアを奪って戻りましょうかねぇ。
ジャドさんが仕事してくれるかはわかりませんが、ジャドさんがいれば心強いですし。
何より私とジャドさんは同じ趣味を持っていますからねぇ
ククク、楽しくなってまいりましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます