第38話 謎の病
翌日、俺はB級に無事上がることができた。
C級昇格試験の時みたいなことは起こらず、普通の試験官だった。
試験自体は普通だったけど、妙に観客が騒がしかった気がする。
試験後もインタビューが凄かったし、試験よりもそっちの方が疲れた。
そして今は、天道支部長のいる支部長室にやって来ている。
昇格した後、受付で呼び出しがあったからだ。
「B級昇格おめでとう。探索者登録してからB級に上がるまでの期間は、歴代で2番目に早い記録みたいだよ?」
天道支部長が俺の昇格を祝ってくれた。
どうやら俺は歴代で2番目に早くB級になったらしい。
まあ俺の場合、登録がそもそも遅かっただけだと思うけど。
普通は12歳ごろで登録して、体が成長し切らない内は本格的な探索は行わない。
だから登録からB級昇格までの期間は、俺の場合はかなり早かっただけだろう。
ちなみに歴代最速は父さんらしい。
今日は2月11日だから、俺がステータスを得てから1ヶ月と2週間くらい。
これより短い期間で、父さんはA級に上がったらしい。
しかも12歳で……なかなかに常軌を逸している。
「ありがとうございます。それで、今回は何かあったんですか?」
俺がここに呼び出されたってことは、ただ昇格を祝うだけじゃないはずだ。
「今日はいくつか英人君に伝えておくことがあってね。今から話すことは、まだ報道されてない情報だから内密に頼むよ」
「わかりました」
そして俺は只事じゃない天道さんの様子に、少し背筋を伸ばした。
「まず一つ目が生きた魔物の件だが、昨日から奴らの動きが活発になったらしい。今までは階層を
生きた魔物はライカンスロープなどのオオカミ型の魔物が中心に確認されている。
現在東京近辺では、「ブレイバーズ」のおかげで討伐がほとんど完了しているが、地方はまだまだ討伐されていないダンジョンが山ほど残っている。
「現在御崎君たちが、各地の探索者たちと協力して討伐を行なっている」
「奴らが活発に……」
俺が最後にライカンに遭遇したのは3日前、その時はルアンという男も同時に現れた。
ルアンと生きた魔物は関係があるんだろうか?
全国の生きた魔物が活発になったのも昨日あたり、そしてルアンが俺と会ったのが3日前。
これは偶然か?
タイミングが良すぎる気がする。
でもなぜ活発になったんだろう? 目的がイマイチわからない。
今は御崎さんを中心に、全国で討伐を急いでいるらしい。
「ブレイバーズ」が本気を出せば、すぐに討伐は完了する気がする。
所属する探索者はみんなトップレベルの探索者ばかりだし、数も多い。
それに各地のA級やS級の探索者が協力すれば、時間の問題だな。
「御崎君たちに任せておけば、そちらは問題ないだろう」
天道さんも同じ意見らしい。
「そしてもう一つ、今朝方に入ってきた情報だが、東京で謎の病が確認され始めているようだ」
「謎の病?」
「ああ、発症したものは全員探索者で、そして全員の症状が異なる奇妙なウイルスらしい。全身が痺れる者、重度の発熱。罹ったものは全員が病院に搬送されている。医療従事者の見解では、新型のウイルスではないかという話だ」
探索者を中心に確認されているウイルスか……ダンジョンで何かが起こってるのか、それともたまたま感染した人が探索者だっただけか。
「天道さんが俺に言ってきたということは、そのウイルスはダンジョンで発生していると考えているんですか?」
「今の所、感染源は不明だ。だが私は、ダンジョンで何かが起こっているんじゃないかと思ってね。色々なことが重なりすぎていると思うんだ。英人君も注意しておいた方がいいだろう」
確かに、現状ではそう考えるのが自然なのかな?
まあ、これに関してはもう少し様子を見た方がいいかもしれないな。
ルアンと生きた魔物だけでなく、ウイルスにも注意しておくか……
そしてその後少し世間話をした後、俺は池袋支部を後にした。
池袋支部を出て、俺は池袋にあるB級ダンジョンに来ていた。
現在は昼を少しすぎた時間。
今日は低階層でB級の魔石を集めて、眷属召喚をする予定だ。
ここのダンジョンは獣型の魔物が中心に出現し、階層全域が森林のフィールドになっている。
B級からは、敵の強さがこれまでよりも格段に強くなる。
ステータスも高いし、種族特有の特殊なスキルを持っている魔物が多い。
それなりに完成されたパーティーでないと、攻略が難しくなる。
C級とB級の間には、大きな壁があるとまで言われている。
広場で食料とポーション類を補充して、ダンジョンに入場した。
入ってすぐに、広大な森林地帯が目の前に広がっている。
地上では考えられないほどの大きな大木が見渡す限りの場所に生えている。
もちろん道が整備されていることはなく、足場の悪い場所が多い。
移動はディーンに乗って行った方がいいか?
他にも木々の枝を足場にして、ジャンプしながら移動していく方法もある。
最近ディーンは龍装でいることが多いし、たまにはディーンに乗るのもありだろう。
俺は龍装を解除して、ディーンを召喚する。
「ヒヒ〜ン!」
ちなみに龍装を解除している状態だと、パーティーメンバーにカウントされてしまう。
「このダンジョンでの移動はディーンに任せるよ」
「ヒッヒーン!」
尻尾が激しく左右に振られている。
龍のような重厚な尻尾のため、当たったら痛そうだ。
俺はディーンに跨り、森の中を進み始めた。
そしてしばらく森の中をディーンで進んでいると、最初の魔物に遭遇した。
「ワオーーーン!」
腹の底に響くような太い遠吠え。
そして灰色の毛並みに鋭利な牙が2本、B級のダイアウルフだろう。
いきなり大物が出たな……
こいつが現れたということは、周りには必ず複数のホワイトウルフがいるはず。
俺は気配察知を発動し、周囲を探る。
5体のホワイトウルフが、木々で体を隠しながら俺の周りを囲んでいる。
俺はすぐに、木々の上にリュートとサクヤを召喚する。
「部隊編成」の効果で、50メートルの範囲内で好きな場所に召喚できる。
今回のように周囲を囲まれている状況でも、適切な配置が可能になる。
「二人とも! 俺がダイアウルフの相手をする。ホワイトウルフは任せたぞ!」
「承知!」
「任せるのです!」
サクヤは姿をくらまし、木々の上を飛び回りながらリュートの援護を開始する。
俺はディーンを「龍装」に戻し、ダイアウルフと相対する。
ダイアウルフの大きさは、地面から頭までで2メートルを超える。
大型の敵ほど、大剣という剣の強みが出る。
俺は「魔纏」を発動し、大剣を正眼に構える。
先手はダイアウルフ。
体に風の魔力を纏い、空中を蹴りながら猛スピードで俺に突進してくる。
そして凶悪な前足の爪を振る。
――ガキン!
鋭利な爪の攻撃を大剣で迎え撃つと、ダイアウルフは元いた位置に瞬時に後退した。
ダイアウルフは風の魔力を纏って、空中を駆けることができる。
敏捷の高さを生かして、ヒットアンドアウェイを繰り返してくる魔物だ。
だが、正確なやつの数値はわからないけど、敏捷値では圧倒的に俺が上回っているはずだ。
高くて8000程度のはずで、スピード勝負で俺が負ける道理はない。
元の位置に退避したダイアウルフを、今度は俺が追いかける。
俺がダイアウルフの元へ駆けると、ダイアウルフは風魔法を放つ。
――シュッ!
おそらく風魔法Lv6の「ウィンドショット」だろう。
不可視の風の弾丸が高速で俺に迫る。
俺は「魔力感知」で弾丸の軌道を先読みし、「空歩」を使ってジグザグに避けながらダイアウルフに接近する。
「飛燕斬!」
魔力の刃は高速で迫り、ダイアウルフの右前足を切断した。
体制を崩したダイアウルフの首を狙って大剣を振り抜く。
「一閃!」
大剣は見事首に命中した。
その一撃でダイアウルフのHPはゼロになり、大きな体は霧のように霧散した。
俺が落ちている拳大のB級魔石を回収すると、ホワイトウルフとの戦闘を終えたリュートたちが戻ってきた。
「お見事です!」
「主人様! サクヤも頑張ったのです! 今日のご飯はなんなのです ! ?」
本当にサクヤは口を開けば飯の話だ……
今回は多めに食料を確保している。
なくならないだろう……多分……
その後も森を探索し続けた俺たちは、無事に10個のB級魔石を確保した。
ダイアウルフの他にも、キングボアやヘルハウンドが現れたが、難なく討伐することができた。
そして少し広めのスペースを見つけて、結界石を起動して召喚の準備をする。
B級眷属か、今回はどんな眷属かな?
俺は少しワクワクしながら、眷属召喚の画面を開いた。
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