第37話 金欠の危機

 俺は三つ目のC級ダンジョンにやってきた。

 

 今日攻略するC級ダンジョンは、ゴブリンとオーク、そして深層ではオーガが出現するダンジョン。

 このダンジョンは通称「脳筋ダンジョン」と呼ばれている。


 ゴブリンとオークはC級のジェネラルが出現し、オーガ種も一番下のランクのオーガしか出現しない。

 一番下と言っても、そもそもただのオーガでC級だから、種族として強い部類なのは間違いない。


 しかしジェネラルだとほとんど連携をしてこないし、攻撃も武術系による攻撃のみ。

 比較的簡単に攻略できることから、三つのCダンジョンを攻略する際は、ここのダンジョンを攻略する探索者が多い。


 ゴブリンもキングとかエンペラーまで行くとかなり厄介らしいんだけど、ジェネラルまでは比較的弱い魔物と言われることが多い。


 まあ俺としては、ランクアップが早くなるから大歓迎だけど。


 ダンジョンに入る前に、サクヤ用のご飯を適当に屋台で買った。

 ついでにリトスやディーンたちの分も適当に買い、ダンジョンに入場した。




 そしてダンジョンに入った俺は、人がまばらになる9層あたりまで一気に駆け抜けた。


 道中の魔物はひたすらスルーして、階層の移動だけを考えて走った。


 今の俺の敏捷値はこれだ。


 ______

 敏捷:26200

 ______


 ディーンのレベルが59で、リトスのレベルが73になっている。

 D級とE級の眷属だから、C級の魔物相手だと経験値が高くなっているようだ。

 俺よりもレベルアップのスピードが圧倒的に速い。

 

 ディーンが敏捷値13800の上昇。

 リトスの上昇値が全ステータス123%上昇で、全ステータスが6150上昇している。


 敏捷値だけ異常なステータスになっているな。

 多分これは、敏捷特化の「暗殺者」の数値を大きく超えている。

 

 他のステータスは1万を少し超えるくらいだから、常識の範囲内ではある。

 

 特殊効果のついた武具を装備すれば、これくらいの敏捷値になる人もいるとは思う。

 だけどそう言った貴重な装備は、詳細な効果が公開されないからなんとも言えない。

 少なくとも、装備で敏捷値を盛っていない探索者であれば、速度で負けることはないはず。


 この敏捷値で駆け抜ければ、20層あるC級ダンジョンでも1日で攻略できるというわけだ。


 まあその代わり戦闘がほとんど発生しないから、魔石の収穫は減るだろうけど。

 それでも今の状況なら、B級で稼いだ方が効率がいい。


 そろそろ人もいなくなってきたし、リュートたちを召喚するか。


 俺はリュートとサクヤを召喚する。


「おはようございます。王よ」 


「あるじさま〜、サクヤはご飯が食べたいのです〜」


 サクヤが開口一番でご飯のおねだりをすると、リュートはその態度が気に入らなかったようだ。

 

「おい! 我慢できないのか? まずは王の役に立つのが先だろう!」


「リュートは堅苦しいのです〜、もっと柔軟に行くのです! じゃないと疲れるのです〜」


 まあ俺は別に気にしないんだけど……そもそも王様になった覚えはないわけだし。


「確かにリュートは堅すぎる気もするな、飯くらいいつでも食っていい。ほれ、リュートも食べろ」


 俺は広場で買ったおにぎりを二人に渡した。


「しかし……あ、ありがとうございます」

 

「この白いのはなんなのです?」

 

 おにぎりを見るのは初めてなのか……

 

「これは米って言ってな、俺が住んでる国の主食だ。いいから食ってみろ、美味いぞ?」


 リュートは恐る恐るおにぎりを齧り、サクヤは小さな口を大きく開けてかぶりつく。


「モグモグ――これは ! ?」


「ムシャムシャ――美味しいのです! サクヤはこれが気に入ったのです! もっと欲しいのです!」


 二人とも気に入ったみたいでよかった。

 適当に買ったから、なんの具が入ってるかは覚えてないけど……


「おかわりは魔物を狩った後だ。ほれ、オークが来たぞ?」


 オークジェネラルが1体、オークが4体の集団がこちらに迫ってきている。

 

 俺はサクヤに思考共有で指示を出す。

 さて、サクヤの弓で何体のオークを倒せるかな?


 サクヤはまだレベル1で、スキルレベルは高いがステータスがそこまで高くない。

 だけど「龍弓術」なら普通に倒せそうな気がする。

 今回は普通に弓術で倒してもらうか。


「サクヤ、龍弓術は使うな」


「りょーかいなのです!」


 サクヤは「オリハルコンの弓」に「ミスリルの矢」を5本番つがえ、スキルを発動する。


「致命の一撃なのです!」


 放たれた5本の矢は、紫の光を放ちながら高速でオークめがけて飛翔する。

 

 5本の矢は一本ずつ、それぞれオークの脳天に命中し、そして貫通した。


 オークは5体全員が一撃で魔石に変わった。

 

 貫通した矢はさらに木々を貫通し、そのままどこかへ消えてしまった。


 おい……矢は回収出来るのに……これじゃあ回収できないじゃないか!


 5本で25000円が、数秒で飛んでいってしまった……

 

「主人様! オーク倒したのです! おにぎり5個欲しいのです!」

 

 まあいい、お金は今後もっと稼げるようになるさ。

 

 俺はサクヤにおにぎりを5個渡して、先を進んだ。

 ちなみにおにぎりはもう無い。


 ______

 ・弓術Lv7:「致命の一撃」・クリティカルショット 

 :矢に魔力を込めて放つ。

 威力、貫通力、射出速度が大幅に上昇する。

 急所に命中した場合、さらに3倍のダメージを与える。

 ______




 その後、昼の休憩を挟んでからサクヤのレベルを上げつつ進み、ボス部屋の前に到着した。

 時刻は17時、丁度いい時間になるように調整しながら、駆け抜けたり戦闘したりでここまできた。


 サクヤは戦闘が終わるたびにご飯をねだってくるので、もう2時間前から食糧がない。


「主人様〜、次のご飯はいつなのです〜? もう力が出ないのです〜」

 

 そしてサクヤはご覧の通りだ。


「うるさいぞサクヤ! あれだけ食べてまだ食うつもりか!」


 リュートもご覧の通り。

 これからは食費がアホみたいにかかりそうだ。

 

 真面目にどうしようか?

 

 リトスやディーンにあげる用に買ったものも、全てサクヤが食べてしまった。

 毎日ダンジョンを攻略してボスドロップを売らないと赤字になるな……

 まあ、とりあえず後で考えよう……


「あとはボスだけだから頑張ってくれ」

 

「は〜いなのです〜」


 そしてボス部屋に入ると、ゴブリンジェネラルとオークジェネラル、そしてオーガが、それぞれ2体ずつ並んでいる。


「リュートはゴブリンジェネラルを頼む。サクヤは死角からの援護を頼む!」


「はっ!」 

「はいなのです!」


 俺とリュートはそれぞれ武器を構えてボス集団に向けて疾駆する。

 そしてサクヤは「ミラージュ」と遮断スキルを使って姿を隠す。


 一番ステータスの高いオーガ2体と、オークジェネラル2体を俺が相手にする。

 

 オーガはMP以外のステータスが、4500程もある。

 リトスのバフがなければ、俺とはいい勝負だったかもしれない。

 

 俺が一体のオーガに向けて大剣を振ると、オーガは拳で迎え撃つ。


 しかしオーガの拳は、俺の大剣に耐えられずに切り裂かれる。


 大剣がオーガの右腕を奪った瞬間、オーガの心臓付近から矢が生える。


 矢はオーガの背中から刺さっており、矢の先端が胸から飛び出している。

 それがトドメとなり、オーガは霧散する。


 そして俺の背後から、オークジェネラルが迫っていた。


 オークジェネラルは既に俺の真後ろにいて、斧を振り上げている。

 今までなら俺は避けるので精一杯だが、今はサクヤがいる。


「ブモー!」


 ――シュッ


 俺の耳元を、矢が掠める。


 そして矢はオークジェネラルの脚に刺さり、体勢を崩す。


 俺はその隙を逃さず、倒れ込んでくるオークジェネラルの首に一撃を入れる。


「一閃!」


 オークの首は地面に触れる前に紫色の霧に変わり、魔石がドロップする。

 

 そして残りのオーガとオークジェネラルも、サクヤの援護のおかげで素早く討伐することができた。


 魔物はサクヤの位置がわからず、目の前の俺だけを見ていた。

 おかげでサクヤは戦場を自由に移動し、ベストなタイミングで援護射撃ができた。


 どうやらサクヤは、俺とリュートを同時に援護していたらしい。

 矢の命中精度も高いし、どこから飛んでくるかわからない矢の一撃は、生きた魔物にも十分通用するだろう。

 むしろ理性がある方が、敵は動揺して戦いやすくなるかもしれない。


「二人ともお疲れ、サクヤはなかなかいい援護だったぞ」


「サクヤは頑張ったのです! ご飯が欲しいのです!」


 帰りに適当に買って帰るか。


 俺はボスドロップを回収し、地上に帰還した。


 ボス報酬は「筋力増強の腕輪」と銀鉱石が入っていた。


 腕輪は筋力値が上昇するアイテムだけど、俺には必要ない。

 ステータスを上げたければジュエルドラゴンで十分だし。


 銀鉱石も売ればいい値段になるから売却だな。


 地上に帰還した俺は、屋台でサクヤの食糧を買って家に帰った。


 これで三つのC級を攻略したから、あとは昇格試験を受けるだけだ。

 

 S級まではもう少し掛かるだろうけど、必ず上がって見せる。


 EXダンジョン……そこに父さんがいるかもしれない。


 待ってて……父さん。

 

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