第32話 コアと奇術師

 襲撃事件から1週間が経った。


 この1週間、ダンジョンにはロクに潜ることができず、警察の事情聴取が続いた。


 結果的にアーサーさんが撮影していた映像のおかげで俺の正当防衛が認められたのと、小森の罪が決定的となった。


 小森が飼っていた「暗部」と言う組織は凶悪な犯罪者の多くが在籍しており、今回の一件で所在が判明して、一斉に検挙されたそうだ。


 俺を襲った殺人鬼たちは回復魔法で治療された後、九州にある特別収容所に移送されたらしい。


 なんでもその収容所は、高ステータスの犯罪者を収容するために、オリハルコンやアダマンタイトというダンジョン産の鉱石をふんだんに使った特別仕様の施設だという。

 これでもう彼らに会うことはないだろう。

 

 


 そして俺はダンジョン探索を昨日開始して、第10層で野営をして一泊した。


 第10層の壁際で結界石を張り、安全地帯を作った。

 寝袋や食料はインベントリに入れて持ち歩いているため、見た目はいつもと変わらない。


 そして今丁度、日課の鍛錬が終わる。


 ふう、試しに野営してみたけど……二つ目のC級を攻略するときは、走り抜けるとしよう。

 汗で体が気持ち悪いし、結界を張っているとは言え、ダンジョンの中で寝るのは落ち着かないな……


 まだC級程度なら、ディーンとリトスを龍装して上がった敏捷値であれば、C級を1日で攻略することは可能だ。

 だけど今回は、野営というものを経験しておこうと思ったわけだ。


 B級ダンジョンは30層あるし、A級まで行くと40層もある。

 流石に野営が必要になるだろう。

 

 俺は野営道具を片付け、一つ目のC級ダンジョン踏破を目指して攻略を再開した。


 


 

 そして6時間ほどかけて、最下層のボス部屋前までやってきた。

 

 やっとここまできたか……

 俺のレベルは47まで上がり、リュートは33に上昇した。

 ______

 名前 天霧 英人

 Lv 47(+5)

 HP:5700/5700(+500)

 MP :5300/5300(+500)

 龍気:92000(+84000)


 筋力 :5700(+500)

 耐久 :5700(+500)

 器用 :5200(+500)

 敏捷 :5300(+500)

 知力 :5700(+500)

 ______


 ______

 名前:リュート

 種族:龍人族

 Lv 33(+17)

 HP:3300/3300(+1700)

 MP :3275/3275(+1275)

 龍気:3300/3300(+1700)


 筋力:2475(+1275)

 耐久:2475(+1275)

 器用:3275(+1275)

 敏捷:4275(+1275)

 知力:2475(+1275)

 ______


 ディーンとリトスは俺のレベルを超え、ディーンが49に、リトスが59まで上昇している。


  ______

 名前:リトス

 種族:レインボージュエルドラゴン

 Lv59

 HP:209

 MP:209

 筋力:209

 耐久:209

 器用:209

 敏捷:209

 知力:209


 龍装時:全ステータス109%上昇

 ______

 

 ______

 名前:ディーン

 種族:天龍馬

 Lv49

 HP:5800

 MP:1160

 筋力:5800

 耐久:5800

 器用:1160

 敏捷:11600

 知力:1160


 龍装時:敏捷値+11600

 ______


 リトスはほぼ2倍の上昇値になり、ディーンの上昇値も凄まじい。


 俺の龍気は殺人鬼との戦いでほとんど無くなりかけたが、この1週間のダンジョンに潜れない間にMPを変換しておいた。


 よし、さっさとボスを討伐して家に帰ろう。

 風呂に入りたい……


 俺とリュートは扉を開けてボス部屋に入る。


 ここのボスは確か、クイーンビーとクイーンアント。


 C級の女王蟻と女王蜂に加えて、兵隊蟻や蜂がわんさか出てくる場所だ。

 攻略には火魔法のレベルが8以上を推奨されている。


 ボス部屋の中を見ると、クイーンビーやクイーンアントの姿はない。

 

 ん?……あれは……っ ! ?


 ボス部屋の中央に、2体の獣の姿があった。


 俺には見覚えがありすぎる……ライカンスロープの姿。


 2体のライカンに気づいた俺は、リュートに指示を出す。


「リュート! 俺の影に――」


「うおおお!!」


 俺が指示を出す前に、リュートは雄叫びを上げながらライカンに突っ込んでいった。

 

「おい! どうしたリュート!」


二刀龍にとうりゅう! 蒼月乱刃そうげつらんじん!」


 リュートは「龍短剣術」の剣技を発動し、無数の龍気の刃がライカンを襲う。

 

「「ガアア!」」


 一体どうしたっていうんだ ! ?


 俺はすぐにリュートの跡を追い、片方のライカンに攻撃を仕掛ける。


「魔纏!」


 俺とリュートはそれぞれ一体ずつライカンと交戦する。


 リュートのステータスだとライカンは少し厳しいだろう。

 早く一体を仕留めて、リュートを援護する必要がある。


 俺は大剣を地面と並行に構えながら、ライカンに向かって走る。


 そして片手をライカンに向け火魔法を放つ。


「フレイムショット!」


 フレイムショットは飛翔速度の速い攻撃で、圧縮された火の玉を高速で打ち出す魔法だ。


 ――ドーン!


「ガアア!」

 

 フレイムショットはライカンの顔面に命中した。


 大したダメージではないが、動きは封じた。


「一閃!」


 炎で火傷したのか、顔面を掻きむしっているライカンの首に剣術を叩き込む。


 ――ザシュ


 首を落とされたライカンは後ろ向きに倒れ、絶命する。


「リュート!」


 リュートの方を見ると、ライカンの爪を二刀の短剣でうまく捌いている。


 俺は瞬時にライカンの背後にまわり、胴体に大剣を叩き込む。


 ――ドサ


 無事2体のライカンを討伐した俺は、リュートに聞く。


「どうした? いきなり突っ込んでいって……お前らしくないぞ」


 いつも俺の言うことを守ってきたために、今回の行動はちょっと驚きを隠せない。


「はぁ、はぁ……も、申し訳ありません」


 少しHPが削れている。

 さばいているように見えて、案外攻撃は当たっていたんだろう。

 送喚して休ませるか……


 カード化してインベントリにいる間は、徐々にHPとMPが回復していく。

 召喚している時にも回復はするが、回復速度はそれ以上になる。


 何があったのかわからないが、帰ってから聞くとしよう。


「リュート、少し休んでおけ。送喚」


 さて、それにしても……ボス部屋にこいつらがいるのはどう言うことだ?


 なぜ通常のボスが出てこない?


 ボス部屋には先ほどまではなかった討伐報酬の宝箱が出現した。


 ライカンがボスだったってことか?

 後で天道さんに報告しないと。

 

 そして俺が宝箱に触れようと手を伸ばした時。


 突然耳元で、男の声が聞こえた。

 

「これはこれは……あなたでしたか……そのコア、どこで手に入れたんです? お持ちの剣に嵌っているそれですよ」


「っ ! ?」


 俺は突然現れた声に驚き、瞬時にその場から距離を取った。


 離れた位置から声の主を確認する。

 

 男はマジシャンのようなスーツの格好に、シルクハットをかぶっている。

 何がそんなに嬉しいのか、ニコニコと笑顔を浮かべている。

 

「お、お前……一体どうやってここに入った!?」


 ここはボス部屋、探索者が入ると扉が閉まり、ボスが現れる。

 そしてボスを討伐して魔法陣でボス部屋を出ない限り、扉は閉ざされ次の探索者は入ってくることはできない。


 こいつはどうやってここにきた ! ?

 

「ククク、その表情はいいですねぇ。最初からいましたよ? あなたが来る前から……ククク。次はあなたが私の質問に答える番ですよ? コアはどこで手に入れましたか?」

 

「……」


 コアだと? 俺の大剣に嵌っている丸いこれのことか? なんでこいつがこれのことを ! ?


「まあいいでしょう、やっと探し物は見つかりましたし、これでようやく私も羽を伸ばせそうです」


 さっきから何を言っている? 

 こいつ……俺のこのスキルについて何か知っているのか?


 なら逃す訳にはいかないな……


「龍纏!」


 俺は龍纒を発動して男に接近し、そのまま逃げられないように足を狙って大剣を振り抜く。

 

 しかし大剣に手応えはなく、男の体をすり抜ける。

 

「なっ ! ?」


「やれやれ……せっかちな方ですねぇ。大丈夫ですよ、またすぐに会えますから」


 幻影? なんのスキルだ ! ?

 またユニーク持ちか!


「お前……何者だ?」


 俺は冷静さを装い男に聞く。


「ふむ……今は気分がいいですからねぇ。特別に名乗っておきましょうか」


 男は深くかぶっていたシルクハットを取り、礼をしながら名乗る。


「私はルアンと申します。大昔は奇術師と呼ばれていました。お好きなように呼んでいただいて構いませんよ?」


 奇術師? ルアン? どっちも聞いたことはない。


 それにあいつの赤い眼……充血していると言うレベルではない。

 本当に何者なんだ……


「さて、私は一度戻らなければなりませんから、今日のところは退散させてもらいましょう。それでは……また会いましょう。天霧英人さん」


「待て!」


 俺が男に触れる直前、男は霞のように消えてしまった。


「くそ! 龍感覚!」


 龍感覚で周囲を探るも、すでに奴の気配は微塵も感じられなかった。


 逃したか……あいつは、なんだ?


 ルアンと名乗ったあの男……霧のように消えるスキルといい、俺の攻撃をすり抜けた。

 おそらくユニークスキルだろう。


 俺の剣にハマっている丸い宝石のような、龍の頭の模様が中に描かれているこれのことを、あいつはコアと呼んだ。


 そして俺のステータスの欄にも、コアスキルと書かれている。


 あいつは何者なんだ……

 どこかの国の諜報員か?


 これも天道さんに報告しておかないと……


 リュートが取り乱したのも気になるし、一旦地上に戻ろう。


 


 俺は討伐報酬を回収し、転移魔法陣のある部屋に向かう。


 そういえば、財前会長から聞いた話だと、この部屋の天井にあるんだったか?


 そして天井を見上げると、3メートルほどの高さがあり、ちょうど転移魔法陣の真上のあたりにそれはあった。


 「っ ! ?」

 

 あれが……ダンジョン・コア・レプリカ……


 拳大の大きさの丸い水晶のような物体が、天井にはまっていて僅かに光を放っている。


 俺は視線を天井から手元に移し、大剣を召喚する。


 似ている……


 天井にはまっている「ダンジョン・コア・レプリカ」と、俺の大剣の鍔の部分にはまっている丸い宝石のような球体が。


 ルアンと名乗った男はこれのことをコアと言った。

 

 探し物が見つかったとも言っていた。


 何か関係があるんだろうか?


 俺はしばらく天井と大剣を交互に見つめて考えたが、結論は出なかった。


 ここで考えていても仕方ない、ひとまず家に帰ろう。


 そうして俺は転移魔法陣に乗って地上へ帰還し、一つ目のC級ダンジョンを無事攻略した。


 



 ______

 あとがき

  

 これにて第二章「王の道編」は完結となります。

 ここまで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございます。

 そしてこれからも、「俺だけスキルがソシャゲな剣」をよろしくお願いします。 


 3章は「憎悪の奇術師編」を予定しております。

 3章公開は少し間が開くと思うので、その間はちょくちょく幕間やサイドストーリーを投稿します。

 今後の更新予定については長くなるので、近況ノートにまとめておきました。よければ覗いていってください。


 明日は「SS 第一話 天霧大吾」を公開予定です!

 お楽しみに〜

 

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