第31話 EXダンジョン

「そもそも、なぜそのダンジョンは秘匿されているのですか? S級の僕にも秘密だなんて……」


 御崎さんがなぜ秘匿されているのか訪ねた。


 確かに……今の所、世界的に秘匿する様なことではない気がする。


「良い質問じゃ。お主ら、ダンジョンの転移魔法陣のある部屋の天井に、丸い宝石がはまっているのは知っておるか?」


 丸い宝石? 

 地上への転移魔法陣は地面に描かれている。

 その天井を見上げたことはなかったな……そんなものがあるのか。


「その宝石は普通の鑑定スキルでは何も見えないんじゃがのう。不思議なことに、「鑑定の魔眼」というユニークスキルでなら見えたそうじゃ。今はもうその魔眼スキルの所有者は亡くなってしもうたがのう。その鑑定結果によるとその宝石は、「ダンジョン・コア・レプリカ」と表示されたらしいんじゃよ」


 ダンジョン・コア・レプリカ?

 ダンジョンの操作ができるコンソールみたいなものかな?


「ダンジョンはコアによって制御されているのではないか? というのが、各国上層部の見解じゃ。レプリカということは、どこかにオリジナルがあるのではないか? 各国の首脳陣は考えたんじゃよ」

 

 「「「っ ! ?」」」

 

 この場の全員が息を呑む。


「ダンジョンは資源の宝庫じゃ。魔石やマジックアイテムに不思議な鉱石の数々。宝箱の数や敵の強さ、それらを全て操作できるとしたら……? それがオリジナルのダンジョン・コアで可能だとしたら? オリジナルを手に入れた国はまさに、世界の覇者となるじゃろう」


「「「……」」」 


 確かに……そんなことが可能だとしたら、秘匿するのも頷ける。

 

 仮に国ではなく個人がそのコアを手に入れたら、もはや力の均衡が完全に崩れるな。

 コアを持つ個人に都合のいいような世界になってしまう。

 まあ、国だとしても変わらないかもしれないけど……


「本当にそのオリジナルが存在するかも今だにわからんがのう。今回話したことは国際協定で、一般にはダンジョンの存在を秘匿するよう決められておる。やはり人間は欲深いからのう、S級にも教えないのはそれが理由でもある。小森くんのように、独断で南極ダンジョンの調査を行う輩も出てきよる」


 小森が独断でダンジョンの調査を行ったのか?

 父さんはそれに参加したと言うことか?

 

「父さんは、小森支部長の独断調査に利用されたということですか?」


「うむ……10年前、小森支部長は独断で南極ダンジョンの調査を進めてのう。大方、その功績で協会の会長にでもなるつもりだったんじゃろう、じゃが調査隊は全滅した。調査隊に天霧大吾が参加していることが分かり、総理大臣とわしは非常に困らされたわい。小森くんの責任を追求しようにも、南極ダンジョンについては公にできない。泣く泣くお咎めなしになってしもうた。英人くん、改めて謝罪させてもらおう。本当にすまなかった」


 そう言って財前会長は深々と頭を下げる。


 国際協定で公にできない以上、父さんの死がぼかされているのも頷ける。


「いえ、頭を上げてください! 財前会長は何も悪くありませんから」


 父さんが小森の調査隊に参加した理由はなんとなくわかる。


 多分小森に、父さんの戦闘狂の部分を利用されたんだろう。


 誰も攻略できないと言われているEXダンジョンがある。

 そんなことを父さんが聞いたら、多分二つ返事で調査に参加する気がする。


 小森が父さんについて調べる者に積極的に圧力をかけていたのは、独断の調査で父さんを死なせた事実が公になるのを阻止するためかな?


 そのことが表に出れば、責任の追求は免れない。

 国際協定での取り決め上、EXダンジョンが公になると日本の国際的立場も悪くなる。

 そこの責任も追求されれば、支部長解任だけじゃすまなかっただろう。


 EXダンジョン……必ず行かなければ……

 父さんのことだけじゃなくて、もしかしたら俺のスキルの謎もわかるかもしれない。


「財前会長、EXダンジョンに行く許可をください」


 俺は財前会長に頭を下げる。


「ふむ……お主ならそう言うと思っとったが、許可はできぬのう」


 ダメか……どうしたらいいんだ。

 

 すると御崎さんが、俺に続いてEXダンジョンの入場許可をお願いした。

 

「財前会長、僕達が英人くんと一緒に行くなら、許可をいただけますか?」


「そんな面白そうなところ、探索者が行きたがらないわけないわよね!」

「うむ! 久しぶりに腕がなるな!」

「ん……私も行きたい」

「ぼ、僕は遠慮した――ひ!? い、行きます! 皆さんについていきますから!」


 亮さんだけ乗り気じゃなさそうだったが、あやさんにひと睨みされて意見を変えた。


「僕を忘れてもらっては困るよ? 僕はミスター英人の勇姿を、一番近くで見届ける義務があるからね」


 いや、そんな義務はないから……

 というかアーサーさんではついてこれないんじゃないだろうか?


「ふむ……じゃがのう……相当に危険な場所じゃとわしはおもうとるんじゃよ。内部を撮影しようと送り込んだ、蚊ほどのサイズのマイクロドローンでさえ、数秒持たずに何かに撃墜されるような場所じゃ」


 超小型の最新式のドローンも瞬時に打ち落とされると言う。


 本当に今だに何もわかっていないんだな……


 EXダンジョンの中には一体何がいるんだろう?

 S級探索者のパーティーを全滅させるような存在……

 

 もしかして……ライカンのような生きた魔物と関係が?

 ライカンじゃなくてもっと強力な、それこそ獣型ダンジョンのS級ボスである「ベヒモス」なんかが、意志を持って攻撃してくるとしたら……


「ユニークジョブとユニークスキルを持つ天霧大吾でさえ帰還できなかったのじゃ。少なくとも、天霧大吾以上の強さを見せてくれなければ、許可は出せまいよ」

 

 大剣の英雄以上の強さを見せろと言われた俺たちは、皆一様に推し黙る。


「じゃがわしは期待もしておる。大剣の英雄、その息子が成し遂げるのではとな」


 財前会長の言葉で、視線が一気に俺に集まる。


 父さんは俺の中で最強の探索者だ。

 超えるなんて……俺にできるんだろうか。


 そしてふと、昔の記憶を思い出した。


『じゃあおれが父さんよりつよくなる! そしたらたのしくなるよ!』


『ハハ! そいつは楽しみだな! 期待してるぜ?』


 俺のこの力なら可能だろうか?


 見上げているだけだったあの大きな背中を越えてみたい。


 そして父さんに、俺の成長した姿を見せたいな……


「俺が、父さんを超えて見せます」


 俺は決意を込めてそう言った。


「ホッホッホ。良いのう、お主の活躍を期待しておるぞ」


 まずはC級を攻略してB級に上がろう。

 そしてS級に上がったら、EXダンジョンに向かう。


 EXダンジョンで何がきても良いように、出来る事をやっておこう。

 

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