第22話 王への忠誠
会場は熱気に包まれている。
父さんはいつもこんな歓声を浴びていたんだろうか。
「「「うおおお!」」」
「とんでもねぇ新人が現れたもんだな」
「すげえぞ大剣の兄ちゃん! 次も楽しみにしてるぜぇ!」
「彼はどこのクランだ? ぜひうちに欲しいな」
あちらこちらから称賛の声が聞こえてくる。
ん? あのハゲたおじさん……この前もいたような……
俺は会場の歓声を背に、武舞台を後にした。
闘技場アリーナから出ようとロビーに向かっていると、カメラとマイクを構えた集団に囲まれる。
「
ダンジョンリーグ、通称Dリーグというのは、ダンジョンを舞台にした競技を主催している団体。
人類にステータスが発現したことで、それまで行われていた野球やサッカーなどのスポーツは、身体的な公平性が失われたことで廃れてしまっている。
野球の場合、打球は場外どころか隣の県まで飛んでいくし、ランナーはわずか数秒で一塁からホームに帰ってくる。
ダンジョン出現前までのスポーツでは楽しめなくなったところで、Dリーグが生まれた。
ダンジョンの攻略速度を競うダンジョンタイムアタック、魔法で飛び交う的を撃ち落とすマジックシューティングなど、いろいろ競技種目はある。
一番盛り上がるのは、やはり探索者同士の一対一の模擬戦だろう。
定期的に闘技大会が行われている。
昇格試験があれだけ盛り上がっていたのもそれが理由だ。
新人発掘の場なんだろう。
少し話が逸れたが、取材くらいなら受けてもいいだろう。
いずれDリーグには出場する必要がある。
「ええ、少しなら構いませんよ」
「ありがとうございます! 先ほどの試験お見事でした! 天霧さんは、あの[大剣の英雄]と呼ばれた天霧大吾さんの息子さんでしょうか?」
「はい、それは俺の父です」
「なんと! やはりそうでしたか。ズバリ! 今後の競技シーンへの出場はありますか?」
「はい、トーナメントには出場する予定です」
俺が出場する理由は主にクランを結成するため。
もう一つに、S級に上がるためにはダンジョン攻略以外で実績を残す必要がある。
今日本にいるS級探索者も、過去に大会で優勝している人がほとんどだ。
「なるほど、これからのご活躍に期待しております! またお話し伺ってもよろしいですか?」
「ええもちろんです。それでは、俺はこの辺で失礼します」
そう言って俺は、リポーターの取材を終わらせて池袋支部に向かった。
俺は池袋支部でC級に昇格した。
手続きを済ませると、天道支部長から呼び出しがかかっていた。
「天霧さん。支部長がお話があるそうなので、支部長室にお越しいただけますか?」
「わかりました」
特に断る理由はないので、そのまま支部長室に向かう。
「失礼します。天道さん、お久しぶりです」
「やあ英人くん。随分派手に昇格したね」
どうやら先ほどの試合を見ていたようだ。
「まあ、試験官の男が、どうやら刺客だった様です」
「そうか、どうやら私を通さずに試験官をすり替えていたらしい。だがこれで、大吾について知っている人物の中に、協会支部長の人間がいることがわかった」
天道さんに悟られずに昇格試験に介入できるとなると、自然に協会の上層部にいることは明白か……
「どこの支部の支部長かわかりますか?」
「それについてはわからなかったよ。支部長の中でもそれなりに権限があるとすれば、大きな都市の支部長になるだろう。S級ダンジョンのある新宿支部か、それとも大阪や九州か……」
「いずれにせよ、次は殺しに来るそうなので、そいつらから情報を聞き出せれば分かるはずです」
「何!? 前にも言っただろう。家族にあまり心配をかけるな。こちらから護衛を出そう、なんなら御崎君達に頼んでおこう」
「いえ、一人で大丈夫ですよ天道さん。勇者なんて近くにいたら、敵が俺を襲えないじゃないですか」
御崎さん達に迷惑をかけるのは申し訳なし。
「はぁ、全く。そういう勝手なところは大吾に似て欲しくないんだけどね……。まあ先程の模擬戦を見た限り、大丈夫そうではあるが、最後のあれが全力ではないいんだろう?」
「ええ、もう少し出力を上げられそうです」
さっきの「龍纏」は、毎秒500ほどの龍気消費だった。
上限の毎秒1万の出力で使えるようになるには、龍気を安定して供給できるものが必要になる。
今は無理だけど、いずれは使えるようになるといいな。
「まだ上があるのか、素晴らしいユニークスキルを手に入れたようだね」
「なので、今のところ心配は要りません。さっきの試験官はA級中位ほどでしたし、S級相当が来なければ大丈夫だと思います」
「ふむ、何かあればすぐに連絡しなさい」
「わかりました。その時は連絡します」
そうして俺は天道さんに挨拶して、池袋支部を後にした。
さて、まだ昼過ぎだし、午後はどうしようか?
C級の眷属を試したいところだけど、C級の魔石が10個必要になる。
______
インベントリ
魔石
・F級:157個(+34)
・E級;1558個(+178)
・D級:366個(+288)
______
魔石合成を使えば、D級100個でC級魔石が10個になる。
だけどC級10個くらいであれば、C級ダンジョンの下層を少し回れば集められる。
どうせ召喚する時はダンジョン内で試すことになる。
ディーンですら家の庭ではギリギリの大きさだったし、C級で巨大なドラゴンが出て来る可能性もある。
C級の下層で魔石を集めて、人のいない場所を見つけて召喚するのが良さそうだな。
俺は池袋周辺に一つだけあるC級ダンジョンにやってきた。
昆虫系の魔物が出現するダンジョンだ。
蟲系の魔物が出てくるこのダンジョンは人気がない。
特に女性は絶対に入りたがらない。
各言う俺も虫は好きじゃない、単純に気持ち悪い。
その虫が巨大になってダンジョンに現れる。
まさに地獄だろう、幸いなことに切ったり潰したりしても中身が出て来ることはないからそこは安心だ。
早速ダンジョンに入場し、一階層を探索する。
C級のヴェノムスパイダー、マーダーセンチピードに遭遇したが、火魔法メインで弱点を突いてなんなく討伐できた。
そうして2時間ほど森を彷徨って虫を焼いて回っていった。
召喚に十分な魔石を確保した俺は、途中で見つけておいた開けた場所で「眷属召喚」を試すことにした。
一応C級ダンジョンは中級者向けと呼ばれているだけあって、無防備になるのはよろしくない。
D級で手に入れていた「結界石」を発動して、5メートル四方の安全地帯を作る。
さてと、C級の眷属は何かな?
少しワクワクとしながら、C級魔石10個を消費して眷属召喚を行う。
演出が終わって、一枚のカードがステータス画面に現れる。
種族の欄には「ドラゴニュート」と書かれている。
そうきたか、今回は家の庭でやっても良かったかもしれないな。
早速ドラゴニュートを召喚してみる
「召喚!」
すると俺の身長よりも少し高いくらいの魔法陣が現れ、その中心から深い緑色の鱗に覆われた大男が現れる。
頭部は龍の頭に近いが、肉体はどちらかというと人間に近いかな?
額からは2本の鋭い角が伸びていて、羽は生えておらず、トカゲのような尻尾が生えている。
「……」
ん?
ディーンは雄叫びをあげて登場したが、ドラゴニュートは力強い眼差しで俺の目を見ている。
そしてしばらく見つめあった後、ドラゴニュートは静かに跪いて頭を垂れた。
左手で胸を押さえ、右手は拳を握って地面に突き立てている。
そしてゆっくりと頭を上げる。
何してるんだろう?
「召喚いただき、ありがたき幸せでございます。王よ」
「え?……」
しゃ、喋った!?
あまりの衝撃に、数秒思考停止してしまった。
というか王? 王様のことだよな?
意味がわからない……
「王よ、どうされたのですか?」
「あ、ああ。お前喋れるんだな……ところで、その王って言うのは何? お前の王になった記憶はないぞ?」
「魂が叫んでいるのです。あなた様の元にまた戻ってきた喜びを、忠誠を捧げる喜びを」
いや、答えになってる? なってないよな?
魂? また戻ってきた? 一体何の話だ?
意味が分からなすぎて、何を聞いたらいいのかもわからなくなってきた。
俺の混乱が伝わったのか、ドラゴニュートが続ける。
「私は先程の召喚によって生まれました。そして魂が教えてくれたのです。私はひとつ前の生で、そのまた一つ前の生でも、輪廻の続く限りの生命で、貴方様に仕えていたことを」
「……」
うん、何度聞いてもわからん。
この力は一体なんだ? 何が起こっている?……
「私も生前の記憶があるわけではありません。ですが、王に仕える忠誠は忘れておりません。今生ではあなた様に、私の忠誠を捧げることを誓います」
キリッとした表情で忠誠を誓ってきた。
「お、おう……」
その後いくつか質問してみても、俺には理解できないという事しかわからなかった。
とにかく、魂が俺のことを王だと言っているんだとか……
深く考えたら負けか? とりあえずは信用できる部下ができた程度に考えておこうかな……
ひとまず名前をつけてあげるか。
「とりあえず名前をつけようかと思うんだが」
「な、なんと!? 私に名前を……ありがたき幸せ!」
ドラゴニュートは涙を流しながら、もう一度深く頭を下げる。
こいつについてはよくわからないけど、そのうちわかるのかな?
名前はどうしようかな?……
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