一秒で一億稼いだ男
ベヒーモスの換金を終えた俺は、とんでもない大金を手に入れてしまった。
一億円だ。一億円。なんだこの金額……。
「お、俺の就職してからの年収、普通に超えてるんだが……」
ブラック企業に勤めて、死にそうになりながら金を稼いでいたのが、馬鹿らしくなる金額だった。
「……なんかもう、今日はやる気が失せたな」
『では、現実に戻るとするか』
「だな」
俺の購入した奴隷、イージスに俺は伝言を遺しておく。
「イージス。おまえには世界扉で向こうに行ってる間の、この館の管理を任せたい」
「…………」
「イージス?」
「……承知した」
あら? いやにあっさりと納得したな。また下等生物がどうだのこうだのって反発されると思っていたのだが。
うーん、意外。
『なんだ、貴様。ついに我が主の寵愛により、言うことを聞く気になったのか? んんぅ?』
「勘違いするな! わらわは別に、貴様としとねをともにしたからといって、情が移ったわけではない! 断じて!」
あ、そう。
まあ別に、言うこと聞いてくれるなら理由はどうだって良かった。
「じゃ、帰るから、後テキトーによろしく。館の中にあるものは好きに使っていいけど、勝手にばあさんの私物を売るなよ」
いちおう奴隷魔法で、言うことを聞かせておこうかな。
「ふん。わらわがそんな、野蛮極まる行為はせぬ」
奴隷魔法が発動しない。俺の命令に背く行動、意思があれば発動するはずなのだが。
じゃあちゃんと言いつけ通り、この家の守りをしてくれるってこと?
意外すぎる……どしたんだマジで……。
「わらわは高貴なるエルフじゃ。物乞いや、盗人のマネはせぬ。それだけじゃ」
ああ、そう。なんだ俺に服従したのかと思ったんだが。
まあ簡単に言うことを聞いてくれはしないか。
ふと、いたずら心が湧いてくる。
「じゃあ、俺が現実に帰るときは、いってらっしゃいませご主人様♡ って可愛い感じで送り出してくれない?」
「…………調子に乗るなよ」
びきびき、とイージスの額に血管が浮かぶ。あら、まあだめかやっぱり。
だがイージスはぐぎぎぎ……と悔しそうに歯がみする。
『どうやら奴隷魔法が働いたようだなぁ~』
フェリさんすんごいいい笑顔。嫌ってる相手が悔しい顔をしながら、イヤイヤ頭を下げてくる。
スカートの足をつまんで、本当に嫌そうに、言った。
「い、いって……らっしゃいませ……ご主人様♡」
……一瞬ニコッと笑顔を浮かべた。それはまあ……びっくりするくらい美人だった。
女神と言われても遜色ない、そりゃあもう、綺麗な笑みだったのだが……。
「と、とっと消えろ……!」
またすぐに怒りの表情に戻ってしまった。もったいない、笑えばすごい美人だろうに。
『くーくく、いってらっしゃいませご主人様♡ ご主人様て』
「フェリ、あんまからかうな。じゃ、イージス。後頼んだぞ」
「ふん! さっさと立ち去れ!」
俺の屋敷なんだが……まあ、いいや。
世界扉を開いて、フェリと一緒にドアをくぐる。
一瞬イージスと目が合うも、ふんっ、とそっぽを向かれてしまった。
やれやれ、デレまでどれくらいかかることやら。
「っと、帰ってきたな」
マジで一瞬で帰ってこれるな。この力を持つ俺にとっては、異世界は近所に買い物に行くよりかるーくいける。
また、この長野県では、近くに買い物に行くのだって車で数分から数十分かかる。
コンビニだって都会のようにたくさんないしな。
つまり、ここにおいて異世界とはコンビニよりも気軽に行ける場所ってことになる。
「界人さん!!!!」
JKが俺に向かって飛びついてくる。
「お、おお……どうしたおまえら?」
「どうしたじゃないっすよ、すっごい心配したんすから!」
元漫画家の、
「数日家を空けるなら、そういってくださいっす! 何かあったんじゃないかって心配だったっすよ!」
「あー……すまん」
そういや、イージス買って、その後やりまくったから、こっちに帰ってこなかったんだよな。
いつもならすぐ言って帰ってくるから、向こうで怪我かしたって思ってしまったのだろう。
真実をそのまま告げるのはまずいので、俺はちょっと言葉を濁しながら言う。
「悪いな。いろいろあったけど、無事だから」
「うい……ところで界人さん、遅かったすけど何してたんすか?」
「狩りと、買い物かな」
「おお、狩りっすか。いくらくらい稼いだんすか?」
「え、ええと……」
まあ正直に言ったところで、この子らが金を盗むみたいなことはしないし、いいか。
俺は正直に金額を明かす。
「い、一億円ぅ……! す、すごい……!」
一発で信じてくれたJK。
「すごいです界人さん! 1秒で1億円稼ぐなんて! ちょっと前に話題になった、時給五億円稼いだ人なみにすげーっすよ!」
ああ、なんかあったな。VTuberで投げ銭で、そんくらい稼いだ人がいるって。
「界人さんはんぱないっす!」
わいわい、とJKが喜んでくれる。悪い気はしなかった。
特に、あのつんつんしてるイージスになれてたから、彼女たちの手放しの称賛が、より心地よく感じるのだった。
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