ベヒーモスさんそんな強いですか?



 さて、ベヒーモスを魔法でワンパンした俺。


「換金っと」


 俺には等価交換スキルがある。

 異世界の素材やアイテムを、現実の世界の円に換金してくれるというもの。


 もっとも、電子マネーでだけど、最近は電子でほとんど買い物ができるので、全然不自由しない。


『どれくらいの価値があるだろうかな』

「さぁ。まあでもワンパンで倒せたし、そんなでもないんじゃないか?」


 俺はステータスウィンドを開く。

 等価交換スキルを選択。


 死骸となったベヒーモスを選択し、OKを押す。

 ベヒーモスの肉片が消えて、俺の前に金額が表示される。


「ええと……なになに……いちじゅう……ひゃく……………………」


 お、おかしいな……?

 俺の、見間違えだろうか。


『主よ、どれくらいになったのだ?』

「あ、いや……なんか……ゼロがやばいくらいあってさ……」


 ¥100,000,000


『いくらだったのだ?』

「なんか……一億円って、書いてあるんだが……」


 いや、いやいやいや!

 一億って! ふざけすぎだろ。小学生の決めた、おままごとの金額じゃないんだから。


「もう一度冷静になろう……ええと、いちじゅうひゃく……」


 何回数えても、一億円なんですが!?


「な、なあイージス」

「なんじゃ?」


 俺の隣で黙ってみてた彼女に尋ねる。


「こ、古竜って……もしかしてめちゃくちゃ希少価値高いの? 強かったり?」


 くわっ、と彼女が目を大きく見開く。

 大きくため息をついて言う。


「……然り。古竜はSSランクモンスターじゃ」

「どんなもん?」

「Sランクは複数の街が滅ぶ程度の危機。【災害級】とも言われてるな」

「SSは?」

「国が滅びる程度の危機。【大災害級】。ちなみにSSSもあるが……これは、【世界滅亡級】もしくは【魔王級】と呼ばれてる」


 つ、つまり……俺は国を滅ぼすモンスターを倒したってことか……!


「じゃあ……一億円は、妥当な値段……なのか?」


 てゆーかそんなやべえモンスターが、なんでこんな森をうろちょろしてんだよ……。


『主よ、どうだった?』

「なんか、めっちゃ儲かった」

『具体的には? コンビニアイス何個ぶんだ?』


 すっかり現実の価値観に染まってきてるフェリ。

 だがまだ金銭感覚はないらしい。


「えっと……一生山ほど食っても、それでもまだあまりあるくらいの数の、アイスが買える」

『う、うぉおおおおおおおおお! す、すごいではないかー!』


 それで価値がわかるってどうなんだろうか……。

 ぶんぶんぶん! とフェリが尻尾を振りながら歓喜の雄叫びを上げる。


『これでまた美味しい物がたらふく食えてラッキーだなぁ!』

「まあ、そうだなぁ」


 つーか、あんなちょっとワンパンしただけで、一億稼ぐって……。やばいな。

 一分も労働してないぞ。異世界……イージーモードすぎない?


「…………」


 そんな俺の姿を、イージスは異質な物を見る目で見ているのだった。


    ★


《イージス視点》


(なんじゃ、あの化け物は……)


 イージスは、たった今ベヒーモスを討伐して見せたカイトを見て、そう感想を述べる。


 化け物。そうとしか言いようがない。

 イージスは知っている。ベヒーモスの脅威を。


 あの恐ろしい古竜は、魔法を完全に無効化する外皮を持っている。

 ゆえに、いにしえの時代から、ベヒーモスは討伐不可能の化け物と言われた。


 いくつもの国が滅びたと聞く。そんな化け物を、あの男はあろうことか、魔法を使って倒してみせたのだ!


(次元が違うってレベルじゃない……これが、まれびとの力……すごい……なんてものじゃない……)


 戦慄を禁じ得ない。あんなたいしたことなさそうな男が、こんなに強いなんて……。


「……っ」


 強いオスに惹かれかける自分がいて、己を律する。

 自分はエルフの国の姫だったのだ。


 人間ごとき下等なサルに、惹かれることなんて、あってはならないのだ……!


 ……そう思いながらも、少しばかりの胸のときめきを覚えたのは、紛れもない事実ではあったのだった。

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