エルフ奴隷、ケーキの美味しさに驚愕する


 エルフの奴隷イージスを、ベッドでわからせた。

 昼前。


「う……ううぅ……」

「おお、やっと起きたか」


 ふらふらとおぼつかない足取りで、イージスが館の食堂へとやってきた。

 彼女は顔を真っ赤にしながら、きっとにらむ。


 でもなんだろうな、あんまり怖くないや。

 昨日ベッドで散々、あんあん泣かせたからだろうか。どうにも悪い気持ちにはならない。


『男女の仲は寝て理解が深まるというしな』

「だ、黙れ犬! わ、わらわの魔剣技でたたっ切るぞ!」


 そういや剣使いなんだっけか、イージスのやつ。

 するとフェリがにんまりと意地悪そうに笑って言う。


『そんな生まれたての子鹿のように、足をぷるぷるさせといて、さてこのフェンリルを倒せるのかなぁ?』

「くっ……! こ、これはわらわのせいではない! そこの男の……」

『主の、ん? なんだ? その先を言うてみ? ほれほれ』


 イージスが悔しそうに下唇をかみしめる。

 エルフ耳が真っ赤に染まっていた。


『素直に言えばよかろう? 主のセックスが気持ちよすぎるのがいけないのだ、あんな大きな物で奥を……』

「こ、殺す……! 殺すぅううう!」


 イージスが右手を筒のように曲げる。

 すると光の剣のようなものが出現した。おお、なんだこりゃ。


 イージスは光の剣を持ってフェンリルに駆け寄ろうとして……。


「あ……」


 ふにゃり、とその場に崩れ落ちてしまう。


『どうした? ん? まだ昨日の余韻が身体に残ってるのか? んんぅ~?』


 フェリがイージスの目と鼻の先までやってきて煽りよる。


『ほれほれもう負けを認めたらどうだぁ? 我が主のアレは最高でしたってぇ』

「うるさい! だ、誰が認めるものか! あのような……あんなのでわらわが屈すると思ったら大間違いだからにゃ!」


 にゃ……にゃって……にゃ……。


「ま、まあまあ。これから仲良くしてこうぜ」

「だ、誰が貴様なんかとっ!」

『なあ娘っこよ。主に対して貴様はよくないぞ? そんな口をきいてるんじゃ、主が奴隷魔法を発動させてしまうのではないか?』


 うぐぐ……とイージスが悔しそうに歯がみする。

 別に奴隷魔法を使って、無理矢理言うことを聞かせるつもりはないんだが……。


 なんかあれ、痛いらしいし。逆らうと。


「……すみませんでした、カイト、様」


 本当に不服そうに、そう言うイージス。

 まあやっぱりこいつのなかで、人間に対する差別意識というか、下に見る意識があるんだろう。


 前は嫌な気分になったけど、今はさほど。可愛いとこも、昨日ベッドで見たからな。


「とりあえず仕事はまだいいや。飯に……といっても、もう昼ご飯終ったばかりだからな。デザートでもどうだ?」

「デザート、だと……?」


 ぴくん、とエルフ耳が小さく揺れる。

 感情に同期してるのかもな。昨日四つん這いになってたとき、うれしそうにぴくぴくしてたし。


「ふん。わらわは甘味には一家言あるぞ? なにせ宮廷にいたときは、世界中から美味を取り寄せていたほどだからな」

「ほー……甘い物好きなのか」

「うむ。わらわの舌を満足させたいのなら、最高級のオランゴを用意するのだな」


 また偉そうにそう言うイージス。


「オランゴ?」

『こちらの果実だな。世界で最も美味とされる……だが吾輩からすれば、あんなのカスだな』


 ふん、とフェリが鼻を鳴らす。

 イージスはその態度が気に食わなかったのか、眉間にしわを寄せる。


「貴様、わらわの好物を侮辱するのか!?」

『侮辱ではない、哀れだと思ったまでよ』

「なんじゃと!?」

『所詮は未熟な世界の未熟な食い物というわけだ。主の、現実のものと比べれば、カス同然よ』


 好物を馬鹿にされていきり立つイージス。

 またけんかおっぱじめても困るので、俺はアイテムボックスから、買っておいたものを、テーブルの上に置く。


「これは……なんじゃ? 見たことないが……?」

「それはケーキだよ」

「けーき……?」


 フェリ曰く、こっちにはスポンジケーキという概念がないそうだ。

 果物を切ってそのままハイ、とか。

 クッキーを焼いてハイ、とか。


 甘味についても結構未熟だそうだ。


「美味いから食ってみ。駅前で買ったケーキだけど」


 これは元いた場所、つまり東京でよく買っていたケーキだ。

 駅前にある【あるくま】っていう喫茶店のケーキ。


 あそこのはマジでおいしいので、田舎に引っ越した後も通っている。

 世界扉を使えば一発で、長野から東京へ行けるから楽だ。


「ふむ……見たことのない甘味じゃ。この白いのはなんじゃ?」

「クリームだよ」

「? よくわからぬが……こんなものが、美味いのか?」

「ああ、良いから食ってみろよ」


 いぶかしげな表情を浮かべながら、イージスはクリームを指ですくってみる。

 恐る恐るクリームを見ながら、ぱく……と口に入れる……。


「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」


 ベッドの上であげたのと、同じくらいの歓声をあげる(あっちは嬌声か)。

 エルフ耳が、それはもう、はち切れんばかりに振りまくっていた。


「何じゃ! なんと! なんと見事な甘み! このような美味なる菓子、生まれて初めてじゃーーーーーーー!!!!」


 立ち上がって椅子を倒しているのにも気づかず、イージスがケーキをガン見しながら叫ぶ。

 残ったケーキを手で掴むと、わしわしと食べていく。

 口の周りにクリームがべっとりとついていても、おかまいなしだ。


「うま……うますぎ……うぐ……ぐす……うぅうええ……」

「な、泣くほどか……?」

「こんな……うぐ……うまくて……幸せな気持ちになれる甘味……はじめてでぇ……奴隷になってから……辛い日々の毎日だったけどぉ……生きてて……よかったぁ……」


 ……まあ、こいつにもいろいろあったんだろう。 

 だから擦れてたんだ。多少の口の悪さは目をつむってやろうじゃないか。


「まだあるが、食べるか?」

「食べる! くれ! あ……」


 イージスはふるふる、と首をふるって、俺に言う。


「か、カイト……様……どうか、ケーキをおめぐみ、ください……」


 でもやっぱりこういうへりくだった態度は嫌であるらしく、すごい不愉快そうな顔でおねだりする。ま、いいか。


「いいよ、ほら食え」

「!!!」


 イージスは残りのケーキをものすごい勢いで食べた。

 目の端が垂れ下がり、両手でケーキを掴んで食べるその姿は……とてもじゃないがエルフの姫様には見えなかったが……。


 ま、おいしそうに食べる女の子は、可愛かったとだけ言っておこう。

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