商人にビー玉をどえらい値段で買い取ってもらえた



 俺は森の中で、モンスターに襲われてる馬車を助けた。

 

 数十分後。

 俺は馬車に乗っていた。


「いやはやありがとうございますぅ~。あなた様は命の恩人でございますよぉ!」


 俺の前に座っているのは、糸目の男だ。

 腰から黒い羽を生やしている。天翼族、という亜人種らしい。

 見た目は人間っぽいのに、鳥の翼を持ってるのだ。なんとなく、天使みたいだ。

 翼の色は黒だけどな。


「申し遅れました、ワタクシ、商業ギルド【銀鳳ぎんおう商会】でギルドマスターをしてます、【クゥジョー】と申しますぅ」


 天翼族の男クゥジョーがぺこりと頭を下げる。

 白スーツに、黒い翼。


 丸い眼鏡をかけていて、その瞳の色はうかがえない。


「俺は界人かいと。こいつは相棒の」

「フェンリル、でございますよねぇ」


 人間の姿になってるフェリを見て、クゥジョーがそう断定する。

 なかなか鋭い観察眼をお持ちのようだ。商人なだけある。


「あんま言いふらさないでな」

「ええ、ええ、もちろんでございます。命の恩人の頼みですからねぇ」


 さて、俺はこの銀鳳ぎんおう商会とやらのある、王都へと向かっている。


 ちょうど帰る途中らしいので、俺も乗せてもらっているところだ。

 

「あんた、奴隷とかって扱ってる?」

「それはもちろん! 高いのから安いのまで、若いのか年老いたのまで、なんでもそろえておりますよぉ」

「ならちょうどいい。俺は奴隷を買いたいんだ」


 まあ正直こいつ以外の商人でもよかったんだが、探す手間が省けたな。


「なるほどぉ……しかしうちの商品はどれも一級品ですが、その分少々、値が張りますよぉ」

「どんなもんだ?」


 クゥジョーが指を一本立てる。


「百万?」

「一千万ですよぉ」

「一千万!?」

「しかも、一番安くてそれですぅ」

「まじか……高過ぎだろ……」

「その分、いい女奴隷をそろえておりますのでぇ。あ、カタログありますよぉ、見ますぅ?」


 クゥジョーがポシェットに手を突っ込んで、中から羊皮紙のようなものを取り出す。

 なんだそのカバン?


■魔法カバン(D)

中が異空間となっており、アイテムなどを入れることができる。重量、数量制限あり。


 なるほど、なんか前に聞いたことあったな。

 しかし重量と数量制限があるのか。


 俺のアイテムボックスはどっちもないんだが……あれ、もしかしてものすごいスキルなのかも。


 気を取り直して、俺はクゥジョーからカタログとやらを見せてもらう。

 羊皮紙を開くと、じんわりとインクがにじんで、映像を映し出す。


「これは実際にうちの奴隷たちの映像を、リアルタイムに映し出したものです」


 画像は粗い。モノクロだし。

 でもそれでも伝わってくる、女奴隷達のレベルの高さよ。


 みんなモデルって言われても遜色ないくらい、きれいな姉ちゃんたちばかりだ。

 確かに……最低でも一〇〇〇〇万はうなずけるな。

 絵でこれなら、実物はもっとすごい美人だろうし。


 羊皮紙を巻いてクゥジョーに返す。


「マックスどんくらいなの?」

「高級奴隷となると、もっと高いですねぇ。億は行きます」

「さ、さいですか……」


 さすがに億は持ってないな。

 一千万もあったか? こないだマッチ売ってゲットした金でも足りないぞ。


 すると金がないのを悟ったのか、こんな提案をしてきた。


「お金がないのでしたら、売れるような商品やアイテムがあるのでしたら、買い取りますよぉ」

「え、ほんとか?」

「ええ……見たところ、とてもいい服装をしておりますしぃ」


 ただのシャツの上から、ばあさんからもらった紅のローブを羽織ってるだけなんだがな。


 てゆーか、こいつこのローブほしがってるのか。


「いや売れないから」

「そうですかぁ……残念ですぅ。他に何かございますでしょうか」


 他に売れそうなものか……。


 売るとしたら現実のものかな。異世界のアイテム……ばあさんのだし。

 どれも凄い効果を発揮するので、売りたくない。


 となると、アイテムボックスの中に入ってるもんを売るか。

 俺は適当に、椅子の上に、取り出して置いている。


「!?!?!?!?!?!?!?」

「どれか売れそうなもん……って、どうした?」


 クゥジョーが俺の取り出した品物を凝視してる。とりわけ、【それ】をじっと、熱烈に見ていた。


「か、カイト……さま。その……丸い、玉は?」

「え、これ? ただのビー玉だけど?」


 ホームセンターの駄菓子コーナーに、置いてあったのだ。

 網の袋に、大量にガラスのビー玉が入ってる。


 確か二〇〇~三〇〇円くらいだったかな、これで。


「よ、よく見させてください!」

「お、おう……どうぞ」


 さっきまで結構余裕の態度とっていたクゥジョーのやつが、急にめっちゃ食いついてきたな。


 俺はビー玉を袋ごと渡す。

 中身を摘まんで、しげしげと見つめる。

 クゥジョーはつけていた眼鏡を外し、食い入るようにビー玉を見ていた。


「し、信じられない……! なんだ……この精巧に加工された、宝玉は。最難関ダンジョンでドロップされる、竜玉か?」

「いや、違うけど」


 ただのビー玉、玩具だ。


「こんなにも美しく、精巧な球体。しかも材質はなんだ……こんな透明な、美しい、それでいて……こんなにも小さな……水晶なんて……ありえない。作れるわけがない……いったい、どんな技術で……」


 現実の技術ですよ、って言っても信じないだろうな。


「か、カイト様……ご提案があります」

「ん、なに?」

「この袋の中身、全部買い取らせてもらえないでしょうか」

「別に良いけど、いくらで?」

「我が商会の所有する、最高級の奴隷と引き換え、というのは?」 

 

 ほ……?

 へ……?


 さ、最高級の奴隷と、引き替えって……って、ええええええええええ!?


「マックス、億行くってさっき言ってなかったか?」

「はい。ですので、この袋の中身全部と交換で」

「いやいやいやいやいや!」


 それ、子供の小遣いで買えるもんだぞ!?

 それが、億で取引されるって、バグりすぎだろさすがに……!!!!!!!


「こんな見事な、小さく、美しい水晶を加工するなんて、通常は不可能です。それがこの数そろえてある。これはあり得ないことなのです」

「は、はあ……それで、億?」

「はい。どうでしょう。足りないのならこれにプラスして、奴隷の着るドレスや下着などもセットでお譲りいたします。それでも足りないのなら……」


 いやいや!


「十分だから!」

「ほんとですか! 良かった……! ありがとうございますぅう! それでは、王都に到着次第、最高級奴隷をご用意いたしますねぇ!」


 超上機嫌のクゥジョー。

 ばっさばっさ、と翼が動いていた。


 ……し、しかし、まじか。

 たかがビー玉で、まさか億いく最高級の奴隷を買えちゃうなんて……。


 異世界……恐ろしい……。 

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