奴隷、買おう
現実でのんびりして、暇になったので異世界に来た。
「ううーん……」
『どうした、主よ』
フェンリルのフェリが尋ねてくる。
「いや、なんかわびしいなって」
『わびしい?』
「ああ、こっちに来ても、誰も出迎えてくれないだろ、ここ」
異世界の扉をくぐると、そこはばあさんの洋館が広がっている。
しかし現実の家と違って、こっちには出迎えてくれる人が居ない。
一人暮らししてるときは、家に帰っても誰もいないのが当たり前だった。
けれど現実でJKと暮らすようになって、帰ってきて、おかえりって言ってもらえることに、喜び? のような物を覚えるようになった。
「異世界でお帰り言ってくれるみたいな、そんな人がほしい」
『しかし主よ、そうなるとこの館に異世界人を招くことになるぞ?』
「それなー、人に言えないようなもの、わんさかあるもんなここ」
家に置いてあるアイテム一つとっても、伝説級の物だ。また、ばあさんが残した魔導書も、読めば(読めればだけど)どんな魔法も一発で覚えられるやばいもの。
そう、あんまり人に明かせないようなものが、たくさんあるので、下手な人を置いておけない。
「現実に居る間に、盗まれてもこまるしな。なにせばあさんのだし」
どんだけ仲のいい人をここに作ったとしても、この超絶レアアイテムの山盛りを前にしたら、理性が揺らいでしまうだろう。売れば莫大な財産をゲットできること確定なんだからな。
ここで出迎えてくれて、かつ俺の言うことに絶対服従してくれる、そんな都合の良い存在……。
そんなものは、一つしか無い。
「奴隷買う」
『ほぅ、奴隷を』
「ああ。秘密を誰にも漏らさない、俺の命令を絶対に聞いてくれる人間なんて、奴隷しかいないだろ?」
『なるほど……主は異世界の金もたんまり持ってるしな』
そう、それだ。
異世界の金。
困ったことに、異世界の金(ゴールド)は現実の金(えん)に還元できない。
現実のアイテムを(マッチを)凄い大金で売ったとしても、この金で買い物が出来るのは異世界でのみ。
「余るんだよね、異世界の金。使い道がないっていうか」
『現実の代物は現実の金でしか買えぬしな』
「そう、だからこっちで金稼ぐのってまじで趣味みたいな扱いになってるわけ。でもせっかく金があるなら使っていきたいじゃん?」
『そこで奴隷か。主の考えは理解した。どうせなら、うんと高い上等な女を買おうじゃないか』
「そうだな……って、何で女?」
フェリがため息交じりに言う。
『逆に言うが、同性の奴隷なんて何が楽しい?』
「まあそうか」
奴隷を労働力や戦闘能力をあてにして買うわけじゃないからな。
あくまで癒やしと、屋敷の管理だし。
『いい女奴隷はそれだけでも高いらしいからな』
「そういうもんかい。てか人間の営みあんまり興味ないんじゃなかったの?」
『吾輩は耳が良いからな、否が応でも聞こえてくるのさ。人間の声が……』
そのとき、フェリの耳がぴくぴくと動いた。
『さっそくトラブルのようだな』
「森に人か?」
『うむ。人がモンスターに襲われておるな。どうする?』
「知ってしまった以上、無視は出来ないだろ」
俺が望むのは楽な生活。心の平穏を余計なことで邪魔されたくない。
幸いにして俺は凄い力を持っている。それをもっていて、人を助けられたのに、助けなかったら寝覚めが悪すぎる。
だから、排除させてもらおう。
「フェリ、案内よろしく」
『了解した』
たまにはとおもってフェリの背中に乗って、俺は現場へと向かう。
ばあさんの屋敷があった館を抜けて、森の外へと向かう。
すると馬車が、モンスターに取り囲まれていた。
「【鑑定】」
■上級オーク(A)
強い腕力を持つ大型の豚モンスター。オークの上位種。
敵の数は10匹程度か。
明鏡止水があるおかげか、おぞましいモンスターを前にしても、心や静かである。
「新しい魔法でも試してみるか」
ばあさんの家にあった魔導書を、俺は片端から読んでいった。
でも取得したはいいけど、使ってない魔法が多いこと多いこと。
いざとなったとき、使ったことがないだと困る可能性があるかもだから、積極的に使ってこう。
「【
俺は詠唱を破棄してどんな魔法も使える。
上空に雷の球体が出現。
そこから無数の、雷の槍が地上へと落ちる。
オークに正確に槍が刺さると、一瞬で黒焦げになって、炭になった。
「あら、何も残らん」
『主は賢者の称号を得てるから、魔法の威力が増幅しておる。そんな状態で中級雷魔法を使ったらああなるな』
「今の中級の魔法だったのか……」
いまいちこの世界の平均値とか常識がわからないから、加減が難しいな。
『かかっ! 強者のセリフだなぁ。さすが主だ!』
「どーも。さて、馬車は無事かね」
俺は助けた馬車の様子を見てみることにしたのだった。
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