俺は英雄にはなりたくない



 冒険者試験をクリアした。

 ギルド受付へと戻ってきて、受付嬢のエミリーさんからライセンスをもらう。


「これで今日から俺も冒険者か」


 ライセンスがあればどこの街へもただで入れるようになった。

 また、外国に行くときも面倒な手続きがなくて済むらしい。


 異世界にもいろんな国があるらしい。色々行ってみたいし都合が良かった。


「さて帰るか……」

「「「「おまちください……!!!!」」」」


 ギルドからでようとすると、4人が、俺に声をかけてきた。

 ええ、もう疲れたから帰ろうってときに、なんだよ。


「赤いローブのあなた!」

「あ、ああ……あんたは確か、門番のおっちゃん」


 俺がポーションを渡したおっちゃんだ。

 彼は泣きながら、俺の手をつかんで、何度も頭を下げる。


「ありがとうございます! あなたは命の恩人です!」

「え? な、なに……? 俺なにかしたか?」

「はい! おれの娘は、あなたからもらったポーションのおかげで、病気を治すことができました……!」

「え、ええー……そ、そうなんだ……」


 どうやら治療費がめっちゃかかる奇病にかかってたんだそうだ。

 で、俺があげたのが、ちょうど特効薬だったらしく、無事治ったと。


「本当に、本当にありがとうございました! どう恩を返せばいいか……」

「いいやいいって。良かったね治って」

「ああ……! なんと慈悲深い……!!! 素晴らしいお方だ……!」


 続いて、受付嬢さんが話しかけてくる。


「カイトさん! ぜ、ぜひ我がギルドの専属になってくれませんか!?」

「え、ええ……専属?」

「はい! ギルドに所属すると、依頼料が天引きされない等のメリットがあります! ぜひ! この街の冒険者に!」

「い、いやそれは……ちょっと……お断りしたいです……」

「そこをなんとか! うちには貴男が必要なんです! あとわたしと結婚してほしいです!」


 え、結婚……。いやそれ……はやくない?


「カイトさんの素晴らしい強さにほれました! ぜひ!」

「いやちょっとお断りしたいです……」


 ネフレさん、そしてモブカマーセさんも、彼らと同じ顔をしている。

 つまり……俺とお近づきになりたいって、そういうこと?


「お礼させてください!」「つきあってください!」「こっちも是非お礼を!」「君の弟子に是非!!!」


 ああもう……。

 め、めんどくせえ!


「悪いけど、全部お断りさせてもらいます」

「「「「そんな……!」」」」

「俺は自由がいいんで。じゃ! いくぞフェリ!」


 俺はフェリの背中に乗る。

 彼女は待ってましたとばかりに、風のごとく速く走り出した。


「「「「待ってー!!!!」」」」


 追いかけてくる彼らを、フェリは一気に引き離す。

 街の外にきたところで、俺は世界扉ワールドドアを使った。


 一瞬の酩酊感が襲い……。

 すぐに、現実の、俺の家へと帰ってきた。


「つ、っかれたぁ~……」

『お疲れ』

  フェンリルのフェリがねぎらってくれる。


「まさか、あんなに大騒ぎになるとはな」

『かかか! 仕方あるまい、主の魔法も現実のアイテムも、あの世界でとても貴重なものだからな』

「アイテムはわかるけど、魔法もなのか?」


 うむ、とフェリがうなずく。


『今は長く平和が続いているのだよ。かつて魔王がいた時代は争いが絶えず、魔法も剣の技術も切磋琢磨されていた。しかし平和な世になりそれらが不要となったために結果としてかなりレベルが落ちているのだよ』

「へえー……」


 魔王なんていたんだ。

 まあ争わなくて良いなら、戦いの技術なんて不要だからな。使わなきゃ腕は鈍る。


 ……とはいえ、昔がどれだけ技術が研ぎ澄まされていたかは知らんがな。


『それにしても、良かったのか? あの場から逃げて。主なら英雄になれたのでは?』

「ああ、まあ……そうかもだけど、別に英雄なんて目指してないしな」


 俺はそこそこの暮らしができればいいんだ。


 異世界を行き来できる力と、異世界チート能力のおかげで、現実でも異世界でも楽して金儲けできることがわかった。


 現実では、異世界で狩ったモンスターからドロップしたアイテムを換金すれば、大金が手に入る。


 異世界でも、こっちで安く買ったものを、向こうで普通に売るだけで大金がゲットできる。


「名声なんていらんよ。楽して、のんびり裕福な暮らしができる。それだけで十分」

『では……今後も英雄になる気はないと?』

「ああ。異世界では冒険者ライセンスゲットしたし、ぶらぶらするわ。行商して現地の金を手に入れて、現地のおいしいもの食ったり観光したり、たまにモンスターを狩ったり」


 現実では、今までできなかった趣味に興じてみようと思ってる。


「いずれにしろ、この力を誇示することも、これを使って大きく儲けるようなことはしないよ」

『ふむ……わからんな。人間とは地位と名声に固執するものではないのか?』

「人によるんじゃない? 少なくとも、俺はそんなのいらない。不要に嫉妬されたり、面倒ごとに巻き込まれるだけだからな。そんなのごめんだ」


 俺はリビングへと行く。


「あ、おかえりっすー界人かいとサン!」


 JKが俺の帰りを待っててくれていた。

 そう、金の余裕もあるし、家に帰れば可愛い彼女たちもいる。


 金にも困らないし、孤独にもならない。

 あくせく働く必要も無い。

 こういう楽な生活が送れるだけで、俺は満足してるのである。


「ただいま」

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