騎士団長、驚く


 飯山いいやま界人かいとが女騎士を助けてから、数時間後のこと……。


「ハッ!? こ、ここは……」

「団長!」「気づきましたか!」


 女騎士を取り囲むように部下達が座っている。皆一様に安堵の表情を浮かべていた。

 だれもが彼女の無事を喜び純粋に涙を流している。


 ……しかし、当の本人は自分が助かったことに対して戸惑いを覚えている。


「なぜ……私は生きてるのだ? 大鬼オーガの王に、食われて……いや……」


 気を失う前のことをぼんやりと彼女は思い出す。

 あの恐るべき化け物に殺されそうになったとき、どこからか、赤いフードをなびかせながら、一人の男が現れた。


 そして恐ろしい威力の魔法(※実際は火球ファイアー・ボール)で、敵を業火でなぎ払った。


 凄まじい強さ。あんな規格外の魔法力を持った人間が、この世に存在するわけがない……。

 だが自分は生きている。ということは、大鬼オーガ王を倒した人物は実在しているわけで……。


「は! そ、そうだ! なぜ私はここにいる!? 森で倒れたはずだ!」


 部下の一人が挙手して答える。


「自分が発見しました、村の入口で」

「入口……だと? で、では……誰が村まで?」

「村長によりますと、赤いローブを着た、黒髪の男だったそうです」


 界人は何も言わずに立ち去っていった。

 騎士団たちは突然の、謎の人物の登場にただ戸惑うしかなかった。


「しかし……何なのでしょうね、その赤い魔法使い様は?」

「バカ言え、ただの魔法使いじゃないぞ。空を飛んでいた、あれは失われし【伝説の古代魔法】のひとつ、【飛翔フライ】だ」


 ……そう。カイトは知らない、実は無属性魔法のいくつかは、使い手がとだえ【伝説の魔法】扱いされていることに。


 彼は気軽に空を飛んでいるが、飛翔フライの魔法は古代魔法に分類されるのだ。


「風で浮いてたんじゃないのか?」

「いや、自在に空を駆けていた。飛翔フライで間違いない」

「しかしそんな凄い魔法使いなら、もう賢者じゃないか」


 賢者。それは魔法を極めしものに贈られる称号。


 この世界での賢者とは、神域の八賢者プラネテスのこと。

 カイトの祖母もこの一人だ。


「伝説の賢者様がなぜこんな辺境に?」

「わからん……」


 部下達の間でも、謎の賢者の話題で持ちきりだった。

 賢者もまた伝説の存在。おいそれと現世に姿を見せない。


「紅の賢者様か……」「どんな人だろうか」


 結局、なにもわからず、彼らは帰ることになる。

 その道すがら……。


「団長、なんです、そのマントは?」


 馬車に乗る団長の、副官がそう訊ねる。

 彼女の手にはカイトが残したマント。


「賢者様が私に残してくれたのだ」

「団長。そのマントお貸しいただけないですか?」




 副官は袋からルーペのような物を取り出す。


【真実の目】。これは鑑定に用いるアイテムだ。道具に秘められた情報を読み取ることができる。

 ようは、鑑定スキルの付与されたアイテムである。


 副官がマントを、真実の目で見る。


「……! これは……」

「どうした?」

「……Bランク以上の、アイテムです」

「な!? なんだって!?」


 あり得ない、と驚愕する騎士団長。


「真実の目はBまでしか測定できません。おそらくは、Aか、それ以上のランクかと……」

「そんな、この世界で現存するアイテムの最高ランクは、Bだぞ? Bランクアイテムや武具を持ってるだけで、世界情勢がひっくり返るほどなのに……」


 それ以上のアイテムを、カイトが残していった。

 カイトからすれば、祖母の家にあったマントを、適当にあげただけだったのだが。


「これは……国宝級、下手したら伝説級のアイテムとなります」

「す、すごい……」


 本当に、何者なのだ……と騎士団長は戦慄するのだった。


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