人助けにすごい魔法使ってた(無自覚)



 俺、飯山いいやま界人かいとは祖母の正体について教えてもらった。


 翌日の出来事。

 俺はフェンリルのフェリといっしょに、異世界に来ていた。


『主よ、何をするのだ?』


 今はデカいわんこ(※フェンリル)の姿のフェリが俺に尋ねてくる。


「いよいよ、森の外に進出してみようって思ってさ」


 異世界に来る力を手に入れてから今日まで、俺はまだ、洋館の周辺しか見たことがない。


 スライムをテイムしたり、魔法を修得したりして、準備は十全に整えた。


「これなら外に行っても問題ないかなって」

『かかっ! 主は面白い冗談を言うなぁ』

「冗談?」

『まあそれは下界に行けばわかるころだろう。我も同行しよう……して、主よ。その赤いローブはなんだ?』


 俺は今、普段着の上から、深紅のローブを身に纏っている。

 遠巻きに魔法使いに見えなくない。


「今日ここに転移してきたら、ばあさんからって置いてあったんだよ」

『ほぅ、世界魔女の。ステータスは確認したのか?』

「ああ、とんでもなかったよ……」


・救世主のローブ(SSS):全属性耐性を付与。神威鉄オリハルコン以上の耐久値を付与。布で覆われていない部分への攻撃も防ぐ。自動修復、自動洗浄機能付き。


「なんだこの無敵の鎧……」

『かかか、溺愛されてるなぁ、我が主は』

「ちょいと過保護すぎるのが玉に瑕だけどな」


 でもばあさんが俺のために作ってくれたんだ、ありがたく使わせてもらおう。


「フェリ、まずは人里を目指したいんだけど」

『この森から一番近いのは、アインの村だな』

「じゃあそこを目指すか」


 俺は無属性魔法【地図マッピング】を使う。

 目の前に透明な板が出現。


 そこには周辺の地図が表示される。

 さらに、暴食王スライム・キングを分裂させ、先行偵察部隊として送り込む。


『いやに慎重だな?』

「だってモンスターが出てきたらやばいだろう?」

『主なら問題ないが……まあ吾輩は主に異を唱えるつもりはない。好きにするが良い』


 とても従順なフェンリルだ。

 もっとこう、偉そうだと思ってたし、実際最初にあったときはもっと偉そうだったんだがな。


『くく……吾輩の胃袋は、主に掴まれておるからな……』

「そんなに現実のメシ気に入ったのか?」

『うむ、主の作る料理は天上の一品だからな!』


 俺程度の男メシでこんだけ喜んでいるんだったら、高級料理とか食わせたらきっと腰抜かすんじゃなかろうか。

 その姿を想像して、ちょっとウケる。今度連れてってみようか。


「ん? これは……」

『どうした、我が主よ?』


 地図上に赤い点と、青い点が表示される。


『それぞれどういう意味だ?』

地図マッピングによると、赤が敵、青が敵意なしの第三者」


 先行させているスライムと視覚を共有させる。

 そこには、デカい鬼と戦う、女騎士がいて戦闘中だった。


「モンスターに人が襲われてるな」

『うむ、では無視してよいな』

「いやいやいや……さすがにこのピンチの状況で、見て見ぬふりとか、寝覚めが悪すぎるだろ」


 女騎士は手負いのようだし、鬼の方は……。


「【鑑定】」


大鬼オーガ王:大鬼オーガの王。レベル90。


「なんかレベル低くね? 二桁台だし……」


 俺のレベルは9999。俺と比較するとどちらもどっこいどっこいだ。


『くくく……』

「何がおかしいんだ?」

『いや、ところでほれ、助けるなら早うしたほうがいいのでは?』

「そうだな。よし、助けよう」


 俺は無属性魔法【飛翔フライ】を使う。

 文字通り体を浮かせ、飛翔する魔法だ。

 フェリは地上から追いかけるそうだ。

 まあ彼女は強いみたいだし、一人にしても大丈夫だろう。……そういや、神獣のレベルってどんなもんなんだろうか。


 俺は空中から魔法を使う。


「【火球ファイアー・ボール】」


 離れた位置からの、下級魔法。

 それでも結構な威力があり、大鬼オーガ王をぶっ飛ばした。


 近くに居た彼女が傷付かないよう、無属性魔法【結界バリア】を使って防いである。


『くく……相変わらず規格外の威力だな、さすが我が主』


 フェリの声が俺に伝わってくる。

 彼女の頭の上には、分身させた暴食王スライム・キングが乗っている。


 五感を共有できるので、こうして通信機器のように使うことができるのだ。


「大丈夫か、あんた?」


 俺は地上に降りて、騎士のもとへ向かう。

 彼女は俺を見て気を失った。


「っと、まずは治療かな」


 俺はばあさんのとこで、いろんな魔法を習った。

 攻撃だけじゃなくて、回復の魔法も当然修得済みである。


 結構ボロボロだ。

 鑑定スキルで見たところ、体の骨があちこち折れている。


 また右目が潰れてしまっていた。


「怪我を治すなら……光の魔法だな。【回復ヒール】!」


 骨が戻り、潰れた目も元通り、さらに失った血も戻った。


「異世界の治癒魔法すごいな。下級の治癒で骨折から部位欠損まで治るなんて」


 比較対象がいないから、この世界での標準的な効果がわからんな。


『くく……愉快愉快~♡』


 フェリがなんかニヤニヤ笑っている。

 

「なんだよさっきから」

『ふふふ、今からぬしの驚く様を想像するとな』


 よくわからんが、まあいいや。

 俺は女騎士をお姫様抱っこして、飛翔で村へと向かう。


「すみません」

「ん? あなたは……?」


 村の入口には、若者が立っていた。

 多分門番だろう。


「この人、ちょっと気を失ってるみたいなんで、介抱してあげてくれませんか?」


 ぎょっ、と若者が目を剥いている。


「き、気を失ったって……いったいどこで?」

「そこの森の中でですけど」

「なっ!? あ、あの森でですって!?」


 何を驚いてるんだろうか……。

 

「ちょ、ちょっと村長呼んできます!」

「え!? そんな大げさな……って、行っちゃった……」


 なんなんだろうか……。

 村長って、そんな大事にしなくていいのに……。


「ううん、面倒だ……」


 あんまり大事にして欲しくないし、俺はこれから、探検が待ってる。


「…………よし、置いてこう」


 俺は彼女を村の入口に、そっ、と寝かせる。

 モンスターの攻撃を受けて、彼女の服が開(はだ)けていた。


 俺はアイテムボックスから、適当にローブを取り出して、彼女の体にかける。


「じゃ!」

「あ! お待ちくだされ……! って、えええええええ!? と、飛んでるぅううううううううう!?」


 俺は飛翔を使って、アインの村を去ったのだった。

 ん? 最後、村長っぽいじいさん、なんで驚いてたんだろう……?

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