世界魔女のラブ・マリィ(※祖母)の正体



 俺の家に、祖母の万里ばあさんがやってきた。


「ば、ばあさん……!!!!」


 知らず、俺はかけだしていた。

 ばあさんがロリだとか、全然気にならず、ただ突っ込んで抱きしめていた。


「おやおや……なんだいこの子は?」


 ばあさんが優しい声音で俺に話しかける。

 ぽんぽんと背中をさすってくれるその仕草は、記憶の中のばあさんそのものだった。


「そんなに、あたしに久しぶりに会えたのがうれしかったのかい?」


 ! そうか……

 なんで、抱きついてたのかわかった。


 失踪扱いだったばあさん。

 しかも、死んだと思われていたし、俺もちょっと……いや、かなりそう思っていた。


 でも、ばあさんは生きていた。

 だから、嬉しかったのだ。


「……別に」

「素直じゃないねえ、この子ってば」


 しかし……久しぶりに見るばあさんは、全然別人になっていた。

 紫色の髪は一緒だけど、どう見ても10歳の外見。

 くりくりとした目に、ぴちぴちの肌は、どう見ても幼女!


 話は、数分後。

 万里ばあさんはゆったりとした、魔術師のローブみたいなものを身に着けている。

 体にはじゃらじゃらとしたアクセサリーを身に着けていた。


「ちょうど風呂に入ってたらな、カイトの作るうまそうな飯のにおいがしてねん♪ 転移で飛んできたんだよん」

「だ、だから風呂場から一瞬でいなくなったのか……」


 リビングには俺、麗子、なぎ、そして人間姿のフェリがいる。

 フェリは飯を食い終わってご満悦なのか、畳の上で丸くなっていた。


「てか、ばあさん。なんで幼女に?」

「転生したんだよん」

「て、転生?」

「うん。前の体は結構もうガタがきてたからねん♪ 転生して新しいからだになったのさ」


 そんなほいほい、転生なんてできるもんなのか……?

 すると漫画家のなぎが、万里ばあさんの頬をつつきながら言う。


「確かに、すごい魔法使いが転生して未来の世界で無双みたいな話、結構あるじゃないっすか。あれっすよ多分」

「ああ、なるほど……じゃあほんとに、万里ばあさんなんだな?」

「そうだよーん♪ 見た目は幼女、中身はババア、まごうことなきロリババアだねん♪」


 し、しかしまじで、すごい魔法使いだったんだな……。

 いや、まあ異世界へ行き来する力とか、アイテムとかから、わかってたけども。


「ばあさんあんた、前から聞きたかったんだけどさ。魔法使いだって、どうして今まで黙ってたんだ?」

「そりゃ、信じたかい? あたしが魔法使いです! ってカミングアウトして」


 それは、たしかに。

 ただの頭おかしい人になってしまうな。


「異世界につれてけば、証明になっただろ?」


 何の証拠もなしに、自分が魔法使いだとか、異世界最強の魔女だとか言われても、信じなかっただろう。

 でも実物を見せてもらえば、さすがの俺も信じたのに、ばあさんはそれをしなかった。


 ばあさんは苦笑した後に言う。


「あたしはね、カイトには普通の人生を歩んでほしかったのさん」

「普通の……」

「うん。普通の。平凡な人生を、平凡な幸せを、享受してもらいたかったのよん。確かに、魔法とか、スキルは便利だし、人からチヤホヤされるけどねん。面倒事も、増えるんだよん」


 言われてみると、たしかにそうか。

 こんなすごい魔法の力、世間にばれたら大騒ぎだ。


 人体実験されたり、力を欲した権力者から命を狙われたりするかもしれない。

 それよりは、何物でもない、普通の人間として生きたほうがいいと、ばあさんは思って、異世界のことを、そして自分のことを、黙ってたんだろう。


 まじで、優しい人だよな、この人。


「まあもう当事者になっちゃったからねん♪ カイト、これからは気を付けるんだよん♪」

「ああ……」

「さて、ほかに聞きたいことはないかい? あたしも忙しくて、なかなか会えないのよん?」

「ええと、そうだな。ばあさんは何やってるの? 現実にいるの、異世界にいるの?」

「現実にいるよん。【調停官】をやってるの」

「ちょーてーかん……?」


 なんだそれ、聞いたことない単語だな。


「【超越者】たちが、悪さしてないか見張ってるのさん」

「ちょ、ちょっとちょっと! 多い多い! 情報量が!」


 調停官? 超越者?

 初耳すぎる。


「超越者とは、異世界から現実に、転生してきた人たちのことだよん」

「! い、いるの? 向こうから、こっちに来る人……?」

「いるいる、結構ねん」


 アニメとか漫画だと、現実から異世界に転生、転移する連中ってよく聞くけど(フィクションだけど)。

 そ、そうか、逆もあるのか……。ファンタジーの住人が、日本にいることが。


「でもたいていの元異世界人たちは、魂が漂白されて、記憶を失ってるのさん。でもね、力を持ってたりするのん」

「力って……魔法とか、スキルとか?」

「そうそう♡ 力を持つ元異世界人たちを、超越者っていうのよん。あたしはその彼らが、自分の前世を思い出したり、また力を使って悪さしないかどうか、取り締まってるのさん」


 なるほど……。

 つまり、超越者っていうのは、まれびとである俺と逆の存在ってことだ。


 異世界に行ける現実人が、まれびと。

 現実に来た元異世界人が、超越者。


 彼らは異世界にいたときの記憶がないが、特殊能力を持っている。それは現実でいえば危険なもの、だから、万里ばあさんが取り締まってると。


「たいていの超越者たちは、自分が元異世界人だって気づかずに、ごく普通の人間としてくらしてるのよん。ほら、たまにすごい才能持ってる人っているでしょ? アスリートとか、将棋の棋士とかで」


 たしかに若くしてメジャーリーガーになってるひとや、中学生でプロ棋士やってるひとは現実にはいる。

 歴史上にも、すごい曲や絵を残してる芸術家たちがいる。


「って、まさかその人たちって、元異世界人……超越者なの?」

「そ♡ まあ彼らが成功を収めているのは、異世界の能力がすべてじゃなく、本人のたゆまぬ努力も影響してるけどねん」


 まじか、俗にいう天才たちは、超越者かもしれないってことか。


「日本にも、いるの?」

「おるよ。新しい超越者を見つけてくるのもあたしの仕事さ」

「へえ、たとえば?」

「そうだねえ……こないだ見つけた超越者は、ら、らの……らのべ? とかいうの書いて、大成功してたね」


へえ……ラノベ作家にも超越者いるんだ。

 どんな人だろう?


「変な名前だったねえ、う、うえ? 上松うえまつ、って高校生だよん。東京に住んでた。あれ読み方違ったっけ?」

「ふーん……うえまつ? 聞いたことないな……あとは?」

「そうだねえ、自分の代で財閥をゼロから築き上げた億万長者の男や、いんたーねっと? で何をやっても炎上しない男とか、とにかくたくさんいるんだよん」


 異世界のスキルや魔法は、莫大な金や利益を生むみたいだ。

 まあそりゃそうか。俺だって異世界の魔法で、楽して暮らしてけてるわけだし。


「自覚のない超越者たちはいいのさ。問題は、それを意図して悪用しようとしてるやからだよん」

「やっぱ、いるんだな、そういうやつら」

「そうだね……だからこそ、調停官が必要なのさ。悪い超越者たちを、こらしめるためにね」


 ……さも、当然のようにばあさんが言ってのける。

 異世界スキルを使った犯罪者の、取り締まり。


「ねえそれって、いつからやってるんだ……?」


 ばあさんは、転生できるほどのすごい魔法の使い手だ。

 でも、転生は今回が初めてじゃないのだろう。


 歴史の教科書を見てると、たくさんの天才たち、偉人達がいる。

 その人たちがみんな超越者だとしたら……?


 いったい、いつからばあさんは、調停官として、活動してるのか?

 ひとりで、そんな大昔から、大変な仕事をしているとしたら……。


「……やさしいねえ、カイトは」


 ばあさんは微笑むと、近づいてきて、ぎゅっと抱きしめる。


「あたしはね、別に苦なんて思ってなよん。自分がやりたくてやってるんだ。大好きな孫のいるこの世界を、あたしは心から愛してるからさ」

「ばあさん……」


 大変なことをしてるのは明らかなのに、彼女は苦労を一切見せなかった。俺が24になるまで、ずっと。

 孤独に戦ってきただろう彼女が望むのは、俺たち一般人の平穏。


 すごいことだと、俺は深く感心した。


「やっぱ、ばあさんはすげえんだな」

「はは! うれしいねん。あ、そろそろ時間だ」


 よいしょ、とばあさんが立ち上がる。


「じゃ、あたしは仕事に戻るよん♪」

「あれ、もう行っちゃうの?」

「うん。日本に来たんは、さっき言った、新しく発見された子が、すごい力を使ったって感知したから、きただけ。でも彼は悪い子じゃないし、自分が超越者だって気づいてない、安全な子だって確認が取れたから、もう日本での仕事はおしまい。次の子を見に行くのよん」


 結構、現代には超越者、元異世界人はいるんだな……。


「また、また会える?」

「うん♪ もちろん♡ あたしはカイトが、だぁいすきだからねん♪」


 ばあさんは微笑んで、俺の頬にキスをする。


「じゃ、新しい生活を謳歌するんだよん」


 ふわり、とばあさんの体が浮く。


「あ、そ、そうだ。俺も超越者ってことだろ? 取り締まらなくていいの?」

「うん。カイトは、悪い子じゃないってわかってるしねん。じゃ!」


 パシュ! とばあさんが消える。

 いってしまった。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに……。


 少女が、じぃっと俺を見つめていた。


「な、なに?」

「いやぁ、界人サン、まじですごい人物だったんすね」


 今まで、あんまり自覚なかったけど、世界の平和を秘密裏に守っている魔女の孫だったわけで、俺……。

 もしかしてじゃなくても、すごいことだったのか?


「え、えっと……このことは、内密に、な?」


 こうしてばあさんはまた、どこかへと去っていったのだった。

 この力は、悪いことには絶対使わないって、俺は改めて、そう思ったのだった。

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