12.カレー作ったら大絶賛される



 俺は現実に戻ってきた。

ホームセンターで買い物をしてから帰宅。


「おかえりなさい、界人さん♡」

「おう……ただいま、なぎ」


 同居してる元漫画家のJKなぎだ。

 いつの間にか一緒に住むことになっていた。


 どうやら俺がファンタジー世界を行き来してることに、興味を示したようだ。

 まあ、好きにすれば良い。

それに一緒に住むからと言って、なぎに対してどうこうするつもりはないしな。


「おうちのお掃除しておきました! それと、お料理もできてるっす!」

「おお、まじか。ありがとう」


 ……で、リビングに移動したわけだが。


「…………こ、これは」

「カレーっす!」


 リビングは、和室になってる。

 ちゃぶ台の上には土鍋があり、その中には、黒々とした鍋が置かれていた。


 となりでフェンリルのフェリが、あおむけになって、白目剥いてる。


「だ、大丈夫かフェリ……?」


 はっ、とフェリが目を覚ます。


『主よ!』


 だきっ、とフェリが俺に抱き着いてきた。で、でけえよ……。


『こやつ、料理、下手!』


 ストレートになぎの料理をなじる。 

 まあ、見た目だけでまずそうとは思ったんだが。


『こんなくそまずいもの生まれて初めて食ったぞ! 死ぬかと思ったわ!』

「ご、ごめんなさい……フェリちゃん」


 ぐるるる、と威嚇するフェリを俺はなだめる。

 まあ漫画のこと以外てんでだめだから、なぎは。


「俺がご飯作るから、気を静めてくれよ」

『うむ! それがよい!』


 一転して、フェリがしっぽをぶんぶんぶん! と激しく振る。

 どことなく大型犬を想起させた。いやまあ、大型犬なんだけどさ。


「界人さん、すみません……うち、役立たずで」


 まあ飯作れないのはしょうがない。子供だし。


「気にすんな。風呂でも入ってな」

「うっす!」


 なぎがふろ場へと向かっていく。

 

『吾輩はテレビでも見てくるかな!』


 すっかり現代になじんでるな、大型犬さんは。

 俺はリビングへ行き、なぎが作った失敗作のカレーを回収する。


「ん? 食べかけの皿が、2つ?」


 フェリが食ったのは聞いたが、もうひとつは、誰が食ったんだ?


「フェリ、おまえ以外に、誰かカレー食ったか?」

「? いいや、吾輩だけだぞ?」

「じゃあ、これカレー食ったの、誰……?」


 まあなぎが自分で味見したんだろう。

 そうじゃないと考えられないし。


 キッチンへ移動し、鍋をシンクの中に置く。


「カレーでも作るか。簡単だし。……鍋は、買いなおし、いや、魔法で直すか。【修復】」


 無属性魔法の修復を使う。

 これは壊れたものを元に戻す魔法だ。


 黒こげの鍋がみるみる直って、新品同様になった。おお、便利。

 次に、俺は冷蔵庫の中を見やる。野菜などはストックがあったけど、肉がなかった。


「肉はー……あ、そうだ」


 俺はアイテムボックスを開く。

 収納しているアイテムの一覧が、俺の面前に、半透明の板となって出現する。


・黒王竜の肉(SSS)


異世界に来て初めて倒した竜の肉を、ドロップ品として回収していたんだった。

これを使ってみるか。


 鑑定スキルで食用できることを確認した後、俺はカレーを作る。


 とんとん、ぐつぐつ、じゅーじゅー。


「よし完成。できたぞ~」

『きたーーーーーーーーーーーー!』


 リビングへ行くと、フェリがテーブルに手をついて、今か今かと待ち構えていた。

 鍋をテーブルの上に置いて、炊飯器をキッチンから持ってくる。


『はよう飯にしよう!』

「いや、みんなそろってから……」

『まちきれぬ! 今全部ぺろっと食べてもよいのだぞ!?』

「わかったわかった。おまえの分だけ先によそっとく」


 俺はカレーを1人前作って、フェリの前に出す。

 がつがつがつ! とフェリがカレーを掻き込んでいく。


『ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡』


 フェリのしっぽが、ぶわっ、とまるで竹ぼうきの先端のように膨らむ。


『うーーーーーまーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!』


 またも口からビーム出すのかと思ったが、どうやら空気を読んでくれたらしい。

 現実でそれやられたら、警察沙汰だからな。


『うまい! うますぎるぅ! なんだ、なんだ、これ、うま、すご! うま!』


 がつがつがつがつ!

 あっという間に、フェリが一皿食べてしまった。


『主よ! 天才! おぬしは料理の天才だな!』

「大げさだろ。ただのカレーなのに」


 俺は上京してから会社をクビになるまで、ずっと一人暮らしだった。

 一通りの家事はできるし、自炊もしていたので、飯も作れる。


 ただ作れる飯は、ほんと俺一人が楽しむために作ったものなので、あんまり凝った料理はつくれない。天才って言われてもな。


『いや! こんな世界レベルで美味なる料理を作れる、主は天才だ! すごすぎる!』

「お、おおげさだなぁ」


 まあたぶん異世界人(犬?)であるフェリからすれば、カレーは未知の食べもので、刺激的だったんだろう。

 それでも、作った料理にここまで喜んでもらえるのは、うれしいもんだな。


「うんうん、さすが我が愛しのカイト♡ 料理も上手になったねん♪」

「はは、だろ……え?」


 フェリの隣で、見知らぬ幼女がカレーを食っていた。

 紫色のショートカットで、どう見ても10歳前後の幼女が、我が物顔で飯食っていた。


「だ、だれ!? あとなんで全裸!?」


 肩からタオルをかけているだけで、ほぼ全裸の幼女が、うまうまとカレーを食っていた。


「あん? なにを驚いてるのん♪ 愛しの孫よ♪」

「孫……?」


 とそのときである。


「か、界人さん!」


 どたばた、と女子高がかけてくる。


「い、今なんか変な幼女が、我が物顔でお風呂に入ってたっす! し、しかも風呂場から一瞬で、煙みたいに消えちゃいました!」


 なぎが、全裸の幼女を見て悲鳴を上げる。


「こ、この子っす! 界人さん、誰ですかこの人!?」

「いや、俺も、知らないんだが……」


 するとカレーを食べていた全裸幼女が、きょとんとした表情になる。

 しかし何かに気づいたのか、笑いながら言う。


「あたしだよん♪ 万里ばあちゃん♡」

「………………………………は?」


 ま、万里、ばあちゃん?


「え、う、うそ……?」

「嘘じゃないよん♪ 暇ができたから会いに来たぜ♪ ああん、かいと~!」


 全裸幼女が俺に抱き着いてきた。

 明鏡止水が発動してなきゃ、戸惑っていただろう……しかし、まじでばあさん?


 いや、でも魔法で消えたっていうし……。

 ばあさんは、ばあさんで、見た目老婆だったのに、この子は幼女だし。


「会いたかったぞ~い♪」

「ほ、ほんとにばあさんなら……万里ばあさんの好物答えられるか?」

「竹風堂の、栗ようかんだよん!」

「お、俺の好物は?」

「巨乳の女だよん♪」


 おいいぃいいい。


「巨乳の……女……」


 女子高生が自分の胸をぺたぺた触ってる。やめて。

 フェリは、俺たちにわれ関せずと、カレーをうまうま食っていた。


「ま、まじで万里ばあさんなの?」

「そう言ってるよん、最初から♪ ひさしぶりねん♪」


 ……俺の家に、飯山ラブ万里がやってきたのだった。

 幼女の姿で、なぜか。

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